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六月
かっての部下であった辰也(パラオ編のアホな奴です)より久しぶりに電話が来た。
「ご無沙汰してます。元気でしたか?」
「まあまあだね。ところでなんだ?」
「四五日休暇が取れそうなんですよ。旅行に行こうと思うんですが何処かいいところはありませんか?」
「沖縄へ行け」
「沖縄ですか?」
「そうだ」
「そんなにいいですか?」
「一人か?」
「ええ」
「ただの観光旅行ではつまらないだろう。Cカードを取って来い」
「何ですか、それ?」
「スキューバーダイビングのライセンスのようなものだ」
「いいですね」
「この近辺で取って沖縄へ潜りに行くことを考えたらお得感はあるぞ」
「・・・・・・!」
こうしてまた一人、ものがものだけにドップリ漬かる奴が誕生した。
七月
ダイビング器材が到着した。
しかしワンセットではバディシステムは取れない。そもそも周囲に私以外のダイバーがいない。
講習からすでに三ヶ月が経っていた。多少の不安もある。
夕刻と言うにはまだ充分陽が高い。
50mプールに器材を持ち込んだ。
セッティング。完璧だ。手順は全く忘れていない。
ジャイアントストライドで飛び込む。BCのエアを抜く。
潜行。フィンワーク。
珊瑚も色とりどりの魚もいないがけっこう楽しい。
50mのプールをくまなく泳ぐ。
マスククリアー。ウェイトベルトの脱着など一通りのことを思い出しながらやってみた。
結果はよし。身体がしっかり憶えていた。浮上。
ヒポポに器材を渡す。装着。・・・様になっていない。サイズが少々大きすぎるので仕方がない。
使用方法は一通り教えてあった。
「飛び込め!」私の掛け声にヒポポはぎこちなく一歩を踏み出した。水音。
私もマスクを装着。プールに入った。よく発達した大腿部が眩しい。
「レギュレーターを咥えて」ヒポポはレギを咥えた。
「ゆっくり呼吸をしてみろ」
頷く。
「BCのエアを抜いて」
もう一度頷いた。
「潜行」
ヒポポはゆっくりプールの中に沈んだ。
私。オープンウォーター。ファンダイブ経験無し。だがすでに自称弟子?が一人。
ヒポポ。二十二歳。女性。広い意味での同僚。以前よりダイビングに興味があり本日のプール実習となった。
素人同然の私であったが安全面に関しては充分考慮していた。プールの水深1.5m女性でも立ち上がれば何の支障もない。
そして私は一通りの救助方はマスターしていた。救助経験もかなりの数があった。
この後、ヒポポは数回プールでのダイビング体験をした。秋になってダイビングスクールへ行くこととなった。
八月十日 ファーストダイブ
秋まで待ち切れなった。ポイントに不満はあるがとりあえずファーストダイブ決行。
海岸のオフィスの前でセッティング。
「この辺で潜れるのですか?」と、二十歳くらいの女性。
「そういう質問をすると言うことは君もダイバーかな?」
「そうです」
「ここはずーっと沖まで砂地が続いていてファンダイブには適してませんよ」
『じゃあ、何故?』と言う顔をした。
「これはね、君が行方不明になったときの捜索用だよ」
「・・・・・・」
海水浴場でダイビングのスタイルをしていると何か異様だ。
が、周囲のことは気にせずにエントリーをした。
タンクを背負って波に逆らって歩くのは決して楽ではない。
水深が1mを越えたところでフィンを装着。
目標は200m先の境界ブイ。波の中でのシュノーケリングは辛いものがある。
レギと交換。10分ほどでブイに到着。
本来はバディを必要とするのだが諸事情により単独潜行。
気温27°、水温18°、透明度は期待できない。
BC のエアを抜いた。沈まない。ウェイトは6kg。講習時より重いのだが・・・。
スチールタンクとアルミタンクの差が+1kgの鉛では相殺されなかったのだ。
講習では浮力を消して足先から。つまり直立姿勢で潜行するフィートファーストであった。
『!。素潜りの要領で潜ればいい』とすぐに気づいた。
ヘッドファースト。海底に向かった。水深8m。
思った通り水平方向への透明度は1mにも満たない。視界不良潜行だ。本来ならばステップアップしてからの潜行であるべきだが。
しかし、私は幼い時から素潜りではあるがこの程度の潜水は何度も経験していた。
水中で呼吸できるだけより安全と云えないなろうか。
何もない。ただ濁った水だけである。
浮上。戻ることにした。
水面移動ではつまらない。コンパスを頼りの水中移動で帰還することとした。
底の流れがキツイ。磁針がくるくると回って安定しない。と言うより私の身体が翻弄されているのだ。
浮上。もう一度騎士を確認。潜行。
フィンキックを強めにして流れに逆らう。コンパスのチェックは頻繁に行った。
50mも進むと海底にくっきりと砂紋が確認できた。これからはこれを垂直に横切って行けばよい。
水深がだいび浅くなってきた。渚まであと僅かだ。タンクを背負った背中に波を感じる。
水深2m視界の中に時々海水浴をする者の脚が視える。
浮上。追い波を何度も受けた。レギがやけに後方に引かれる。振り返った。
タンクがハーネスから外れていた。
『あわてない、あわてない』波打ち際はすぐそこだった。
両腕を後ろに廻してタンクを抱えた。
記念すべきファーストダイブ。これにて終了。
午後になってオフィスに電話がかかって来た。ヨットのメンバーのHからだった。
「舫いロープが切れているよ」
「ハーバーマスターに伝えろ」
「有料だと言うんだよね。それに『自分で出来るでしょう』だって」
「解った。こっちが終っってから行く。五時半まで待て」
スターン用の係留ロープ。この際だから両舷とも交換することにした。
↑ 左 シンブル 漁師の通称:桃環(モモカン) ↑ 右 シャックル 漁師の通称:シャコ
シンブルにロープをアイスプライスで組み込む。二本作った。
ダイビング器材を車に積み込んだ。
五時半。勝浦ヨットハーバー。Hが連れの若い男と待っていた。
急いでセッティング。すでに夕闇が迫った港の中に潜行。
気温23°。水深5mで水温17°。けっして暖かくは無い。
係留策を停めるためのチェーンを捜す。海底は海藻が繁茂していた。イシダイの幼魚が群れていた。それを掻き分けた。
シンブルにシャックルを通す。チェーンにシャックルのシャフトを通す。浮上。
※→ロープが付いてませんが。
艇の上からリープの端末をHに引かせる。確認。少々ずらすことにした。
再び潜行。シャックルの位置を移動。浮上。確認。
三度目の潜行。プライヤーで十二分に閉め込む。ステンレスワイヤーで緩み止め。一本終了。
休む間もなく二本目に取り掛かる。全行程40分。エキジットした時には周囲は夕闇に包まれていた。
港の底は非常に汚泥が溜まっていて、ウェットスーツが真っ黒に汚れた。
つ づ く
※掲載順位がランダムなのでダイビング記事の目次を作りました。
年代順となってます。
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