船員会館
「では、そろそろ送っていただきますか」ハイエースに乗り込んで船員会館へ。
フロントで部屋割り。それぞれに分散。
私の部屋は512号室、唯一の和室。どう間違ったのか一人部屋(定員は三名)
ダイビングサービスが気を遣ってオーダーしたらしい。
暇を持て余すおそれがあったが風呂を独占できるのは有難い。水中撮影機材の塩抜きが毎回気兼ねなくできる。
部屋は冷蔵庫が無いだけでホテルとなんら遜色はない。自販機がロビーに並んでいるのでその必要も無いだろう。
窓を開けると泊港と泊大橋が視えた。手荷物を片付けて入浴。
午後六時、スクールの連中が到着するまでにはまだだいぶ時間がある。
隣の部屋を覗いた。T村とM山がログブックを開いている。
ダイブテーブルの書き込みにだいぶ苦労していた。
一年間のブランクですっかり忘れてしまったのか、殆ど理解していなかったのかいずれかだろう。私の見解は後者であるが・・・?。
二人に書き込み方を教えていると他の三人もやって来た。
「補講はお前たちがやるか、先輩の威厳を示すいい機会だぞ」
返事は無かった。
「早めにフィルムを用意しておいた方がいいぞ。明日は早いから朝では調達できないぞ」
「そうですね」
「五人で交代で撮ってコンテストをすればいい」
「そうしよう」
「でもグランプリは俺だな」
「ぽーさんも参加するんですか?」
「駄目か?」
「駄目ですよ」
「仕方がない。審査員になってやろう」
午後七時半。電話。Hダイバーズからだった。
「今、車が出ました。間もなくそちらに着きます」とK田。
「分かりました」
「それから明日ですが七時四十五分にフロントに集合と言うことでいいですか?」
「了解です」
「スクールは八時半になります」
「分かりました。伝えます」
主将のSCが顔を出した。
「全員到着か?」
「ハイ」
「ではすぐにステーキハウスへ行く。フロントロビーに集合させろ」
「わかりました」
「W辺とN村はどうした?」
「フィルムを捜しに行ってまだ帰って来ません」
「八時まで待って来なかったら先に行こう。去年も行ったから分かるだろう」
午後八時。船員会館を出た。W辺とN村が通りを渡ってくる。総勢十七人の行進。
拡大コピーをしてきた那覇市内図(スマホはまだ無い。MOVAも所有して無かった)で時々確認しながら移動。
十分も歩くと見覚えのある通りに出た。
「もうすぐだ」
ジャッキーステーキハウス。アメリカンビーフの店。決して高級ではない。手頃の値段で人気店である。
※その後移転した。この看板は移転後の物
青信号が点灯している。席に余裕は充分ありそうだ。 「十七人だけど」
奥に案内された。五つのテーブルに分散して座した。
「とりあえずビールを十本」
「オリオンとキリンと・・・?」
「沖縄に来たらやはりオリオンでしょう。注文は各自に。会計はまとめてここに」
オリオンビールが各テーブルに置かれた。コップに注ぐ。
「では、乾杯。・・・明日の予定だがファンダイブは七時四十五分。スクールは八時半までに朝食を済ませてフロントに集合。判ったか」
「はい」と唱和。その後はやはり喧しい。
「あのー。ひとつお訊きしてもいいですか?」とエリー。
「何でしょう?」
「私は不満は無いのですが、友達が『沖縄だったらもっと安いところがあるよ』って言うんです」
「確かにあります。おそらく雑誌や旅行案内等には十万以下で載っているでしょう」
「・・・・・・?」
「しかし、その内容が問題です。申請料別途から始まっていくつもの別料金があるはずです。その都度徴収するのは面倒だろう。だから一切込みにした」
「そうですよね。最初に払うか後で払うかの違いだけですよね」
「一般のツアーの内容に申請料、ボート代、ログブックここの食事代、最後の宴会費用、水中および集合の記念写真代なども含めての値段です。
たぶんその安いツアーで来てもこれを全部加えたら あと二万以上高くなると想うよ。
・・・総合すると私が取得したときの料金よりも安くなってます」
「そうですか」
「都内にあるダイビングサービスでは講習料二万と言うところもある。だがよく調べて視ると海洋実習費別なんてのは当たり前で、
それよりもまず高い器材を買わされる。下手をすると必要の無い物までもね。『Cカードを取得するのに五十万掛かった』なんて話も時々耳にするよ」
「そうですか」
「それからこのツアーでは器材レンタル料はありません。何度も来ているので不要だと言われてます。来年も来て欲しいのが狙いでしょうが」
「講習内容も問題よね。私の妹は二日で取ったんだけど学科講習は二時間くらいだったって」と直子。
「本当か?それはひどい。危ないぞ」
「怖くて潜れないって」
「ここはその点は大丈夫だ。いい加減なところだったら君たちを連れてこない。ああそうだ。三千円戻ることもある」
「・・・?」
「不合格だったら申請料は返せる」
サラダとスープが運ばれてきた。どうもこのスープは葛湯もどきでいただけない。
テンダーロイン。レアで充分いける。
みんな飯を喰っている間は静かだった。
・・・・・・・
「さあ、そろそろ行くか」と立ち上がった。
店を出るとファンダイブ組が意味ありげに私の顔を視る。
「海岸に行くか?」
「行きましょう」昨年滑って海に落ちたW辺とM山が嬉しそうに頷いた。(詳しくはここをクリック)
何も知らないスクール組は浮かれてはしゃいでいる。
ファンダイブ組は期待と笑いを堪えて歩いている。
教習所の脇を抜けると防波堤が視えた。何食わぬ顔でそこに上がる。
「・・・・・・!」天気の所為で海がきれいに視えない。潮も引いていた。
「はずしたかな?」
転倒する者は誰もいなかった。ファンダイブ組が私の周りに集まって来た。
「駄目ですね」とW辺。
「はずしたな。ここまで潮が引いているとは想わなかったな」
「もう少しあっちだったら」と、T村。
「来年に期待しよう」
大粒の雨が降って来た。「帰るぞ」
・・・・
まだはしゃいでいる学生たちに「早く寝ろよ」と言い残し部屋に戻った。
私は就寝前に大切な儀式が残っているのだ。
ハウジングを取り出した。Oリングを取り外しグリスを塗布。
そんなに難しい作業ではないが細心の注意は必要である。
それに数が多い。大小取り混ぜて十以上もある。
グリスを塗り終えてF4をセット。フィルムを装填。スピードフラッシュを接続。
時計を視ると一時間あまりを費やしていた。
午前零時就寝。
つ づ く
※掲載順位がランダムなのでダイビング記事の目次を作りました。
年代順となってます。
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