先端技術とその周辺

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「AI」で新薬続々と開発

2020年03月16日 08時59分33秒 | 日記

 

ニューズウィークがMITにおける研究状況『「訓練されたAI」が新薬候補を続々と発見』をレポートしていたが、AIも着実に色々な分野で大きな成果を上げつつあるようだ。

ハリシン投与で耐性菌は全滅(上)、別に抗生物質(下)には耐性も COURTESY OF THE COLLINS LAB AT MIT

<抗生物質の効かない耐性菌が急増、特効薬開発の助っ人は鍛えられた人口知能>

既存の抗生物質が効かない危険な耐性菌を殺すことのできる新薬候補を、研究者たちが突き止めた。人工知能(AI)の助けを借りて、だ。

 

マサチューセッツ工科大学(MIT)のレジーナ・バージレイとジェームズ・コリンズは、AIのディープラーニング(深層学習)を活用して、膨大なデータベースから新たな抗生物質の候補となる化合物を抽出。AIがこの用途に使われるのは初めてだという。

WHO(世界保健機関)によれば、抗生物質が効かない耐性菌は世界中で脅威となっており、「全ての政府部門と社会に行動が求められる」という。現に米疾病対策センター(CDC)のデータでは、アメリカだけで年間約280万人が耐性菌に感染、3万5000人以上が死亡している。

新たな抗生物質の発見が急務だが、過去数十年に開発されたものはごくわずかで、大抵は既存のものと似たり寄ったり。新たな抗生物質探しにはコストも時間もかかる上に、調べる対象が一部の化合物に限定されがちでもある。

そこでAIの出番だ。機械学習によって、耐性菌に勝てる強力な化合物を短期間で突き止めることが可能になる。

「AIで分子をバーチャル検査し、細菌に対する有効性を予測する」と、バージレイは言う。「通常、そうした検査は研究室で行うが、費用も時間もかかる。AIなら何億もの化合物をスクリーニングし、詳しく調べるべき候補を絞ることができる」

いいことずくめの有望株

研究者らはまず、大腸菌を殺すのに有効な化合物のデータベースを使って、それらの特徴を特定するようAIのアルゴリズムを「訓練」。このアルゴリズムを使って、約6000種類の化合物を含むデータベースを精査した。

そこで浮上したのが、過去に糖尿病治療薬として研究されていた分子。研究チームは映画『2001年宇宙の旅』で人類に反乱を起こしたコンピューター「HAL」にちなみ、「ハリシン」と命名した。

化学的特質を基にハリシンが抗生物質として有効で、既存の抗生物質とは違うメカニズムで作用すると予測して分析を進めた結果、人間の細胞に無害である可能性が高いことも分かった。この薬が耐性菌にも有効かどうか、さまざまな細菌を培養して実験したところ、1種類を除く全ての菌に効果があった。

さらに、既存の抗生物質全てに耐性を持つアシネトバクター・バウマニに感染したマウスにハリシンを投与すると、24時間以内に菌を完全に死滅させることができた。

研究チームによれば、ハリシンは細菌が耐性を獲得しにくい生理メカニズムを介して作用するため、特に有望だという。実際、30日に及ぶ実験期間中、大腸菌はハリシンに対する耐性を獲得しなかった。

チームは今後もハリシンの研究を重ね、他の機関と協力して新薬を開発していく構えだ。しかも、発見された有望な新薬候補はほかにもある。約15億種類の物質を網羅する膨大なオンラインデータベース「ZINC15」で約1億種類の化合物をスキャンした結果、3日間でさらに23種類の有力候補を特定。うち8種類が抗生物質として使えることが判明した。

研究チームは今後、これらの化合物の研究を進めるとともに、ZINC15のスキャンも続ける計画だ。AIの活用がさらに進めば、抗生物質以外の分野でも新薬開発や既存薬の改良が期待できそうだ。