映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

『マディソン郡の橋 〜The Bridges of Madison County〜』

2023年12月20日 | 映画~ま~
1995年 アメリカ映画






公開されたのは高校生の頃で、ずいぶん話題になっていました。当時通っていた英会話学校で、2歳年上の高校生だったクラスメイトがえらく感動したらしくこの映画を推していたのですが、10代半ばだった私は「不倫映画の良さを、17歳がわかるわけがないだろう」と鼻白らんで見ていたのを昨日のことのように思い出せます。

私がこの映画を観たのは、多分大学生の頃だったと思います。

20歳を過ぎていても、この映画の良さや伝えたかったことは当時の私には届かなかったし、それを理解できるだけの人生経験なんてあるわけがありませんでした。確かに「好き同士なのに結ばれない二人」の関係に涙はするのだが、それ以上でもそれ以下でもありませんでしたし、どうしてこの作品がこれほどまでに取り上げられたのかもわかりませんでした。



数ヶ月前に、この映画がBSシネマで放送されており、なんとなく録画したままになっていたのを観ました。


ただの不倫恋愛映画だと思っていたこの作品には、人間らしさが詰まっていました。

その人間らしさとは、「人生には自分たちでどうにかできることとできないことがあること」で、この映画にはそれが散りばめられていました。




私は個人的に、「運命の人」は人生の中で何人も出会うと思っています。
何を持って運命と呼ぶかにもよりますが、私の中では恋愛相手に限定したものではなく、歴代の恋人や友人や同僚や同級生、家族たちも含まれている。人生の節目に関わった人、長く付き合いのある人、ほんの一瞬でもその後の人生に大きな影響を与えた人…。


しかし、おそらく一般的には、運命の人とはソウルメイト的なパートナーのことを呼ぶのでしょう。


出会ってから一緒に過ごした時間の長さに関係なく、一瞬でお互いを分かり合える、お互いを自分の人生の一部だと感じる相手というのが世の中には存在します。







映画の中で印象的だった写真家ロバートのセリフ。


”We are hardly two separate people now..."

「僕たちは二人のバラバラの人間じゃない。人生を賭けてこんなふうに感じ合える出会いを探し続けても、出会えずに人生を終える人もいる。そもそもそんな相手が存在しているとも思っていない人もいる」

「これまでの人生は、君とのこの4日間のためにあったんだ」

(どちらも意訳)




これだけなら、ただ恋愛に燃え上がってしまった二人のセリフとして片付けられるし、前回見たときに20代前半だった私はまさにそんな感想を持っていました。


今回あらためて見返してみると、結局二人は4日間を共にした後に別々の人生を歩むことを決めるのですが、直接会うことはなくても生涯を通じてお互いを思い続けていました。

ロバートが亡くなったときには、フランチェスカに愛用のカメラと一緒に過ごした4日間を収めた写真集が弁護士経由で送付され、フランチェスカは自身が亡くなる前に、子供達にロバートとの関係を記した日記を残し、思い出の橋に自分の遺灰を撒いて欲しいと頼んだのです。



初めは母の「不貞」を受け入れられず拒絶反応を示した40代になっていた息子や娘も、母の日記を読み進めていくうちに意識が変わっていきます。



母はロバートを想いながらも自分たちを愛を持って育ててくれたし、父に対しても同じで最期まで看取ったという事実を子供達は理解したのでしょう。
「家族以外の好きな人がいること=家族の誰よりもその人が大事で家族を裏切る行為」ではなく、ロバートを愛しながらも家族も愛していたこと、その家族への愛情がロバートとの関係で減ることがなかったこと、むしろ家族のためにロバートと一緒にならない選択をしたこと。さらにいうと、自己犠牲の精神から家族を選んだというよりは(当初はそれがあったかもしれないが)、家族・子供達はフランチェスカにとってかけがえのない存在だったことが、子供たち二人にも通じたということなのだと思います。

妻であり母であることを全うしたフランチェスカの告白に、子供たち二人が人生を見つめ直すきっかけを与えられた事がどれほどに大切なメッセージであったか。



そして、ロバートとフランチェスカは、再び出会うことはなくとも、ただ互いが存在しているというだけで互いに救われていたのでしょう。


これは私の理解だが、映画の中でロバートが言う「古い夢は良い夢だ。実現しなくても、見て良かったと思える」(意訳)とは、フランチェスカとの出会いのことを言っているように思えた。一緒にはなれなくとも、出会えたことが二人の生きる希望であり宝物になっていたのだと思います。






そりゃ、二十歳そこそこではわからなかったよな…、と今あらためてこの作品が話題になったことの意味が理解できるようになった気がします。



最後に、映画でとても印象的だったのが、ロバート(クリント・イーストウッド)の目の輝きです。
役柄では52歳の写真家ですが、フランチェスカと出会い喜びに満ちたロバートの目は輝きを増して、少年のように素直で純粋でキラキラとしていました。一つだけ好きなシーンをあげるとしたら、ロバートの目の輝きかもしれません。





(あと、全くの余談ですが、もしこの映画がリメイクされるとしたら、息子・娘役もそこそこ有名な俳優が演じるのではないかなと思いました。
この映画は90年代の作品ですが、昔って主人公以外の脇役って本当に見たこともないような俳優たちが配役されることが多かったように思います。その為、主役たちとの演技力の差が歴然で、脇役シーンになると一気に安っぽくなってしまうことがあったり。でも最近って、ほんの短いシーンや脇役でも、かなりの有名俳優たちを使うことが増えた気がしています。)





おすすめ度:☆☆☆☆☆