映画食い倒れ。

~映画は人生のデザートです~

個人的覚え書きのため、たまにネタばれありです。

「ダークナイト ~The Dark Knight~」

2008年09月07日 | 映画~た~
2008年 アメリカ映画

3日前に見てきました。イギリスでは7月半ばに公開となりましたが、9月現在も引き続き上映中。2時間半以上にわたる長い映画ですが、中だるみが全く無く、とにかくその世界に引き込まれていきます。

実はわたくし、バットマン・シリーズって今まで1本も見たこと無かったのです。興味が無かったの。アメ・コミ物だし、スーパーマンとかみたいに超人的で現実離れなSFというイメージが強かったし(私は基本的にSFが苦手)、私の中ではスーパーマン(見たことあります)もスパイダーマン(未見…というか見る気なし)も、バットマンも同じカテゴリーだったのです。でも今回はなんかものすごく興味を引かれた。それはやっぱりヒース・レジャーがジョーカーだったから。彼が亡くなったからとかではなく、ポスターや予告編のなかの彼のジョーカーは、私が今までイメージしていたアメリカン・コミックの登場人物とは全く異なっていたから。同じジョーカーでも、20年位前のジャック・ニコルソンのは、もう見た目が苦手。デザインがコミカルすぎて。まぁ、監督がティム・バートンだったから、コミカルさは仕方ないのだけど。その後ダニー・デビートが演じたペンギン男も。人間とは完全に違う生き物で、地球外生物。私には宇宙人と一緒。でも、ヒースのジョーカーには「人間」を感じたのです。

それは私が特別に何かを感じ取ったのではなくて、もちろん映画を見る前なので彼の演技力が云々でもなく、キャラクターデザインによるものなんだと思う。困ったときのウィキペディアでこの映画についての記述を読んでみると(2008年9月6日付)、「ジョーカーの外見は、彼の性格を反映したもの」とある。まさに彼の心の内の狂気や苦しみを体現したキャラクターデザインだと思う。ほかのバットマン・シリーズを観た事が無いので内容は比べようが無いのだけど、外見に関してはジャックが演じていたジョーカーには、悪事の中に「お遊び」的な気分が含まれているような外見だった。あくまで外見の話なのだけど、そのひねくれた性格の原因とかはどうでもよくて、ただ単純に「悪者」のイメージ。でもヒースのジョーカーは、もともとは普通の「人間」で、苦しみや辛さを知っているからこそ突き抜けた「悪魔」になってしまったように見えるし、凶悪さと心の闇を持つ繊細さも垣間見えて、あの強烈な外見はだからこそ余計に恐ろしい。生まれ持っての悪魔ではなく、いろんなきっかけや経験がそうさせてしまったという怖さ。


見る前の期待を全く裏切らないどころか、期待以上。「ヒースがジョーカーを演じている」のではなく、あれがジョーカーそのものだった。外見と彼の性格が見事に一致していて、一寸のブレもない。こんなに「映画」という枠の中ですべてがぴったり合致するキャラクターって、私は今までに見たことが無いかもしれない。私の中のジョーカー像は、完全に固定されてしまった。

皺が浮き彫りになる白塗り、未完成な目の縁取りや裂けた口に塗られた口紅。場面によってそのメイクにムラがあって、警察で身柄を拘束されていたときは全体的にメイクが取れたりして薄くなり、肌色が見えて人間の生々しさがある。次に別の場面で登場するときには、また色が塗られているのだけど、毎回同じではなくやっぱりムラがある。ジョーカーがジョーカーと言う人物になるために施すメイク。そのときの状況や気分でムラが生まれ、全く完璧ではないところに「心の不完全さ」が表れているようでものすごく異様だった(褒めてます)。



ジョーカー以外の見所も満載。とにかくすべてを見逃したくないくらい。

あの映画を作った俳優・スタッフたちの並々ならぬ意気込みを感じる作品でした。あんなに豪華な俳優陣なのに、それぞれが良さを引き立てあっていて、映画は人間(登場人物たち)の心の闇を見事なまでに表現していて、とにかく細部にいたるまで手を抜くことなく、攻めるように作りこまれたすばらしい映画だった。この映画の撮影、絶対にきつかったと思う。その厳しさが伝わってくるほど、ストイックで、「映画が好きだから」という映画への尊敬を感じる。ものすごい大作で時間も長いのに、ここまで丁寧に作られている映画ってどのくらいあるのだろう。映画館で見ることの幸せを感じることができる、たぶんものすごく稀な作品だと思います。


長編映画で興行的に成功した映画というと、どうしても私には『タイタニック』が思い浮かんでしまうのだけど、一言で「長編」「興行収入○○ドル(円)」と言っても、いろいろあるんだなぁと映画を見ながらふと考えてしまいました。いい映画、面白い映画が必ずしも当たるわけではないし、逆に言うと興行的に成功している作品がすべて面白いわけでも優れているわけでもないと言うこと。その点、この映画はすべてを満たしていて、本当に驚いた。

わたし、ものすごく褒めちぎってますね。いや、ほんとに良かったのよ。


やっぱりどうしてもヒース・レジャーに目が行ってしまうのだけど、バットマン役のクリスチャン・ベイルのナルシストっぽい雰囲気もバッチリだった。もしバットマンを演じていたのが別の人物だったら、もう比べようが無いくらいジョーカーに食われた、バランスの悪い映画になっていたと思う。ベイルだったからこそ、いやそれでもやっぱりヒースはものすごくすばらしかったけど、なんとかバランスを保てたように思う。

それでもトゥーフェイスのところとかは、ものすごくアメコミ風味だったし、驚きの無い「やっぱり感」はどうしてもあるのだけど、それは仕方ないよなぁ。だって原作コミックだし、そこは忠実にしていかないとまずいんだろうし。それ以前に私がそういうテイストが好きではないから、どう描いたとしても受け入れられないと思うけど。

あのトゥーフェイスの人、『ブラックダリア』に出てたジョシュ・ハートネットの相棒役の人だったんだね。どこかで見たことあるけど気づかなかった。そしてレイチェル役のマギー・ギレンホール。前作はケイティー・ホームズだったようだけど、これはタレ目つながりの配役と言うことでしょうか?マギーって結構癖のある映画に出ているイメージが強かったし、そういう役が合っていたので、なんかうまくいえないけど「驚き」ました。ああ、「ヒロイン役」なんだ…って。でも、周りがものすごく個性的な俳優だらけだったから、このくらい強い個性のある女優でないと無理かもしれない。ケイティーだったら、ただの「きれいな人」になってしまったかも・・・と無理やり納得しようとしてます。というか、いいのかしらわたくし、レビューがこんな終わり方で…。


とにかく。この映画、圧巻です。


おすすめ度:☆☆☆☆☆