八国山だより

ノーサイレントマジョリティ!ごまめの歯ぎしりといえど、おかしいと思うことはおかしいと自分の意思を発信しなければ

読書録 -『日本の戦争力』

2006-02-13 11:04:54 | 日々の雑感
小川 和久著『日本の戦争力』を読んだ。

概略として本の帯を紹介すると次のような内容である。

第 1 章-自衛隊の「戦争力」 いびつな自衛隊で本当に日本を守れるのか?
第 2 章-アメリカへの「戦争力」 アメリカにとって、日本の重要度はいかほどか?
第 3 章-テロへの「戦争力」 日本はアメリカとどう付き合っていくのか?
第 4 章-イラクにおける日本の「戦争力」 自衛隊のイラク派遣は間違っていたのか?
第 5 章-北朝鮮への「戦争力」 本当に北朝鮮は日本を攻めてくるのか?
第 6 章-日本国憲法の「戦争力」 平和国家をつくるためには、憲法 9 条をどうすべきか?

一部だけ紹介すると次のようなものである。

第1章は自衛隊の姿を知る上で興味深かった。
日本の自衛隊は5兆円を超える予算をもっており軍事大国と考えられがちだが、実際には、日本の自衛隊の兵力は非常にいびつで、潜水艦捜索力と掃海力、そして防空力だけが世界水準で、それ以外はまったく他国と戦争できるような力には達していないとのこと。アメリカの戦力を補完するような形でしかない。水泳だけが突出したあとは凡庸なトライアスロンの選手といったたとえがされていた。

第2章、日本の重要度について。
・日本には安保タダ乗り論のような議論があるが、アメリカの圧倒的な軍事力の前に片務的ではない軍事同盟を結んでいる国などない。アメリカは自国の国益のため戦略的同盟を結んでいる
・日本にアメリカが置いている艦艇用燃料、弾薬はアメリカ本土以外では世界で最大。
 燃料については神奈川県鶴見はアメリカ本土を含めても第2位の備蓄量。
・アメリカ海軍艦艇に「母港」を提供している国は日本だけ。
・米兵による刑事事件や軍による事故について、首脳が謝罪しているのは日本に対してだけ。


北朝鮮については、日本はすでに北朝鮮の暴走を抑止する2つのシステムを手にしているとのこと。1つは日米同盟(日米安全保障条約)、もう1つは国連軍である。日米同盟でいえば、北朝鮮が万が一にも日本にミサイルを撃ち込めば金正日体制どころか北朝鮮という国家そのものが消滅するするほどのお返し(空母や弾薬庫保管分では600発。空母機動部隊も考えれば理論上は3,000発)を覚悟しなければならず、その現実をふまえて外交を考えるべきとのこと。
国連軍については、朝鮮戦争のときにできた国連軍が今でも日本に存在しており、万一のときには、在日・在韓米軍も国連軍となって北朝鮮への抑止力になる由。


憲法第9条については、"解釈の幅が広すぎるので改正すべきである。憲法改正をしない国の方が世界的に珍しい"との見解である。小川氏の説はではこうである。
日本人は憲法前文と第9条を不即不離で一体のものと見なし、どちらも戦力・戦争の放棄をいっていると考えるが、海外の日本国憲法研究者の解釈はこうである。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とは、国連を中心とする各国との安全保障体制のなかで生きてゆく、という意味であり、9条は侵略戦争を禁じた規定であり、侵略戦争をせず防衛戦争に徹する自衛隊は9条にに即した存在である。その自衛隊を世界の平和を実現するための国際共同行動に参加させることは9条とは矛盾せず、それどころか前文からは積極的に参加させなければならない。

どこかで聞いたことのある考え方だと思ったら小泉首相がイラクへの自衛隊派兵計画の発表にあたって、憲法前文のこの部分を引用していたのだった。それもそのはずで小川氏は"小泉総理の直属アドバイザー"(JAM THE WORLD 1/11/2006)ということである。
余談ながらこの記事の中にあった「小泉さんはブッシュのポチじゃなくて、ポチのふりをして上手く立ち回っている」という小川氏の見解は、立場上そう言っているのかも知れないが、間違っていると思う。国民を危険な目に遭わせようとする米国産牛肉の輸入再開、郵政民営化による国民資産の米保険業界売り渡し(の可能性、たとえば新生銀行のような)を考えれば。

なお、小川氏も特定の宗教様式を持つ靖国神社への参拝は憲法違反とお考えのようだが、小泉首相はアドバイザーの意見に対しても聞く耳を持たないようだ。栗本氏の言うようにもう「意地」だけなのだろう。

憲法前文は、わが国の平和・安全はもちろんのこと、国際紛争を武力で解決することには絶対に与せず、あくまで国際協調の精神に立って、平和的に解決することに努力するということではないのだろうか。民族自決権と他国の主権を厳格に尊重すること、諸国家・諸民族の平和的共存を追求することを、万国に共通する「政治道徳の法則」として尊重しようというのではないのだろうか。

小川氏は日本のイラク戦争支持は筋が通っていると主張する。イラクはかつて大量破壊兵器を開発し、生物・化学兵器を保有し、クルド人に対して化学兵器を使った。大量破壊兵器保有の疑惑を積極的に晴らそうとしなかった。そんな疑惑国とテロリスト集団が結びつくことは日本にとって脅威となるからとのこと。非戦論は現実の危機を見ない感情論だと。

だが、ネットで調べるとステファン・ペレティエ博士(元米陸軍戦争大学教授・イラク・クルド問題専門家)がこう述べている。「ワシントンの国防情報局は、毒ガス使用地域に調査団を派遣し、その調査の結果、クルド人を殺したのはイラクではなく、イランの使った青酸性のガスだ、という結論に達しました」「『イラクがクルド人に毒ガスを使った』というアメリカ国務省の主張は、イラク政府の評判を落とし、イランとの戦争からの復興を困難にし、アメリカが、イラクをコントロールできるようにするための、単なる宣伝道具だったのです」


また、週刊金曜日(2003.2.7)で、成澤宗男氏は「誰がイラクに生物化学兵器を与えたか」の記事(の中で、「そもそもイラクにその兵器を与えたのは、他ならぬ米国自身だ」と述べている。

さらに2003年3月7日、国連主任武器査察官ハンス・ブリックスとモハマド・エルバラダイが国連安保理で行った報告ではイラクが多くの点で査察に協力していることを強調していた。

大量破壊兵器についても、2004年10月7日の読売新聞で、「イラク大量破壊兵器、開発計画なし…米最終報告」とある。

したがって前提条件がくずれた以上、小川氏の説は疑問である。氏がこのような事実を知らないはずはないと思われるので、意図的にネグレクトして牽強付会の説を唱えているのではないか。

ちと浅薄な読み方かもしれないが以上のような感想である。


最新の画像もっと見る