チャイコフスキー 白鳥の湖
父の遺品整理のついでにしてる実家の自室の整理もまだ終わらないが、
中学生のときに録音したカセットテープが出てきた。つたなくも、
「ゴルトベルク変奏曲」を弾いたものだった。へたくそである。当時、
くら音嫌いなオヤジには内緒で(私の部屋にピアノがあることを
父はかなりのちまで知らなかった)おフクロが私に
ピアノとヴァイオリンを習わせてた(シュトラオス一家のネタを
下敷きにしたジョウクである)のだが、どちらでもさらわされる
バッハが退屈でたいくつでしかたなかった。ちなみに、
ピアノとヴァイオリンの先生の名は大川と中川だった。さて、
チャイコフスキーのバレエ「白鳥湖」の1幕の舞台は
父を亡くした王子の庭だが、そこには小川が流れてるのである。
バレエ「白鳥の湖」は4幕から成ってるが、
「1幕+2幕」対「3幕+4幕」
という「前半」「後半」を「対照」させた劇、といえる。
1幕の舞台は小川の内にある「東宮の庭」である。
対して、3幕の舞台は「王宮の大広間」。
2幕は森の中の湖(4幕も同じ)である。
「白鳥湖幕対称ロマン」
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│ 1幕 ┃ │ 3幕
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導入曲│曲番なし ┃ #15│タイトル無し
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#01│属調から主調へ ┃ #16│属調から主調へ
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#02│ワルツ/下属調から主調へ┃ #17│ワルツ/属調から主調へ
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#03│王妃の王子への期待 ┃ #18│王妃の王子への期待
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#04│パ(トロワ)/ハープ使用┃ #19│パ(シス)/ハープ使用
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#05│属調から主調へ ┃ #20│下属調から主調へ
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#06│家庭教師が村娘に言い寄る┃ #21│男を誘惑するフラメンコ
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#07│下属調から主調へ ┃ #22│属調から主調へ
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#08│ポーランド舞曲(ポロネ)┃ #23│ポーランド舞曲(マズル)
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*#09│終い実質ロ長 ┃*#24│終い実質ヘ長
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│ 2幕 ┃ │ 4幕
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#10│当初「間奏曲」コルネ不用┃ #25│「間奏曲」コルネ不用
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#11│オデット登場 ┃ #26│オデットが行方知れず
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#12│白鳥群舞 ┃ #27│白鳥群舞
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#13│6♭出現 ┃ #28│6♭出現
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*#14│白鳥らは廃墟に消える ┃*#29│白鳥らが湖に姿を現す
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*各4つの幕のそれぞれの「トリ」には必ず「白鳥の歌」
(♪ミーーー・>ラ<シ<ド<レ│<ミーー>ド・<ミーー>ド♪)が現れる。
そして、
1幕終曲「ロ長」←→3幕終曲「ヘ長」、
2幕終曲「白鳥らは廃墟に消える」←→4幕終曲「白鳥らが湖に姿を現す」、
という対極方向で閉めてるのである。
いっぽう、チャイコフスキーがこのバレエで用いた
「持ち替えが要る」移調楽器は、
クラリネット、コルネット、トランペット、の3楽器である。このうち、
トランペットは導入曲でF管、つづく第1曲でD管、
第2曲のイ長のワルツでE管、第3曲でD管、そして、
第4曲以降第29曲までF管、である。いっぽう、
クラリネットとコルネットは「ほぼ」連動して使い分けられる。
「白鳥湖持ち替え必要移調楽器使い分け表」
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1幕 │クラリネット コルネット┃ 3幕 │クラリネット コルネット
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導入曲│A管 A管 ┃ #15│C管 B管
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#01│A管 A管 ┃ #16│B管 B管
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#02│A管 A管 ┃ #17│B管 B管
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#03│A管 A管 ┃ #18│B管 B管
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#04│B管 B管 ┃ #19│B管 B管
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#05│A管/B管 A管/B管┃ #20│A管 A管
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#06│A管 A管 ┃ #21│A管 A管
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#07│A管 不用 ┃ #22│A管 A管
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#08│A管 A管 ┃ #23│A管 A管
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*#09│A管 A管 ┃*#24│B管 B管
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2幕 │クラリネット コルネット┃ 4幕 │クラリネット コルネット
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#10│A管 不用 ┃ #25│A管 不用
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#11│B管 B管 ┃ #26│B管 B管
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#12│B管 B管 ┃ #27│B管 B管
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#13│A管 A管 ┃ #28│B管 B管
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*#14│A管 不用 ┃*#29│B管 B管
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「前半」の「1幕」「2幕」は「A管支配」であり、
「後半」の「3幕」「4幕」は「B管支配」である。
「A管支配」の「前半」で「B管」が用いられてるのは、
「1幕」では「変ロ長が主調の第4曲パ・ドゥ・トロワ」であり、
「2幕」では「ト長で始まり」はするが、
「オデットが身の上話を始める」ところでは「変ロ長」になり
フクロウが出現するところでその後半「変ロ長」になる「第11曲」と、
「無調号」ながら「オデットの仲間らが王子に詰め寄り、
オデットが王子をかばい誤解をとき、手打ちする」場である
「第12曲」とである。ここで、「後半」に触れる前に、
「タイトルがない」第15曲では、クラリネットには
音域の問題もないのにもかかわらず、「C管」が指定されてる。
あたかも、夕方にヒトの自律神経が、
「交感神経」支配から「副交感神経」支配に交替するときに
体にやや変調をきたすかのごとく、
「ここで『管支配』が『A』から『B』に交替しますよ」、
とチャイコフスキーがヒントを与えてくれてるようである。さて、
「前半」に対して、
「B管支配」の「後半」で「A管」が用いられてるのは、
3幕では「余興で招待された」諸王国のダンサーの舞曲、
第20乃至第23曲の4つである。
4幕では「筋が進行しない」「間奏曲」の第25曲である。ときに、
この「第25曲」は、破棄したオペラ「ヴォィヴォーダ(地方長官)」の
第3幕への間奏曲の丸写し、である。余談ながら、元ネタでは、
やはりコルネットは使われてないが、トランペットはB管だった。となると、
曲自体が超短く全奏にならない第7曲はともかく、やはり同様に
コルネットを使用してない第10曲=第14曲は、
「以前に」作曲されてたもの、かもしれない。つまり、
チャイコフスキーが妹の嫁ぎ先のカーメンカで作ったという根拠に薄い
1幕の家庭劇バレエ「白鳥の湖」の主主題だったか、あるいは、
ひょっとすると、話はあったが結局他者が作曲することになったバレエ
「シンデレッラ」用にチャイコフスキーがすでに作ってたもの、
だったのかもしれない。だとすると、
♪ミーーー・>ラ<シ<ド<レ│<ミーー>ド・<ミーー>ド♪という
「白鳥の歌」は、「白鳥そのもの」を描写したものではなく、
「純愛を求める心の叫び」を詠ったもの、ということがますますいえる。が、
真実がどんなものかは容易にはわからない。簡単に判明できれば
クロウはないのだが、このごろ、
カラスが非常にうるさい。子育てでピリピリしてる時期らしい。
カラスが立ち去ってからやっとスズメがやってくる。
♪だんだん、だんだん、地球の常識、エゴカラスっ♪
と成海璃子嬢が糸巻きまき運動しながら歌ってる「烏の歌」もいいが、
「白鳥の歌」がそれとは比較でないほど秀逸であることに変わりはない。
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