その時、私の名前を呼ぶ声が後ろからした。
驚いて振り返ると、さきほどの紳士が笑顔で私を見ている。
どうして私の名前を知っているのだろう……
十分後、我々は丸井の向かいにある名曲喫茶にいた。
その紳士は、名刺を差し出した。
そこには、弁護士事務所と書かれている。
「弁護士さんですか?」
「いえ、私は単なる雇われの調査員です」
紳士はにっこりと笑ってコーヒーカップを手に取った。
きちんと刈り込んだグレーの頭髪。焦げ茶色のフレームのメガネ。黒い背広に白いシャツ、青いネクタイ。ありふれてはいるが、品がいい。
隙がない。
ネクタイの結び目はしっかりとシャツのカラーに食い込んでいる。
「びっくりされたでしょう、突然お声がけしたので」
紳士は、カップを皿に置きながら言った。
「どうして私の名前をご存知なんですか?」トーストを胃に流し込みながら、私は尋ねた。