池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつくフーテン上がり昭和男の記録

空間の歴史(12)

2024-03-30 12:06:31 | 日記

その時、私の名前を呼ぶ声が後ろからした。

驚いて振り返ると、さきほどの紳士が笑顔で私を見ている。

どうして私の名前を知っているのだろう……

十分後、我々は丸井の向かいにある名曲喫茶にいた。

その紳士は、名刺を差し出した。

そこには、弁護士事務所と書かれている。

「弁護士さんですか?」

「いえ、私は単なる雇われの調査員です」

紳士はにっこりと笑ってコーヒーカップを手に取った。

きちんと刈り込んだグレーの頭髪。焦げ茶色のフレームのメガネ。黒い背広に白いシャツ、青いネクタイ。ありふれてはいるが、品がいい。

隙がない。

ネクタイの結び目はしっかりとシャツのカラーに食い込んでいる。

「びっくりされたでしょう、突然お声がけしたので」

紳士は、カップを皿に置きながら言った。

「どうして私の名前をご存知なんですか?」トーストを胃に流し込みながら、私は尋ねた。

コメント
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