池袋犬儒派

自称「賢者の樽」から池袋・目白・練馬界隈をうろつく老人の日常

空間の歴史(1)

2024-03-18 17:09:38 | 小説

池袋の町を何日もさまよった。

時々、路上にへたりこんで眠り込み、目を覚ましては、また歩いた。

起きるたびに、私を見る人々の目が厳しくなった。

それはそうだろう。

一文無しだったから。

宿無しだったから。

 

池袋の町は、歳末の人出でごったがえしていた。

バブルが弾けて、自分の全部を失った。

財産も家族も、泡になった。

財布が空っぽの中、屈辱にも耐えていた。

しかし、屈辱や恥など何でもない、空腹に比べれば。

空腹が過ぎると、もう視界が黄色くなってくる。

ビルも歩道も、とろけたチーズのように見えてくる。

コメント
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