谷崎潤一郎【卍(まんじ)】
谷崎作品の中でも特に私の好きな一編です。タイトルの【卍】が象徴するように、女二人の絡み合い、すなわち同性愛がテーマになっています。構成がしっかりしており、筋の運びも自然で、読み進めるうちに谷崎独特のマゾヒズムがじわじわと利いてきて、底なし沼にはまっていく女性の感情の流れが実によく表現されています。男の私でさえ、読んでいくうちに何か不思議な感覚に襲われるほどです。
語釈
独法:帝国大学法律学科ドイツ部
楊柳観音:病気を癒す観音菩薩
島田:未婚女性の髪型
大軌電車 現在の近鉄
女子衆:奉公先の娘の世話をする人、女中
ぼて:帯の中に入れて型崩れがしないように防ぐもの
三尺:男性用の帯
とうちゃん:「お嬢さん」の意味。「いとさん」の略
褄目:つじつま、筋道
自働電話:公衆電話
乗合:バスのこと
てかけはん:妾のこと
シャン:美人のこと
ステッキ・ボーイ:外出する時にステッキを携帯するように、散歩に必ず同伴する男
自由結婚:親の同意なしの婚姻
御寮人さん:母親や娘を指す
種板:写真の原板