1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

10月22日・カトリーヌ・ドヌーヴの二面性

2015-10-22 | 映画
10月22日は、稀代の大女優サラ・ベルナールが生まれた日(1844年)だが、同じくフランスの女優カトリーヌ・ドヌーヴの誕生日でもある。

カトリーヌ・ドヌーヴは、1943年、フランスのパリで生まれた。本名は、カトリーヌ・ファビエンヌ・ドルレアック。父親は元俳優で、外国映画の吹き替え声優や映画スタジオの管理者をしていた。母親も俳優で、カトリーヌは3人姉妹の真ん中だった。
俳優一家に育った彼女は、13歳のときから子役として映画に出演し、19歳のとき、家を出て、「危険な関係」の映画監督ロジェ・ヴァディムと同棲をはじめた。同時に栗色の髪をブロンドに染め、映画女優の仕事をスタートさせた。彼女は先にデヴューしすでに有名女優だった姉のキャリアを邪魔しないよう、母親の旧姓ドヌーヴから、芸名をカトリーヌ・ドヌーヴとした。
そして、20歳のときに出演した、セリフがすべて歌で歌われるというジャック・ドゥミ監督の異色作「シェルブールの雨傘」で一躍注目される若手女優となった。彼女はインタビューのなかでこう発言している。
「わたしは、それまで、女優になることに、それほど熱心ではありませんでした。まだとても若かったし、『自分』というものについての認識がまったく欠けていました。わたしは、映画の問題ばかりでなく、ものの見かた、生きることとは何か、というようなことについて、それまでまったく考えたことがなかったんですね。(中略)わたしは、初めて、女優としてのわたしに全的な信頼をおいてくれる映画人に出会い、この出会いがわたしに女優としての認識と自信を与えてくれたのです。『シェルブールの雨傘』は、わたしにとって、決定的な人生の曲がり角、出発点でした。そういう点で、この映画は、わたしのキャリアのなかで最も重要な作品です。」(山田宏一「映画とは何か」草思社)
その後、彼女は「昼顔」「哀しみのトリスターナ」「終電車」「インドシナ」など数々の名作に主演し、フランスのみならず世界の映画を代表する大女優となった。
ドヌーヴは、私生活では、ヴァディム監督、イタリアの名優マルチェロ・マストロヤンニとのあいだに子どもをもうけ、子らはふたりとも俳優になっている。

彼女が17歳から21歳頃までいっしょだったヴァディム監督は言っている。
「当時のカトリーヌは、その後広く知られるようになる長所をすでに具えていた。カトリーヌは聡明な女で、辛辣なユーモアを見せるところが私を強く惹きつけ、そしてかなり冷ややかな外観の持主でありながら非常に情熱的だった。ジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』とルイス・ブニュエルの『昼顔』が、彼女にとって画期的な作品となったのは偶然ではない」(ロジェ・ヴァディム著、吉田暁子訳『我が妻バルドー、ドヌーヴ、J・フォンダ』中央公論社)

昼だけ娼婦の顔を持つ人妻を演じた「昼顔」、撮影中恋愛関係にあったトリュフォー監督の作品「暗くなるまでこの恋を」、恋愛映画の巨匠クロード・ルルーシュ監督の逃避行映画「夢追い」、デヴィッド・ボウイと共演した「ハンガー」、一大歴史叙事詩「インドシナ」、そして死期の迫った元恋人マストロヤンニとの最後の共演を果たした「百一夜」などなど、彼女の映画に思いをめぐらせると、あっという間に半日がすぎてしまう。たしかな演技力、恵まれた美貌。自分というものをしっかりと把握した強い内面性。そしてなにより、クールさと情熱の同居。これが彼女の魅力の核心にちがいない。ため息の出るような美神である。
(2015年10月22日)


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