大多喜町観光協会 サポーター

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小説 本多忠朝と伊三 20

2010年11月10日 | ☆おおたき観光協会大河ドラマ 本多忠朝

 市川市在住時代劇担当サポーター、久我原さんの小説です。

忠朝と伊三 20

これまでのお話 1~19 は コチラ

 忠朝は桑名への問い合わせの書状をしたためたものの、誰を使者にするかを迷っていた。忠勝に殉じた忠実の息子である忠古を使者にしようかとも思ったが、なぜか忠古は辞退した。忠朝は忠古に父の墓参りもさせてやろうと思ったのだが、忠古は
「殿のお心づかいはうれしいのですが、私にはその役目は務まりますまい。」
と言って、取り合わなかった。大原にしようか、いや奴は面倒がっていい顔はするまい。他にだれが良いかのう、、
 そんなことを考えていると、桑名から使者が来たという知らせがあった。
「はて、桑名からの使者?いったい何用であろう?」
 尊敬する父と信頼できる家老のじいが一度に無くしてまだ間もない。また、悪い知らせでなければよいが、、、
 応接の間に行くと、桑名の家老、松下河内が顔面を緊張させて座っている。
「おお、河内ではないか。桑名からの使者とは、まさかおぬしが来るとは思わなんだ。一体、家老自ら足を運ぶとはどうしたのだ?悪い知らせではあるまいの?」
「若様、いや大多喜の殿にはご機嫌うるわしゅう、、、」
「堅苦しい挨拶は良い。ところで、兄上はいかがお過ごしか?わしは早々にこちらに引き上げてしまったが、桑名では後のことでいろいろと大変だろう。」
「はい。先代の殿を慕う方々の弔問を受け、忙しい日々が続きましたが、今はもう落ち着きました。」
「そうか。ご苦労なことだ。」
 そう言って、忠朝がじっと見詰めると、河内は視線をそらした。忠朝はこの機会に松下河内に忠勝の遺産について尋ねてみようかと思ったが、河内の様子を見て躊躇した。やはり、何か良くないしらせではないのか?今ここで河内に尋ねるよりも、やはり兄に直接書状を送ったほうがよいだろう。そもそも河内は何をしに来たのか?
「河内、、、」
「はい。」
「用件とは一体どのようなことだ?」
「はっ、殿よりの忠朝様へお伝えするようにと、命を受けまして参りました。」
「何を伝えよと?」
「大殿の遺産のことでございます。」
「父上の遺産?」
 松下河内の話とは次のようなことであった。忠朝の兄、忠政は弔問客の足が途絶えると、松下に遺産についての相談を持ちかけた、というより決定事項を伝えたという方が良いだろう。それは忠勝が忠朝に残した金子一万五千両は自分が相続するべきだと言い出したのである。松下は大殿の遺言である以上、一万五千両は忠朝に渡すべきだと説いたが、忠政は首を立てにふらなかった。
「遺産は嫡子である私が全て相続するべきである。それに、忠朝は既に大多喜の領地を相続しているではないか。私は桑名を父上より相続したのだから、父上が桑名に残した遺金は私が相続するのは当然だ。」
と言って河内の言うことを聞こうとはしないということだ。
 一通り、説明を終えると、河内はひれ伏し、
「無理なこととは存じますが、何卒、ご承諾下さいますよう、お願い致します。」
と言った。
「ふ~む。」
 忠朝は考え込んだ。桑名で別れるときは、これからも兄弟で力を合わせて本多家を守っていこうという堅く誓ったはずなのに、兄上は何を考えているのか。
 忠朝が黙っていると同席していた中根忠古が松下に話しかけてきた。
「河内殿、これにはなにか理由があるのではないか?忠政様が理由も無く、そのような理にかなわないことを言うはずが無いと思うのだが。」
 忠古の冷たい視線に松下はたじろぎながら、
「特に、理由ということは申されませんでしたが、、、、」
「でしたが、、なにかあるのか?」
 松下は何かを言いかけたが再び口をつぐんで、下を向いてしまった。
「河内殿、黙っていてはわからんではないか。」
 忠古が問いただすと忠朝がそれを制した。
「忠古、まあ良い。松下にも言いづらいことはあるだろう。」
「大殿のご遺言に係わることでもございます。これは単に金の問題ではございません。」
「よくはわからんが、兄には兄の考えがあってのことだろう。」
「しかし、新田開発の資金にと考えていた金子でございます。それが当てに出来ないとなると、、」
 忠古が新田開発について触れると、松下が忠古にたずねた。
「中根殿、その新田開発とは何のことだ?」
 忠古に代わって、忠朝が国吉原と万喜原の新田開発のことを話した。
「左様でございますか。遺産については既に決定事項なれど、今の話は殿にお伝えしておきます。お考えが変わるやもしれません。」
「いや、河内、そのことは兄上には伝えないでよい。開発の費用は何とかしよう。今は苦しくても、開発が成功して収穫の石高が増えれば、その費用も回収することもできようからな。」
「しかし、殿、当座は金が必要ですぞ。」
 いつも冷静な忠古が珍しく興奮しながら食い下がっている。忠朝は意外であった。忠古がこれほどに食い下がるとは。いつもなら、一言で相手を納得させてしまう凄みがあるが、今日の忠古は少しおかしい。
「良いというのに。忠古!どうしたのだ。今日は、いつものお前らしくないぞ。」
 忠朝に一喝されて忠古はぴくりとした。
「河内、兄上にはご意向はよく分かったと伝えよ。余計なことは言わんでよいぞ。河内も大多喜は久しぶりであろう。まあ、ゆっくりして行け。」
 松下河内が部屋を去ると、忠朝が忠古に問いただした。
「忠古、どうしたのだ。今日のお前はおかしいぞ。」
「申し訳ありませんでした。忠政様のご意向に納得いかず、お見苦しいところお見せしました。」
「わしもちと驚いたが、兄の気持ちはなんとなく分かる。」
「私も分からないでもないですが、なにやら悔しくなりまして。」
 忠古は、父は忠勝に殉じる忠義を見せたというのに、松下河内は忠勝の遺言を否定する忠政の理不尽な命令に従って、大多喜までやってきた事が許せなかった。忠政に意見はしたようなことを言っているが、本当に忠義の心があれば、命をかけて忠政の考えを諌めるべきではないか。
「どう思う?兄上の欲と思ったか?」
「いえ。欲ではないと思います。それは、、、忠政様の殿に対する、、、」
「忠古!良い。それ以上は言わんでも良い。」
 言葉を続けようとした忠古を忠朝が制した。忠朝も忠古も同じことを考えていたのだ。おそらく忠政の決断を裏付けているのは嫉妬であろう。

 二人の思うように忠政は忠朝に嫉妬していた。父が自分より忠朝のことを可愛がっていて、それにゆえに本来自分が相続すべき金子を忠朝に与えると言い出したのだろうと思っている。父は死の淵で私情におぼれて判断を誤ったのだ。別に金が欲しいわけではないが、胸の奥で釈然としないものが忠朝に対する嫉妬として蠢き、忠朝への遺金に封をしてしまいこんでしまったのであった。
 松下河内は桑名に帰り、忠朝が忠政の決定をすんなりと了承したことを伝えた。松下は忠朝に言われたとおり、要点だけを簡単に忠政に伝えた。最初、忠政は案外上手くいったので内心ほくそえんでいたが、余りにも簡単にことが運んだので、また釈然としないものがこみ上げてきた。
「松下、忠朝がすんなり了承したのには何かあるのではないか?余りにも簡単に過ぎると思う。」
「いえ、何もないと思います。ただ、兄上は本多のご本家、家臣も多く、金もかかろうから大変であろうとおっしゃいました。」
「そうか。それだけか。」
 そのとき、再び忠政を嫉妬が襲った。
(忠朝のそういう潔さが父に愛されたのであろうか。)
 そう思った時、膨らんだ嫉妬がパチンとはじけたような気がした。忠政は顔面を紅潮させ、大きく目を見開いたと思うと、「ふ~~、、、」と大きく息を吐いた。
 忠政は目の前の霧がさあっと晴れていくような気がした。
「そうか、忠朝はそんなこと言っていたのか。河内、話は分かった。一万五千両は大多喜に送ってやれ。」
「殿!!」
 松下河内が叫んだ。
「なんじゃ、大声で。私の決定が不満か?」
「いや、滅相もありません。さすが、わが殿です。こうなることと信じていました。」
「なに?こうなると信じていた。」
「はい。殿は金品よりも義を重んじるお方と思っておりました。」
「そうか、しかし金は必要じゃぞ。これからは戦も無くなろうが、平和な世の中になれば、それなりに金は必要となるだろう。」
 松下はほっとした。敬愛する大殿、忠勝の遺言を忠政が嫉妬にかられて無視しようとしていることが残念でならなかった。正直言って、一万五千両がどうなろうとは余り関心は無かった。大多喜に比べれば桑名は豊かな町である。一万五千両があってもなくても忠政は難なく桑名を治めることが出来るだろう。
「はい。金が大切な世の中となりましょう。忠朝様もまつりごとで色々とお考えがあるようで、この一万五千両は有意義にお使いになることでしょう。」
「何、どういう意味だ。」
 松下河内はしまったと思った。新田開発のことはいうなと言われていたのだが、つい喜びのあまり口が滑ってしまった。松下は忠朝が新たな新田開発事業を計画し、それに資金が必要と考えていること、父の遺産を使おうと思ったが、兄が駄目だというならそれに従うということを話した。話しを聞き終えると忠政は
「忠朝め、、、」
と言ってにんまりと笑った。

 松下は早速大多喜に使者を送り、忠勝の遺金は忠朝に渡されることになったので近々大多喜に送られるであろうことを知らせた。ところが、大多喜からの返答は意外なことであった。
「兄上のお気持ちは嬉しいが、一度決めたこと、遺金は桑名のためにお使いください。」
 忠政は再び釈然としない塊が胸の奥から湧いてきた。
「忠朝は何を考えている!私の気持ちを踏みにじるつもりか!」
 松下になだめられ、怒りを鎮めると、
「それでは、金は私が預かるが、必要あるときにいつでも知らせるように伝えよ。」
と言った。
 その後の大多喜からの返事はこうであった。
「それでは、遺金の半分はいただきましょう。必要な時にお願いに参りますので、それまで兄上がお預かりください。」
 結局、忠勝の遺金は蔵にしまいこまれ、忠政も忠朝も手をつけなかったという。その遺金はどうなったのであろう?忠政はその後、あの壮麗な姫路城に移ることになるが、その時姫路に移されたことであろう。美しい白鷺城の維持、修復に使われたではないかと考えてしまうが、いかがであろう。

 年が明けて慶長十六年となった。忠朝は正月参賀のために江戸を訪れていた。ここは江戸城の将軍謁見の間である。
「出雲、今年も良い正月だ。めでたいことだ。」
「はは、上様もご機嫌麗しゅう。誠、めでたき新年でございます。」
 第二代将軍、徳川秀忠に声をかけられ、本多出雲守忠朝は慇懃に挨拶をした。
「出雲、聞いたぞ。忠勝の遺金について、お前の振る舞い潔い、兄より忠勝の血を濃く受けた将器があると、大御所様もおほめであるぞ。」
「いや、兄とのいさかい、お恥ずかしゅうございます。」
「ははは。今や、徳川の天下じゃ。戦の時代も終わりになろう。これからは力より頭を使う時代になろうが、お前のその心意気はいずれにしても役に立つ時が来る。」
「ありがたきお言葉でございます。」
と、言って忠朝は将軍の顔を見たが、その時秀忠の笑顔が妙にゆがんだのは気のせいだったのか?
「お前はきっと徳川の役に立つ男だ。そうそう、おととしのロドリゴの遭難の話、忠勝の臨終の様子など聞かせてくれぬか。」
「はい。この二年間は私にとって、忘れられぬ日々でございました。岩和田で異国船が遭難したことを聞いて、、、、、」
 忠朝が話し出すと、秀忠はにやにやしながら忠朝の言葉を聞きいっている。それにしても、この二代目将軍の笑顔は薄気味悪いと忠朝は思った。
 秀忠に請われてロドリゴとの出会い、父の死にざまを話しているうちに、様々な事が思いおこされてきた。
(この二年間はわしにとって忘れられない出来事が次々とおこったものだ。ロドリゴ殿との出会い、国吉の新田開発、父上との別れ、、、それにあの伊三との再会。おもしろかったな。これからどのようなことがおこるのか。しかし、わしには良き家臣、良き領民がいる。どんなことがおころうと、大多喜はわしが守り続ける、、、)

 江戸の正月はにぎやかだ。江戸屋敷に帰り、屋敷近くの駿河台から関東平野の向こうの富士山を見ながら忠朝は低い山をぬって夷隅川が流れる大多喜の豊かな田園風景を思っていた。

第一部 おわり    



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1 コメント

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Unknown (ジャンヌ)
2010-11-11 00:57:56
忠朝公は男らしいですね~。

久我原さんの小説と鍋之助さんのイラストで、私の中では忠朝公が日本一のイケメン武将になっています。

奥村さんの小松姫も出来たら楽しくなりますね。
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