
和歌山県は新宮市の熊野川町嶋津.メアンダリングしている北山川の中州に,楕円形をした森がある.自然に出来たにしては如何にも不思議だが,かと言ってこのような中州に森を人工的に作れるわけもない.本当に不思議なところで,嶋津の森と言われている.

川が増水していない限りは,この嶋津の森の中へアクセスすることができる.目印は日本一小さな観光協会だ.ここでは小さな可愛らしい坊やとお嬢さんが出迎えてくれた.徒歩で河原を横断して,中州にある森へ向かってみることにした.

いざ河原に降り立ってみると,森は遠目から見るよりも随分と大きく感じた.この北山川流域は,かつて日本有数の木材の生産地であったそうだ.自動車なんて存在しない時代,伐採された木材を筏に載せて,この荒々しく蛇行する北山川を下流の新宮まで運ぶ筏師がいたという.

難所の川下りを無事にこなしてひと仕事を終えた筏師は,数十キロメートルある集落まで山間部を歩いて帰ったという.その一部が,この嶋津の森の筏師の道だ.森の中へ入ってみると,木々が鬱蒼と生い茂っており,辺りは急に薄暗くなる.

かつては集落もあって,筏師たちのメインストリートだったこの道もご覧の通り,苔で美しく覆われてしまっている.1852年に起きた洪水によって,集落が流出してからは無人となったままだという.この地に初めて訪れた者は,長年月のあいだ濃縮された雰囲気にただただ息を飲むばかりだった.
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