
瀧神社,そして丸山千枚田を訪れた後は,和歌山県の北山村でキャンプ泊をした.4月末でも山の夜は冷える.ぐっすり眠れず,明け方の早いうちから,行動を開始することにした.北山村を流れる北山川一帯は峡谷となっていて,瀞峡として有名だ.人の寝静まっているうちに探検してしまおう.

ここは標高差650mに及ぶV字状の大峡谷,瀞八丁と呼ばれるところだ.はるか昔,プレートの沈み込み運動で形成された地層が,川によって浸食されることで出来た大峡谷だそうだ.そのため,この辺りには巨岩や奇岩がたくさんあって,見どころが多い.かつては,切り出した木材をいかだで和歌山県の新宮市まで輸送していたそうだ.

この峡谷の断崖絶壁には,瀞ホテルという建屋がある.大正から昭和の戦前の間に建築された木造家屋と言われている.この付近を散策していると,なんとなく昭和レトロを彷彿させる雰囲気があった.今はホテルではなく,喫茶として営業しているようだ.写真を撮っていたら,建物の中から黒電話が,けたたましく鳴り始める音がした.これには,少し驚かされた.

瀞ホテルには別館があって,川のほとりから望むと断崖絶壁にあることがわかる.ただし,この別館は不通となっており,残念ながら建物に近づくことができない.本館と別館は渓谷の対岸同士に位置しており,つり橋を介して行き来していたようだ.

つり橋で渓谷を渡って,その先にあるホテルで寝食をするなんて,なんと優雅なことだろう.大正ロマンといったところだろうか.しかし,今ではそのつり橋が,見るも無残に壊れてしまっている.優雅だった頃を想うと,少し寂しい気持ちがした.

瀞峡―そこは迫力ある大峡谷や流れるきれいな水,そして大正から昭和初期に建築された建物が融合した秘境の地であった.

三国にまたがる声やほととぎす
詠み人しらず
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