日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
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◎本日のホラーな段ボール君と目が合う。

2020年07月19日 | ◎これまでの「OM君」
本日のホラーな段ボール君と目が合う。
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◎本日の想像話「伝説の男」

2020年07月19日 | ◎本日の想像話
 伝説の男
 
「あなたが伝説の酔っぱらいヤスですね」
 ガード下の闇にひっそりとたたずむ、つまみは「おでん」のみの屋台。店主のおやじが一人で切り盛りしている。私は目の前の男をやっとの思いで見つけた。
 長イスに斜めに腰掛けるヤスの尻は三割ほどしか座面には乗っていない。リラックスを装っているが、どんな事にも対処出来るフォームを保っている。ヤスはカウンターに沈み込むようにして焼酎らしき安酒を飲んでいるようだ。
「伝説の酔っぱらい?」
 ヤスと思わしき男は下を向いたまま口を開いた。
「あなたの能力が必要なのです」
「俺の能力?お門違いだ。他を当たってくれ。おやじ勘定」
「へえ、千八百円になります」
「そうかい、安いね。ちょっと細かくなるが、手を出してくれるか」
「へえ」
 おやじが両手そろえて差し出す。
「百円玉が、一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚。次でいくらになる?」
「千円ですか」
「そうかい。もう一回いくよ。百円玉が、一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚。次でいくらになる?」
「千円ですか」
「そうかい、もう一回いくよ。百円玉が、一枚、二枚、三枚、四枚、五枚、六枚、七枚、八枚、九枚。次でいくらになる?」
「今夜は値引しときましょう。これで結構です」
「そうかい。おやじ、悪いね」
 ヤスがふらふらと立ち上がる。
(お金払いすぎてるね。ポイント一点追加)私は心の中で思いながらヤスの後をつける。
 右足を一歩。右足をもう一歩。右足をさらに一歩。股は開きに開いてしまっている。思い出したように左足を右足に添える。
(何という歩き方だ。酔っぱらいの歩き方としても新しい。1ポイント追加)
 ヤスはよろよろと進んでいく。進行方向、ちょうど足の着地点に犬の糞が見て取れた。
 危ない。私はそう思ったが、今夜はヤスがどうしのぐかを観察しようと心に決めた。
 ヤスはバランスを崩した。手を地面につきそうだ。ちょうど犬の糞がある。どうなるヤス。私は手をぎゅっと握った。
 ヤスの手は地面にしっかりとついている。しかし、ちょうど手をついた右手の親指と人差し指の間に犬の糞があった。間一髪セーフ。
(何というハラハラ感。すばらしい。一ポイント追加)
 ヤスはさらに進む。向こうから同じ様な千鳥足の酔っぱらいがやってくる。道は狭く、すれ違う余裕はそれほど無い。どうするヤス。右に避けるのか、左に避けるのか。ヤスが右に動けば、相手も同じ側に避ける。左に避ければ、相手も同じ側に動く。二人とも前進は止めない。迫る距離。相変わらず同じ側に避けようとしている。とうとう、二人の額がふれあう距離にまで近づいた後、二人が立ち止まる。
(どうするんだヤス)私は固唾を飲んで見守る。
 ヤスは相手の両肩を両手で掴んだ。 その場でターン。
 忍者屋敷のどんでん返しの扉のごとく二人の位置は無事入れ替わり、何事も無かったかのように、二人の酔っぱらいは前進を続けた。
(すばらしいトンチだ。酔っぱらいポイント一点さらに追加。まさに伝説の酔っぱらい。この才能はもったいない。私の映画にぜひ酔っぱらい役として出演してもらおう)
 私はヤスを自分の映画に出演させる気持ちをさらに強めた。
 しかし、つけている私をあざ笑うかのように、ヤスは恐ろしい速さの車が行き交うバイパスをすいすいとすり抜けて、向こう側に渡りきってしまった。
 そして、伝説の酔っぱらいヤスは闇の中に消えていった。

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