シャンシャンと一緒
とある休日の朝。カズオ達は近所の写真館に、やってきた。生まれたばかりの我が子と一緒の写真を残したかったからだ。
「ヨシエさん。予約の時間は十時だよね」
カズオは、まだ首のすわっていない息子を抱きながら妻に聞いた。
「余裕で間に合うわ。場所はこの先の角を曲がった所なの」
カズオは、息子のご機嫌をうかがいながら角を曲がる。
カズオの視線の先にはバズーカ並のレンズを備えたカメラをこちらに向けている男がいた。しかも、凄まじい連写音が響いている。
「ヨシエさん。たぶん、あれ写真館の人だよね」
「そうでしょうね」
「恐怖を感じるね。あの人で大丈夫かな」
「大丈夫なんじゃない。とにかく笑わないと、アップでばっちり撮られてるわよ」
「そうだな。笑おう」
カズオ達は望遠では狙えない距離までとにかく急いで近づくしかなかった。
息を切りながら、カメラマンに合流する。
「やあ、こんにちは。たっぷりいただきましたよ。当写真館の主、ニノヤマです。どうぞよろしく」
ニノヤマはもう一つのカメラを胸ポケットから取り出した。そのカメラをカズオの顔面に向ける。距離にして1cm。
カズオはニノヤマの行動をしばらく放っておいたが、いつまでも連写をやめないニノヤマに声をかける。
「何を撮っているんですか」
「いや、記念すべき本日の肌の調子を記録しております。後ほど皆さんのお肌も記録します。私の売りは膨大な記録データです。ネットにも書いてあったでしょう」
「まさか、これほどとは思っていませんでした」
予約をしたヨシエの顔には後悔の色が滲んでいる。
カズオ達が店内に入ったのは、二十分後。
肌データの採取に時間がかかった。 はたして写真データは何GBとなっっているのだろうかと、カズオは心配になり、先が思いやられた。
うす青色の幕の前にニノヤマはカズオ達を案内した。
「さあ、はりきって撮影シーズン2へとうつらせていただきます」
カズオ達はすでにぐったりとしていたが、ニノヤマだけはテンションが最高に上がりつつあった。目の輝きがバキバキだった。
「さあ、お父さんはこちらで、お母さんにはイスに座っていただいて。お子さんはお母さんの腕の中です。さあいきますよ。笑って」
シャッター音の連写は五秒以上とぎれない。
「さあ、いいのができましたよ。題して宇宙家族。ちょっと確認してください」
画像データはリアルタイムで机の上にあるパソコンに取り込まれていた。 画面をのぞき込んでカズオは愕然とする。月の上に降り立った宇宙空間。地球が背後にいる。地球は確かに青かった。
「ブルーバックを用いた合成です。アマゾンでチーターと一緒の記念撮影も可能ですし、魅惑の深海パーティもご用意出来ます」
「いや、ふつうの家族写真でいいです」
「そう?残念だな。ちなみにこれまでの写真はすべて、パンダのシャンシャンと一緒に写っているから。これは譲れないからね」
「それは、いいですから、家族写真だけは家族だけでお願いします」
「シャンシャンは?」
「なしでお願いします」
とある休日の朝。カズオ達は近所の写真館に、やってきた。生まれたばかりの我が子と一緒の写真を残したかったからだ。
「ヨシエさん。予約の時間は十時だよね」
カズオは、まだ首のすわっていない息子を抱きながら妻に聞いた。
「余裕で間に合うわ。場所はこの先の角を曲がった所なの」
カズオは、息子のご機嫌をうかがいながら角を曲がる。
カズオの視線の先にはバズーカ並のレンズを備えたカメラをこちらに向けている男がいた。しかも、凄まじい連写音が響いている。
「ヨシエさん。たぶん、あれ写真館の人だよね」
「そうでしょうね」
「恐怖を感じるね。あの人で大丈夫かな」
「大丈夫なんじゃない。とにかく笑わないと、アップでばっちり撮られてるわよ」
「そうだな。笑おう」
カズオ達は望遠では狙えない距離までとにかく急いで近づくしかなかった。
息を切りながら、カメラマンに合流する。
「やあ、こんにちは。たっぷりいただきましたよ。当写真館の主、ニノヤマです。どうぞよろしく」
ニノヤマはもう一つのカメラを胸ポケットから取り出した。そのカメラをカズオの顔面に向ける。距離にして1cm。
カズオはニノヤマの行動をしばらく放っておいたが、いつまでも連写をやめないニノヤマに声をかける。
「何を撮っているんですか」
「いや、記念すべき本日の肌の調子を記録しております。後ほど皆さんのお肌も記録します。私の売りは膨大な記録データです。ネットにも書いてあったでしょう」
「まさか、これほどとは思っていませんでした」
予約をしたヨシエの顔には後悔の色が滲んでいる。
カズオ達が店内に入ったのは、二十分後。
肌データの採取に時間がかかった。 はたして写真データは何GBとなっっているのだろうかと、カズオは心配になり、先が思いやられた。
うす青色の幕の前にニノヤマはカズオ達を案内した。
「さあ、はりきって撮影シーズン2へとうつらせていただきます」
カズオ達はすでにぐったりとしていたが、ニノヤマだけはテンションが最高に上がりつつあった。目の輝きがバキバキだった。
「さあ、お父さんはこちらで、お母さんにはイスに座っていただいて。お子さんはお母さんの腕の中です。さあいきますよ。笑って」
シャッター音の連写は五秒以上とぎれない。
「さあ、いいのができましたよ。題して宇宙家族。ちょっと確認してください」
画像データはリアルタイムで机の上にあるパソコンに取り込まれていた。 画面をのぞき込んでカズオは愕然とする。月の上に降り立った宇宙空間。地球が背後にいる。地球は確かに青かった。
「ブルーバックを用いた合成です。アマゾンでチーターと一緒の記念撮影も可能ですし、魅惑の深海パーティもご用意出来ます」
「いや、ふつうの家族写真でいいです」
「そう?残念だな。ちなみにこれまでの写真はすべて、パンダのシャンシャンと一緒に写っているから。これは譲れないからね」
「それは、いいですから、家族写真だけは家族だけでお願いします」
「シャンシャンは?」
「なしでお願いします」