超能力というものがもしあるとしたら、日常的に発生しそうな事故
瞬間移動
・「いしのなかにいる」という文字が現れて全滅する。瞬間移動先が石の中だった場合の事故。
・遺伝子レベルでハエと合体してしまう。ハエと一緒に瞬間移動して合体してしまう事故。
・高速道路上に瞬間移動してしまう。再ジャンプする暇も無い。
「よし、これでよかろう」
深夜、博士は最後のネジを締め終わると、ドライバーを机に置いた。
博士はこれまでにいくつもの発明を世に送り出している。今回の発明もまた人々の暮らしを劇的に変えるものと確信していた。
「やれやれ、その発明はいただけませんな」
博士は後ろから話しかけ飛び上がって驚いた。研究所には誰も残っていないはずだ。
「誰だ」
振り返った博士は自分の目を疑った。耳まで裂けた口元、背中には翼。尻尾は蛇のようにのたうっている。深紅に光る瞳。その姿はまさに悪魔だ。
「私が誰で、どうしてここにいるのかは分かっているだろう。その発明は闇に葬っていただこうか」
博士は自らを落ち着かすようにマグカップに手を延ばす。冷めてしまったブラックコーヒーを一口飲み下す。
「我ながら半信半疑で作業を進めていましたが、悪魔というものは本当に存在するのですね」
悪魔はゆっくりと博士の眼前にやってくる。瞳の奥には焦りとも懇願ともいえるものを宿しているように博士には感じられた。
「ああ、いるさ。そして返答次第ではお前の魂をいただくことになる。その発明は破壊しろ」
博士は精一杯威嚇する悪魔を、頭の先からから尻尾の先まで興味深く観察する。たっぷりした沈黙の後、博士は口を開く。
「いる事はいるが、物理的な行動は起こせない」
悪魔の顔面には明らかに落胆の表情が浮き上がる。
「そんなことはない」
悪魔は平静を装おうとしている。
「事実と受け取ります」
悪魔は上目遣いで博士を見る。
「行動を起こすのは、あくまで人間だ。我々は、めぼしい人間の耳元でささやくだけだ。すると面白いように思ったとおりの行動を起こす。それが我々の上司の評価となるのだ」
博士は出来上がったばかりの機械に無言でスイッチを入れる。
「よせ、やめてくれ」
悪魔は博士の動きを止めようと右手を上げる途中で音もなく消失した。
「悪魔の声・ノイズ・キャンセラーとでも名付けようか」
消え失せた悪魔を見て博士は満足げにうなずく。
「外野の雑音が人間の意思を惑わす事を歴史は証明している。悪魔のささやきを消し去るマシンは人類をよき方向に導くだろう」
深夜、博士は最後のネジを締め終わると、ドライバーを机に置いた。
博士はこれまでにいくつもの発明を世に送り出している。今回の発明もまた人々の暮らしを劇的に変えるものと確信していた。
「やれやれ、その発明はいただけませんな」
博士は後ろから話しかけ飛び上がって驚いた。研究所には誰も残っていないはずだ。
「誰だ」
振り返った博士は自分の目を疑った。耳まで裂けた口元、背中には翼。尻尾は蛇のようにのたうっている。深紅に光る瞳。その姿はまさに悪魔だ。
「私が誰で、どうしてここにいるのかは分かっているだろう。その発明は闇に葬っていただこうか」
博士は自らを落ち着かすようにマグカップに手を延ばす。冷めてしまったブラックコーヒーを一口飲み下す。
「我ながら半信半疑で作業を進めていましたが、悪魔というものは本当に存在するのですね」
悪魔はゆっくりと博士の眼前にやってくる。瞳の奥には焦りとも懇願ともいえるものを宿しているように博士には感じられた。
「ああ、いるさ。そして返答次第ではお前の魂をいただくことになる。その発明は破壊しろ」
博士は精一杯威嚇する悪魔を、頭の先からから尻尾の先まで興味深く観察する。たっぷりした沈黙の後、博士は口を開く。
「いる事はいるが、物理的な行動は起こせない」
悪魔の顔面には明らかに落胆の表情が浮き上がる。
「そんなことはない」
悪魔は平静を装おうとしている。
「事実と受け取ります」
悪魔は上目遣いで博士を見る。
「行動を起こすのは、あくまで人間だ。我々は、めぼしい人間の耳元でささやくだけだ。すると面白いように思ったとおりの行動を起こす。それが我々の上司の評価となるのだ」
博士は出来上がったばかりの機械に無言でスイッチを入れる。
「よせ、やめてくれ」
悪魔は博士の動きを止めようと右手を上げる途中で音もなく消失した。
「悪魔の声・ノイズ・キャンセラーとでも名付けようか」
消え失せた悪魔を見て博士は満足げにうなずく。
「外野の雑音が人間の意思を惑わす事を歴史は証明している。悪魔のささやきを消し去るマシンは人類をよき方向に導くだろう」