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日常観察隊おにみみ君

「おにみみコーラ」いかがでしょう。
http://onimimicola.jimdofree.com

◎本日の空想話「いないのにいる話」

2016年05月05日 | ◎これまでの「OM君」
とある夕暮れ。
男が一人歩いていた。
その瞳には他者の存在はまったく映っていない。ただまっすぐ正面を見据えたまま歩いている。
長身、黒ずくめの服を身にまとっている。
でっぷりとした体格。
黒ソーセージのようだ。
黒ソーセージ男はいたって愉快だった。
男はこう思っていた。
俺はタンカーなのだ。
俺が波をかき分けているのだと。
一応に男とすれ違った人々の反応は同じだった。
顔は強ばり、拳は握られ、怒りの表情を浮かべている。
男は「怒りの神」なのだ。
人々の目には怒りの神の姿は見えない。
ただ訳もなく不意にわきたつ怒りに人々は耐えているのだ。

その時、もう一人の男が黒ソーセージの前方から歩いてきた。
身につけているものはすべて白。
細身の体躯と相まってまるでろうそくのようだ。
ろうそく男が歩いた後の人々の表情は消えていた。
「初期設定の神」と呼ばれている。
心理状態をデフォルトに戻すのだ。

「よう」
黒い声で怒りの神が先に声をかけた。
「……」
初期設定の神は初期設定らしく無言だった。
(いやな神と会う)
初期設定の神は無言だったが、実は怒りの神が苦手だった。
夜明け前の湖のように静まり返った自分の心が乱されるのを感じるのだ。
そしてあろう事か心がムカムカしてきた。
ふつふつと怒りがこみ上げてくるのが自分でも分かった。
いつも黒い格好しやがって。
黒さえ着ていればおしゃれだと思ってやがるな。
服装じゃあねえんだよ。
その体型、顔つきがお前がゲスである事をあらわしてるんだよ。
世の中、怒ってもしょうがねえんだよ。
他人との衝突をいかにして回避するかが人生の99パーセントをしめるんだ。
怒り散らして、他人をねじ曲げて、お前はそれで満足かもしれないが、めんどくせえんだ。
お前は他者の存在しない、無人島にいやがれ。
お前の存在が迷惑なのだ。
ぶん殴ってやろうか。


怒りの神はそのときこう思っていた。
初期設定の神。
おいら苦手だぜ。
こいつと話していると、おいらの煮えたぎる怒りが凍り付くのを感じるんだ。
話しかけて無視されればとんでもない怒りでぶっ殺すところだが、なぜだか心が落ち着く?
穏やかになるんだよな。
まあ、こいつも悪い奴じゃあねえんだよな。
しかし、腑に落ちない事もあるものだ。
日に5、6回は必ずこいつと出会うのはなぜだろう。
いい調子で歩き回っていると必ず出会う。
まあ、冷静になって考えると俺たち二人はペアーで動いた方が世の中うまくいっているような気がする。
イソップ童話の「北風と太陽」みたいに怒りだけでは世の中回らないよな。
時には冷静になって、自分の悪いところは直す。
相手がいつだって一方的に悪いわけはないんだ。
100パーセントの善悪なんてない。
主観によってどうとでもなるはずなのだ。
しかし、不思議だ。
俺は神のはずなのに、誰かに操られているように感じるのはなぜだろう…
まあ、世の中、平和ならそれはそれでいいか。

黒いソーセージと白いローソクは一瞬とも永遠とも思える時間ですれ違っていった。

彼らがすれ違った後の人々はちょうどいいバランスの精神状態なのだった。