今週の仕事は終わり。
解放感でいっぱいだ。
書店により、今日発売の本を買った。
アパートに帰り、流し込むように夕食をすませる。
シャワーも浴びた。
さあ、これからは俺の時間だ。
机の上に、さきほど購入した「時刻表」を取り出す。
自分の時間と金は100%自分の為に使う。
それが俺の信条だ。
だから女にもてない。
それは仕方ない。
だって、もてないから。
時刻表さえあれば、いつでもどこでも旅に出れる。
鉄道オタクでよかったと思える瞬間だ。
連休で訪れる目的地はもう決まっている。
どのルートで行くか。
北からアプローチするか、南から攻めるか。
発車時刻、停車時刻、乗り換え。
頭の中では車窓の風景が流れる。
ローカル線の鈍行に乗る俺。
ディーゼルエンジンの音、吐き出される黒煙。
まるでバスのように引き出すと乗り込んだ駅の分かる数字の書かれた紙が手元に残る。
ワンマン車両。
運転手は駅に止まるごとに降車し、先ほどの紙切れとお金もしくはチケットを慌ただしく回収する。
広がる田園地帯。
トンネル。
驚くほど窓に近い崖。
4人掛けのボックス席。
正座して座るおばあちゃん。
14時25分着。
この駅で乗り換えの為、一旦電車を降りる。
14時40分発の電車を待つ。
一段、一段の階段に張り付けられた細長い広告のおびただしい数に圧倒される。
14時28分。
電車が到着する。
首を傾げる。
到着時間がおかしい。
本来は38分に到着して、40分発車のはずだ。
ガラガラ
ドアが開く。
エア式ではないのか、ひどく立て付けの悪い実家の玄関のような音がした。
乗り込む。
明るいはずの車内だが、ひどく薄暗い。
「お客さん切符は!」
いつの間にか運転手がおれの真後ろに立っていて、叫んだ。
「うあ!」
振り向きざま俺も叫んだ。
運転手は帽子を目深に被り、口元しか見えない。
ひどい悪臭がする。
「ああ、すいません。切符はここに」
胸ポケットからあわてて青春18切符を取り出し、見せた。
「そ、そんなんじゃねえ!降りろ!この電車にあんたは乗せない」
胸を平手でどんどん押された。
後ろによろめく。
それでも胸を押される。
「ちょっとちょっと…」
そう言うのが精一杯だ。
車外に押し出される。
ガラガラ
閉まるドア。
運転手はドアの前に立ったまま。
しかし電車は発車した。
睨みつける運転手の目。
黒目は無かった。
ベッドで寝ている。
見慣れない部屋。
マスク状のプラスチックが俺の口元を覆っている。
点滴が腕にくっついている。
「ああ、よかった、気づかれましたね。もう大丈夫ですよ。じつは一酸化酸素中毒でここに運ばれてきたんですよ」
医師らしき若者が口を開いた。
「原因は調査中とのことですが、どうやら隣室のボイラーの不完全燃焼で発生した一酸化酸素が塀をつたってあなたの部屋に流れ込んだようです。あなたが発見されたのは消防に匿名の電話があったそうです。意識を失っている男がいるって。その人が「無賃乗車だ!まったく許せん!」って最後に言ったそうですが、意味分かります?」
解放感でいっぱいだ。
書店により、今日発売の本を買った。
アパートに帰り、流し込むように夕食をすませる。
シャワーも浴びた。
さあ、これからは俺の時間だ。
机の上に、さきほど購入した「時刻表」を取り出す。
自分の時間と金は100%自分の為に使う。
それが俺の信条だ。
だから女にもてない。
それは仕方ない。
だって、もてないから。
時刻表さえあれば、いつでもどこでも旅に出れる。
鉄道オタクでよかったと思える瞬間だ。
連休で訪れる目的地はもう決まっている。
どのルートで行くか。
北からアプローチするか、南から攻めるか。
発車時刻、停車時刻、乗り換え。
頭の中では車窓の風景が流れる。
ローカル線の鈍行に乗る俺。
ディーゼルエンジンの音、吐き出される黒煙。
まるでバスのように引き出すと乗り込んだ駅の分かる数字の書かれた紙が手元に残る。
ワンマン車両。
運転手は駅に止まるごとに降車し、先ほどの紙切れとお金もしくはチケットを慌ただしく回収する。
広がる田園地帯。
トンネル。
驚くほど窓に近い崖。
4人掛けのボックス席。
正座して座るおばあちゃん。
14時25分着。
この駅で乗り換えの為、一旦電車を降りる。
14時40分発の電車を待つ。
一段、一段の階段に張り付けられた細長い広告のおびただしい数に圧倒される。
14時28分。
電車が到着する。
首を傾げる。
到着時間がおかしい。
本来は38分に到着して、40分発車のはずだ。
ガラガラ
ドアが開く。
エア式ではないのか、ひどく立て付けの悪い実家の玄関のような音がした。
乗り込む。
明るいはずの車内だが、ひどく薄暗い。
「お客さん切符は!」
いつの間にか運転手がおれの真後ろに立っていて、叫んだ。
「うあ!」
振り向きざま俺も叫んだ。
運転手は帽子を目深に被り、口元しか見えない。
ひどい悪臭がする。
「ああ、すいません。切符はここに」
胸ポケットからあわてて青春18切符を取り出し、見せた。
「そ、そんなんじゃねえ!降りろ!この電車にあんたは乗せない」
胸を平手でどんどん押された。
後ろによろめく。
それでも胸を押される。
「ちょっとちょっと…」
そう言うのが精一杯だ。
車外に押し出される。
ガラガラ
閉まるドア。
運転手はドアの前に立ったまま。
しかし電車は発車した。
睨みつける運転手の目。
黒目は無かった。
ベッドで寝ている。
見慣れない部屋。
マスク状のプラスチックが俺の口元を覆っている。
点滴が腕にくっついている。
「ああ、よかった、気づかれましたね。もう大丈夫ですよ。じつは一酸化酸素中毒でここに運ばれてきたんですよ」
医師らしき若者が口を開いた。
「原因は調査中とのことですが、どうやら隣室のボイラーの不完全燃焼で発生した一酸化酸素が塀をつたってあなたの部屋に流れ込んだようです。あなたが発見されたのは消防に匿名の電話があったそうです。意識を失っている男がいるって。その人が「無賃乗車だ!まったく許せん!」って最後に言ったそうですが、意味分かります?」