教育をサービスとしてみる見方がいいのかどうか、ちょっと疑問がありますが、反省する視点としては大切かもしれません。
公共サービスは最低だ
R&D/J.D.Power社が92年の秋、発表したCSJ'91(日本の生活者満足調査)(以下「CSJ」調査と呼びます)によりますと「一般に公共サービスは民間企業のサービスに比較して質が低い」という意見に同意する人が8割にも達しています。内訳を見ますと「まったく同感」が3割(29.1%)、「ややそう思う」が半数の49.8%なのです。
主に人を媒介とするサービスの満足度をインデックスでみますと、ホテルや旅館のフロントの応対(145)、航空機内のサービス(139)、ガソリンステーションの給油サービス(136)の評価は高いのですが、平均指数111以下の項目を選びますと、訪問販売(35)、新聞の勧誘(50)がいずれも訪問販売ですが50以下、次いで評価の低いのは生命保険-外交員の応対(91)、大学・短大-教師(94)、小・中学校-教師(94)、高校教師(95)、ディスカウントストア-店員の応対(98)、市町村役所の窓口(100)、コンビニエンスストア-店員の応対(106)、弁護士(107)、病院・医院-受付(108)、スーパーマーケット-店員の応対(111)、税理士、会計士(111)となっています。
いわゆる公共サービスで平均より高いのは獣医(127)、旅行会社-窓口応対(127)、郵便局の窓口(127)、列車-乗務員(126)、歯科医(120)、病院/医院-医師・看護婦(113)、列車-駅窓口の応対(113)という指数がCSJ'91に出ています。
これを見ますと教育関係は大学から小学校までことごとく満足度指数が低いことが明白ですが、3時間待ちの3分診療といわれる医療関係が一応平均を確保しているのは意外です。
満足度が低い学習内容
CSJ'91で「教育・学習」関連サービスは顧客の満足度が最低で評価は低く、高いものが見当たりません。一番高い「カルチャーセンタ-・各種教室」の110を最高に100以上の指数は「学校の施設・設備」(それも義務教育の小中学校が高く、大学が低い)と「地方自治体の主催する成人教育講座」。不満度が高いのは「現在の受験制度全般(35)」で断トツです。使節・設備の満足度と対照的に「指導方針・学習内容(小中学校-84、高校-89、大学・短大-91)」や「教師(いずれも94~95)」への満足度が低いのは問題です。小学校から大学まで「指導方針・学習内容」さらに「教師」などのソフトの部分の評価が低い事実は現在の画一的な管理教育そのものに問題があるとする人が増えてきた証拠ではないでしょうか。
一体教育産業にとって顧客とは誰なのでしょうか。その辺の認識すら曖昧です。誇り高い大学人にとってみればお客とは何事かと言うことになりますが、大学には二つの種類の顧客がいることが現実でそう認識すべきであります。まず学生であります。この場合これに出資あるいは投資している父母も含まれますからやや複雑です。
もう一つの顧客は社会であり、絞り込めば学生を採用する企業を含めた組織です。大学は高校からいい原材料(学生)を仕入れ社会に役立つ付加価値をつけて送り出す加工工場です。
昔、大学生がエリートであった時代はいざ知らず、今日の大衆高等教育社会(高度大衆消費社会を反映した)においては大学の目的・使命も変わらざるを得ません。顧客である企業を満足させる人材を作ること、高度な抽象的な学習内容でなく、卒業したらすぐ戦力として使える実学的な技能が求められているのです。
直接の顧客であり商品である学生が大学に求めるものは卒業証書です。勉強する学生は例外で、大半は単位の取得容易な授業を取り、アルバイトに精を出し四年間のモラトリアムを過ごし卒業証書を貰うこと。いまは卒業論文を書かず、ゼミに参加せずとも卒業できる仕組みです。卒業単位数や必修科目を減らす傾向も見られます。授業内容は十年一日のまま改善する気もなく学生に迎合し、簡単に卒業証書を出せば受験生が来てくれると考える大学が増えています。しかし、経済的観点から見ても大学が生き残る道は顧客である企業のニーズに合致し学生(第一の顧客)の関心と意欲にマッチさせた、時代を先取りする授業内容にする以外手はないのです。
「続 顧客満足ってなあに?」佐藤共恭著、日本経済新聞社より
高校教育の顧客は誰?まず、生徒や保護者。次に、地域住民。そして、企業や大学・短大・専門学校。顧客満足度を高める方策を考える必要に迫られつつある。発想の転換が求められている。私たちは何をすべきか。