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オバマ政権(2)<本山美彦>

2009-04-06 | 時事問題
オバマ政策は米国経済を本格的恐慌に追い込む

現在の米国発の世界金融危機に米国オバマ新政権が積極果敢に対処していると、日本では高く評価されている。米国の素早い対策が今回の経済危機を早期に落ち着かせるであろうともいわれている。はたして、そういいきっていいのだろうか。事実はその反対である。

オバマ政権は、金融危機の原因に対して何らの判断を示すことなく、目もくらむ膨大な公的資金を、危機に陥った企業や銀行にひたすら注ぎ込んでいる。しかし、危機の源を除去することは一切していない。何が問題であり、危機の責任を誰がとるべきなのか、危機の原因をどのようにして取り除くのか、等々、一切不問にされたまま、未曾有の膨大な公的資金の投入を口先で約束しているだけである。

米国財政も膨大な赤字である。つまり、膨大な公的資金は、国債を中央銀行であるFRB(連邦準備銀行)に引き受けさせることによってしか作り出せない。しかし、中央銀行による国債引き受けによって資金を生み出すことはそもそも金融政策上の禁じ手である。

一 米国には使える公的資金はない

二〇〇九年二月一〇日、オバマ政権の新財務長官ティモシー・ガイトナー(前ニューヨーク連銀総裁)が、米国の新たな金融安定化策を発表した。ところが、その途端にニューヨークのダウ工業株三〇種平均株価が約四〇〇ドルも急落して、八〇〇〇ドルを割り込んだ。オバマ政権に対する失望売りであった。

ガイトナーが発表した金融安定化策は、次のようなものだった。①官民共同の不良資産買取ファンドの設立(五〇〇〇億~一兆ドル)、②住宅差し押さえ回避策(五〇〇億ドル)、③FRBのTALF制度(Term Asset-Backed Securities Loan Facility=期間物資産担保証券貸出制度)といって、クレジットカードや学生・自動車ローンなどの小規模ローンを集約したABS(Asset Backed Securities=資産担保証券)を保有する個人や法人に、FRBが直接融資をおこなう制度(二〇〇九年より導入)を、それまでの最大二〇〇〇億ドルから最大一兆ドルに拡充。

このように、最大で二兆ドル(一八〇兆円)規模の公的資金支出が発表されたのである。まだある。この発表直後に、米政府は八〇〇〇億ドル規模の景気対策法案も発表した。合わせて三兆ドル弱(二五〇兆円)規模の大盤振る舞いをするという宣言であった。ところが、ニューヨーク市場は株式の失望売りという反応を示したのである。

こうした膨大な資金をどのような操作で生み出さすのか?市場の失望はこの疑念にある。そして、不思議な事態が見受けられる。FRBの国債引き受けが減少したのである。FRBが国債引き受けをしていないとすれば、膨大な資金をオバマ政権はどこから生み出そうとしているのか。

二〇〇八年一一月末、米国の国債発行残高は、一〇兆六六一二億ドル(約九七〇兆円)であった。同年一二月末では、一〇兆六九九八億ドル(約九七四兆円)で、対前月比三八六億ドル増。ところが、二〇〇九年一月末には、一〇兆六三二一億ドル(約九六八兆円)と、対前月比六七七億ドルも減少したのである。意外なことに、米国債の発行残高は、二〇〇八年一一月末以来横ばい、そして、減少したのである。

この事実はどのように理解されるべきなのか?オバマ政権は膨大な公的資金供給を宣言した。しかし、実際には、二〇〇八年一二月半ば以降、米政府・FRBによる追加の金融対策や景気対策はほとんど実行されていなかったのである。年末以降、FRBや米政府は、毎週のように数千億~数兆ドル規模の景気対策・金融安定化策を発表してきたが、それらは口先だけであった。

二〇〇九年二月一〇日のガイトナーによる金融安定化策の発表も、財源については一切触れられていなかった。それが市場の失望を呼び、株価を急落させたのである。金融機関や企業は、厄災の種をまき、混乱を引き起こしたのに、行き詰まると国家に救済を要求するご都合主義の姿勢には辟易するが、それでも、口先だけの約束への市場の失望感は深い。

つまり、FRBは国債引き受けに逡巡し、さりとて、国債の市中消化は進んではいないのである。米国は、二〇〇九年二月に、一六四〇億ドル(約一五兆円)の米国債の入札が実施されたが、この程度の市中消化では、三兆ドルもの資金調達目標からすれば絶望的なほどの少額である。現在の米国政府には、金融・経済対策に動員できる財源の見込みなどほとんどなくなっている可能性が強い(http://www.financial-j.net/blog/2009/02/000823.html)。

米『ウォールストリート・ジャーナル』(二〇〇九年二月一一日付)によると、FRBは、これまで以上の国債引き受けを忌避しているという。FRBはさらに、長期融資の拡大にも消極的という。景気が回復し、FRBが利上げのために金融システムから資金を吸い上げたい時に、長期融資で供給した資金は回収が困難になる可能性があるからであるというのが、伝えられるFRBの姿勢である(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090212-00000446-reu-bus_all)。

二 ニューディールを上回る資金供給約束

二〇〇九年一月二六日付の米『タイム』誌が、オバマ政権の公的資金散布約束の異常な膨大さを指摘した。一九三〇年代の大恐慌を克服するためにフランクリン・ローズベルト大統領によるニューディール政策は伝説として語られてきたし、オバマ政権もグリーン・ニューディールを標榜している。ここにも、私たちを錯誤に陥れる仕掛けが用意されている。ローズベルトが、ニューディールとして使った公的資金は、わずか四九億ドルであった。もちろん、貨幣価値が異なるので、現在のわずか四九億ドルと受け取ることは間違っているが、それでも、現在価値に直したとしても、七五〇億ドルを超えることはまずないであろう。第二次世界大戦でも、GDPの二〇%を超す出費ではなかった(大前研一「相当に危ういオバマ政権の経済認識」、第一六三回、二〇〇九年二月一二日、http://www.nikkeibp.co.jp/article/news/20090212/131416/)。

ところが、オバマ政権は、三兆ドルを二月一〇日に約束したのである。それ以前の、公的資金投入約束、および、借金額をすべて加算すれば、米国のGDP一五兆ドルの八〇%強を占める。しかし、これだけの巨額の資金調達自体が米政府にはできない。FRBは、いずれ、過渡的に国債を引き受けるように軌道修正をするであろうが、問題は、国債の市中消化のあてがまったくないことである。

日本は米国の圧力に屈して米国債を引き受けるであろうが、日本よりもこれまで、大量の米国債を引き受けていた中国は、オバマ新政権への不信感を隠していない。

ブッシュ政権時代のポールソン財務長官が、まず、中国の感情を刺激した。退任直前の二〇〇九年一月二日、『フィナンシャル・タイムズ』に「とりわけ、中国の過剰貯蓄が金利低下をもたらし、リスクを世界中に広げた」と、今回の金融危機の原因は、中国にあるとして、米国責任論を否定する発言をした。ポールソンは、ゴールドマンサックスの会長時、対中国ビジネスを強化し、中国で最初の元を扱う外国金融機関の地位を確保してきた。にもかかわらず、退任直前になって自らの責任を中国に転嫁したのである。

オバマ政権の財務長官のガイトナーも前任者の発言を踏襲し、「中国は為替操作国として大統領が認識している」とこれまた中国を挑発した(二〇〇九年一月二二日、上院財政委員会の質問への返答書簡)。米国に対する発言権を増す意図であろうが、中国は、米国の金融危機が深刻化した二〇〇八年九月から米国債購入を増やしていた。しかし、ガイトナー発言に立腹した中国の温家宝首相は、二〇〇九年一月三一日、英国の華僑関係者とのロンドンでの会合で「今後も米国債を買い続けるか、どの程度買うかは、中国の需要や外貨資産の安全性と価値を保つ必要性に基づいて決める」と述べ、米国債を大量に買い増してきたこれまでの方針を見直す可能性を示唆した(http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/america/218319)。

とすれば、米国が即刻で頼れるのは日本のみである。オバマ政権の発足後、クリントン国務長官が初の外遊先として日本を訪れたほか、麻生太郎首相が外国首脳として初めてホワイトハウスに招かれた。日本との関係緊密化に動く背景には、発行が急増している米国債の購入を要請することが狙いではないかとの観測記事が出されていた。二〇〇九年二月二五日現在、日米首脳会議の公式発表からは、米国債の話は出ていない。しかし、何らかの裏取引が両首脳間で交わされた可能性は否定できない。真相は不明である。ただし、膨大な米国債は日本のみでは消化できない。

オバマ政権の相次ぐ財政支出で、二〇〇九年度の財政赤字は一兆五〇〇〇億ドル(約一四二兆円)に上るとみられ、長期金利は、深刻な景気後退にもかかわらず、二〇〇九年に入りジリジリと上昇している。コロンビア大学経営大学院の日本専門家、アリシア・オガワは「中国に次ぐ世界第二位の米国債保有国である日本に米国債の継続的な購入を要請することが首脳会談の目的の一つ」と分析していた。米国債の二二%を保有する中国が米国債を買わなくなればオバマのシナリオは完全に崩れる。リチャード・カッツは「日米首脳会談で日本の顔を立てた後は、米国は中国との対話を本格化させる」と予想した(http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2009022400518)。

中国を恫喝すれば、米国の危機を解消できると単純に思いこむオバマ政権は、かなり危ういと大前研一は断言した(前記ブログ)。

三 金融規制反対であったオバマ政権の経済閣僚

LTCM破綻後の一九九八年に、米商品先物取引委員会(CFTC=Commodity Futures Trading Commission )のブルックスリー・ボーン(Brooksley Born)委員長(Chairperson)が、金融取引を規制せず野放しにすれば「経済が重大な危機にさらされる」可能性があると言明した。しかし、規制導入をめぐり、グリーンスパン前FRB議長やルービン元米財務長官との縄張り争いに屈した(http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=a47IZfZDKVDw)。

ボーン委員長による試案取りまとめの段階で、当時財務相副長官であったサマーズが委員長に電話をかけ、副長官室に一三人の金融実務家たちが待機しているが、「この試案を
発表すれば、第二次大戦後の最大の金融混乱が起こると彼らは懸念している」と恫喝した。

一九九九年一一月、長官に昇進したサマーズ財務長官とグリーンスパンFRB議長が、金融派性商品を政府の管理下に置くことに反対した報告書を出した。さらに、二〇〇〇年、上院銀行委員会の当時の委員長のグラム共和党上院議員が提出した「二〇〇〇年商品先物近代化法」が成立し、商品先物の規制を事実上禁止した(Heuvel, Katrina, "Brooksley Born: The Woman Greenspan, Rubin & Summers Silenced," http://www.global-sisterhood-network.org/content/view/2205/59/)。

つまり、債権の証券化の歯止め、金融派生商品の規制、レバリッジ規制、投資内容の透明化、格付け会社の透明化、モノラインの透明化、等々の米国が解決すべき課題解決の道筋すらオバマ政権はつけていない。確実なのは、口先約束の破綻からくる経済の奈落、約束を果たした後のハイパーインフレーションの恐怖、それこそ、本格的な恐慌の到来である。

本山美彦氏のブログ 「消された伝統の復権」から転載
http://blog.goo.ne.jp/motoyama_2006

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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