すばるに恋して∞に堕ちて

新たに。また1から始めてみようかと。

STORY.36 空散歩

2010-05-10 18:00:04 | 小説・舞音ちゃんシリーズ
前回のお話から約1ケ月。
自分としては、まあまあのペースで、完成にこぎつけました。

前回のお話のすぐあとに浮かんだお話で、
端午の節句に合わせてUPしようと思ってたのに、ちょこっとだけ遅れてしまいました。

ほんのちょっと、落とし所に迷ってたんですが、
先日の冒険ジャパンの、可愛い可愛い不器用なすばちゃんを見ていたら、
あれだけ迷ってた筆が、すんなりと、動いてくれました。

あああ、良かった。

注意事項ですが。

いつものとおり、主人公は赤い人ですが、実名は出て来ませんのであしからず。
唯一、
彼が女の子が欲しいなあ、と某雑誌でのたまって以来、
ここには実名の女の子が一人登場してます。
が。
あくまでも、架空設定の妄想小説。
お名前変換機能もついてません。

これが私のスタイルなので、他の妄想小説(夢小説)とお比べなきようお願いします。

って言うか、今回、言い訳が長っ。

お付き合い頂けるかたは、追記からお願いします。



あ。忘れるとこだった。
今回も、小説のラストに、ランキング用のぽちが貼りつけてあります。
小説を書いた時だけお願いしてるランキングですが、
ご協力いただける方は、ぽちっとな、お願いします。

では。
お楽しみくださいませ。









STORY.36 空散歩




長く続いた雨があがる。

洗われたような青い空を、風が渡ってゆく。

窓の向こう側に並んだふたつのシルエット。
小さな方は舞音(まのん)で、
もうひとつは、彼女やな。

俺は、ソファに寝転んだまま、それをぼんやりと見つめてる。

洗濯物の入ったかごの中から、舞音が小さな手で、ひとつを拾い上げる。
伸ばした彼女の手が、それを受け取り、
ハンガーにかけてゆく。

舞音がはしゃぎ、彼女がほほ笑む。

部屋の中にいる俺に気づいたのか、舞音が部屋に戻ってきた。

「しょや、しょや、おっちー」

両手を広げて、興奮状態の舞音。
なんや?
いつものことながら、舞音の言葉は解読不能や。

ソファに寝転んでた俺に、なんのためらいもなく飛び乗ってくる舞音。

「痛ッ!! なにする・・・」

声張り上げた俺に驚いたんか、舞音の顔がゆがむ。

シマッタ・・・と思った時には、もう。

「うぇ。。。」
泣き出した舞音。

「あ~、もう、泣かんでもええやん。泣きたいんは、こっちやで」

俺は身体を起こして、舞音を抱き上げる。

「なんや、どないした?」

細い髪を撫でながら、顔を覗き込む。

ぐちゃぐちゃになった顔。
指で、涙をぬぐってやる。

右手の親指を口元にもっていこうとする舞音。

俺は、そっとその手を握ってやった。

「あかんで。この指は、パパがナイナイしといたる」

舞音の指しゃぶりは、なかなか止まらん。
歯並びや、あごの形に影響する言うて、彼女が気にしてるんを知ってるから、
指をしゃぶろうとした時には、こうして、そっと手を握って隠してやることにしてる。

イヤそうな顔をして、振り払おうとするときもあれば、
今みたいに、素直に手を握られておとなしくなる時もある。

振り払おうとするんは、たいがい、眠い時やから、
分かり易いっちゃ、分かり易いねんけどな。

握られた指と俺の顔を交互に見比べて、舞音が口を開く。

「トト・・・トト・・・」

「ん?」

「おしょや、おっちーの」

「おしょや・・・って?」

舞音は、窓の外を指さす。

あ、空か。
空が、どないかしたんか?

俺は舞音を抱き上げて、窓辺に立つ。

人影に気づいて、彼女がこっちを振り向く。

「なに? 舞音、また泣かしたん?」

開け放した窓の向こうから、彼女が微笑う。

「人聞き悪いわ。泣かしたりせぇへんよ。勝手に泣いたんやで」

「そぉ?」

「あ、信じてへんな、その顔」

彼女は、ふふふッ、とにこやかな笑顔を見せて、
また、手にした洗濯物をハンガーに掛ける。

小さな舞音の、薄ピンクのTシャツが風に揺れる。

「なあ、舞音がなんか言ってるんやけど、意味がわからんねん」

「舞音が?」

「おしょやがどーの、おっちいーの???」

彼女は、その単語を聞くなり、
「ああ・・・、それなら」と言って、ベランダの向こうを指差した。

「あれ、じゃない?」

彼女の指の先には、ひらひらと泳ぐ鯉のぼり。

「ああ、なるほど」

おしょやは、「お空」で、「おっちーの」は「大きいの」か。
トトは、魚のことや。

「舞音、あれはトトやのうて、鯉のぼりや」

「こいのい・・・?」

「ちゃうって、鯉のぼり」

「こいのい、まのは?」

「ん? 舞音のは、ないなー。男の子のもんやからな」

「まのも、くやしゃい」

「くやしゃい、言われてもな・・・。舞音には、お雛さんあったやろ」

あれは・・・2月のあたまか。
豆まき済んだから言うて、彼女が嬉しそうに、お雛さん飾ってたん覚えてるわ。

さして広くないマンションの、シンプルなリビング。
そこだけ、華やかな色で溢れてた。

いつもやったら、おもちゃひっくり返して遊ぶ舞音も、お雛さんだけは触らへんかったな。

あれ、なんでやったんやろ。

「まのもー、こいのいィー」

ぐずりだす舞音。

「なあ、どーする、これ」

俺は彼女に助けを求めた。

空っぽになったかごを抱えて、彼女が部屋に戻ってくる。

「作ってやったら?」

「作って、って、鯉のぼりをか?」

「うん。そこに、画用紙あるわよ? クレヨンもね」

こともなげにそう言って、リビングの片隅にあった舞音のおもちゃ箱を指さす。

ちょ、待って。
俺に絵、描かせる気なん?

「ぱーぱ、こいのい、こいのい」

あのなー。

めっちゃ期待顔の舞音が、はしゃぐ。

俺は舞音を降ろして、仕方なし、おもちゃ箱から画用紙とクレヨンを出した。

俺の隣にしゃがみ込んで、手元をじっと見てる舞音。

「舞音も、描くか?」

「あい」

「ほんなら、こっちでやり」

俺は画用紙を1枚破って、舞音の前に置く。

「クレヨンはパパと二人で使おうな」

「あい」

嬉しそうな顔でクレヨンを持つと、舞音は画用紙に線を描きだした。


さあて、と。
鯉のぼり・・・やろ?
魚やから、え~っと。

こう書いて、
ここがこんな感じで、

えええ?
このあたりは、どんなんやったっけ。


どれくらいの時間が経ったのか、

「ああーーーーッ!!!」

突然、頭の上から、彼女の大きな声が降ってきた。

なんやねん、もう。
びっくりするやん。

顔をあげた俺の目に、怒ったような、困ったような顔の彼女が飛び込んできた。

「やだぁ、もう」

何がやねん。

彼女が、ちょいちょいと横を指差す。

「舞音にお絵かきさせる時は新聞紙敷いてって、お願いしなかった私が悪い。
 悪いけど、でも・・・」

溜息の彼女。
言われて、横を見れば。
そこには。

「うッわ。やってもうたな」

「ね。やっちゃったわね」

画用紙からはみ出して、リビングの床に描かれたクレヨンの線。
カラフルに繋がっていく、色の波。

楽しいんやろな。
俺らの声にも気付かんと、嬉々としてクレヨン持って線を描き続けてる舞音。

「あーあ、消すの大変だわ」

そう言って、彼女はキッチンへ向かう。

俺は、舞音が描いたその線を、じっと見つめた。

傍目から見たら、ただのくちゃくちゃな線で、
単なる手の動きの跡、としか見えへんやろけど、
これは、確かに、舞音の心に刻まれた「鯉のぼり」なんやろな。

いろんな色が繋がった、大きな、
今にも、動きだしそうに踊っている線のかたまり。

ただの落書きでしかないそいつが、
どんな絵描きの絵よりも高価なもんに思えるんは、なんでやろな。


「へえ、うまいやん」

俺の声に、舞音が顔をあげた。

「舞音も、鯉のぼり描いたんか?」

「あい。パパこいのい、ママこいのい」

言いながら、ひとつひとつを指さす。
どれがどれか、は、わからんけどな。

「舞音がおらへんやん」

「いゆれしゅ」

「いる? どこに」

俺は舞音が描いた鯉のぼりをじっと見つめる。

わからずに困惑してる俺の顔を見上げて、にかッと舞音が笑った。

「こーこ」

そう言って、自分が描いた線の上に、ぺたん、と座った。

「まの、こーこ」

嬉しそうに、とびきりの笑顔の舞音。

座ったまま、床をまじまじと見つめてる。

「いちゅ、とべやしゅか?」

は?
なんて?

「まのも、おしょや、行くの」

おいおい。

「おしょや、いけゆ?」

う~~~~ん。

「こいのい、おしょや。 まのも、おしょや、いけゆ?」

う~~~~~ん。
どう答えたら、ええねやろ。

「それは、ちょっと無理ね」

キッチンから戻った彼女のキツイ口調。
怒ってる・・・?

「さあ、どいてちょうだい、舞音。これ、消さないと」

手にしたタオルを床に置いて、舞音を抱き上げようとした。

「いやん、やん。やーーーッ」

のけぞって抵抗する舞音。

「ああああ、ちょい、待てや」

俺は彼女を手で制する。

「ちょぉ、舞音そのままにしといて」

「えええ?なんでよ」

「ええから、ちょい待って」

俺は、ソファに投げ出してあった携帯を手に取る。
カメラ機能使うんは、久しぶりやけど。

「舞音、こっち見て、パパの方。ええ顔してみ?」

泣き顔になりかけた舞音が、俺を見上げる。

「舞音。いつもみたいに、パパ好き、言うてや」

きょとんとした舞音が、それでも、

「パパ、しゅち」

と笑った。
泣くのを我慢した、いっぱいいっぱいの笑顔やな。
しゃあないか。

カシャッ。

「もう、何してんのッ。写真撮ってる場合ちゃうし」

彼女が我慢しきれんように舞音を抱き上げた。

「いくら水で消せるクレヨンでも、時間がたっちゃうと消し難いのよ」

へぇ、これ、水で消せるんや。
てか、普通、クレヨンは水で消せへんのか・・・。
知らんかったわ。

いや、そうやなくて。

「これ、鯉のぼりやねんて」

俺は、彼女の腕から舞音を抱きとる。

「鯉のぼり???」

床の線を、じっと見つめる彼女。

「鯉のぼりに乗って、空を飛びたかったんやって」

「う~~~ん」

しばし考えたのち、

「だからって、でもこれ、このままにはしとけないよ。消さないと」

「せやから、これ」

俺は、携帯の画面を見せる。

「ほら、こうやって見ると、鯉のぼりに乗ってるようにみえるやろ?」

彼女が、携帯の画面を凝視する。

「こうして残したから、もうええよ、消しても。
 説明せんと分からへんような落書きでも、大切な舞音の作品やからな」

「ごめん」

「ん? なにが・・・?」

「私には、舞音のこれを作品って思えなかった・・・」

「そら、しゃあないわ。俺やって、舞音に訊かんかったら分からへんかったもん。
 それより・・・」

俺は、舞音をソファに座らせると、床にあったタオルを手に取った。

「スマンかったな。俺が新聞紙敷かんかったせいで、余計な手間、かかってもうた」

言いながら、そのタオルで、床のクレヨンを拭ってみる。
多少のあとは残るものの、鮮やかな色は、みるみるうちに消えてゆく。

「このクレヨン、すごいな。ほんまに消えてくやん」

「あ。私が、やる・・・」

「ええって、たまには俺が掃除したる。俺やって、親やねんから。子供の後始末くらいはな」

「じゃあ、もうひとつ持ってくる。一緒に消したらすぐに終わるから」


彼女は、キッチンにもどり、もう一枚のタオルを水に濡らして来た。


二人して、床のクレヨンを消し始めたとき、ソファの舞音が駄々をこね始めた。

「やんやん、まのも、なかよちィーーー」

言いながら、ふくれっ面でソファから降りてきた。

あのな。
誰のせいで、こんなことになってると思ってんねん。
仲良ししてるわけと、ちゃうで。

「じゃあ、舞音はこっちを持って」

彼女が自分の持ってたタオルの端っこを、舞音につかませた。

「いっしょにやろうね」

「あい」

タオルをつかんだ小さな手。
拭く、というより、撫でるって感じやし、
舞音が手伝ったからいうて、クレヨンが消えるわけでもないけど、な。

ほんでも、結構、真剣な顔して拭いてるわ。

「なあ、これ拭き終わったら、観覧車、行こうや」

「観覧車?」

「ちょっとくらい空に浮かんだ感じ、せえへんかな」


ちっちゃな舞音の頭ん中。
願ってること、思ってることの半分でも、
俺のこの手が役にたつなら、貸してやりたい。

もう、いらん。
自分でやれる。

舞音が、自分から俺の手を離すまで。

なあ、舞音。

不器用で、格好のええもんなんか、何一つ生み出せん手やけど、
お前のためやったら、
精一杯、手を貸してやる。



澄んだ空を、乾いた風が、流れる。

腹いっぱいにそれを含んで、
おおらかに、ゆるやかに、気持ち良さげに、鯉が泳ぐ。

いつか、あれに乗って、空を散歩しよう。
な、舞音。







FIN.






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コメント (2)
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