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クリス・マルケル『ラ・ジュテ』

2007-02-25 15:33:26 | 映画
ラ・ジュテ   LA JETEE
(フランス・1962・29min)

 監督・脚本:クリス・マルケル
 製作:アナトール・ドーマン
 撮影:ジャン・チアボー
 音楽:トレヴァー・ダンカン
 
 出演:エレーヌ・シャトラン、ジャック・ルドー、ダフォ・アニシ


 時間の定量的で不可逆的な流れに抗う人々がいる。こうした登場人物たちの意志を反映するかのように、動画から生成した静止画をモンタージュした映像が、文字通りほんの一瞬だけの動画を除けば、ほぼ全編続く。あとは空港の効果音と地下室のかすかな囁き、それに音楽と淡々としたモノローグのようなナレーション。

 主人公は幼少期にオルリー空港の送迎台(ラ・ジュテ)で見た二つの出来事の記憶に強く執着し、その二つのイメージに囚われている。それはある女性の面立ちであり、突然の轟音ともに彼女の前に倒れ、死んでいく一人の男性の姿。想起とは過去の知覚を繰り返すことではない。このいくつものカットをつないだ過去のイメージは確かに私たちが過去を想起するときのイメージの立ち現れ方と似ている。

 やがて舞台は第三次世界大戦後の廃墟と化したパリへ。放射能で汚染された地上を逃れ地下に暮らす勝者たちは、捕虜を被験者として、ある人体実験を行う。実験は被験者を過去へ送り込もうとするもので、最終的な目的は、未来から現在の危機を救うための資材を持ち帰らせるためのとものとされている。成人した主人公は被験者として選ばれる。そうして彼はこだわり続けた過去へと辿りつく。そこであの「記憶」の女性と「再会」し、互いに愛し合う。実験は成功し、次に所期の目的を達成するため、今度は未来に送られる。そして目的を達成した彼は監禁され、抹殺される日を待ち続ける。

 やがて未来人が救いの手を差し伸べてくる。しかし主人公は平和な未来よりも、甘美な記憶の中の過去へ行くことを選択する。そしてオルリー空港の送迎台にいる彼女のもとへ走っていく。

 セコイアの切り株を前にして主人公は恋人に自分は年輪の外から来た、と語る場面、あるいは死による腐敗と崩壊に抗うかのように剥製化された生き物たちばかりを展示した博物館の場面など印象的な場面はいくつもある。なかでも印象的だったのは、「過去も未来もない、二人の周囲に現在だけがある」というナレーション。

 確かに主人公は過去のイメージに囚われ、現在への執着が希薄だったからこそ、死んでしまったり、正気を失ったりした他の被験者と異なり、時間を自在に行き来したのだろう。そして未来を拒絶し、ひたすら過去に憧れて時間を遡っていった主人公は、現在によって抹殺される。しかし、彼は現在までも拒絶したわけではない。新たに甘美な記憶を生起しつつあった過去を「現在」として生きようとする。そう思い始めたとき、あの日以来はじめて「現在」を生きようとする主人公を眼差し返す女を捉えた映像が瞬間的に動く。しかし、彼は現在の桎梏からは逃れることはできない。






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