現代と比較しつつ、昭和33年の新聞紙面から当時の世相を描き出していく部分については、それなりに興味深く読めるものだった。本書の価値は、マス・メディアが中心となって、作り出す過去を礼讃する現代の世相に対して、当のマス・メディアがかつて報じた事例をもとに反論していく点にあると思うのだが、無根拠な言説が政策や法案にまで影響しているのであれば、自らの過去の言説すら検証できぬ現代のマス・メディア(と世論)への視点は甘いと言わざるをえない。さらに欲をいえば、著者の考察をもう少しカットしてでも、統計データをより充実させ、著者が参照した新聞紙面を日付とともに図版として掲載して補足するというスタイルであったならば、あるいは読者の投稿を精査して合わせて紹介するという形式であったならば、と思わないでもない。
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本書は、リベラリズムの存立条件に関する一提案、あるいはセーフティ・ネット論とひとまずは見ることができる。しかも、ざっと読んだ印象では、おそらくはノージックに近い立場から展開されるセーフティ・ネット論といえるだろう。ただし、結論自体はそれほど目新しいものではないと感じる。
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ダイアナ元皇太子妃の死亡事故当時、マスメディアが競って流した(あるいは流そうとした)事故の模様とその現場に残された大破した車、そして遺体、あるいは王室と元皇太子妃の確執といったものをこの映画は直接画面の中に映し出そうとはしない。スティーヴン・フリアーズは、あからさまであることをその本質としているかのような現代のマス・メディア(映画も含む)とは一線を画す姿勢によって、ともすれば、そっくりさんによる下世話な内情暴露ものになりそうな題材を洗練された映画にまとめ上げることに成功している。そして、それゆえにこの映画はマスメディアに対する批評(あるいは批判、というべきか)を含み持っている。
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カシュカシアンによるスペインとアルゼンチンの歌曲集、といっても、この世界的なヴィオラ奏者が歌手に転向したわけではない。スペインとアルゼンチンの作曲家たち(ファリャ、グラナドス、ヒナステラ、モンサルヴァーチェ、グァスタビーノら)が書いた歌曲を人間の声に近い楽器、ヴィオラで歌ったアルバム。
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