ヴァーグナー・イヤーということで購入した2冊。 . . . Read more
死んだ父の蔵書を整理していて見つけた、『日本の名随筆』というアンソロジーの一冊に収められた司馬遼太郎の「京の味」というエッセーを読む。
なかなか興味深い話題を、晦渋さを排した文章でさらりとまとめた一種の「名文」ではあるのだけれど、何かしら分かりにくさも残る。
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多木浩二の文章との出会いは、『現代思想』に連載されていた『眼の隠喩』だった。人間を、あるいは都市(文化)を視覚的表現として縦横に論じていくその議論は大いに刺激的であったし、それまで耽読していた澁澤・種村的な世界から、よりアカデミックな知の世界へと関心がシフトしていく契機になったと今にして思う。一度でいいから、その講義を聴いてみたいと思っていた人の一人だったけれど、それももう叶わない。氏は4月中旬に亡くなった。
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一昨年あたりから懐かしい国語の参考書がいくつか文庫で復刊されている。高田瑞穂の『新釈 現代文』(ちくま学芸文庫)、小西甚一の『古文の読解』(ちくま学芸文庫)、そして二畳庵主人(加地伸行)の『漢文法基礎』 (講談社学術文庫)の三冊で現代文、古文、漢文の三分野が出揃った。古典については、同じ著者の『古文研究法』を使っていたが、『古文の解釈』を使っていた者も多かったと記憶する。それらを、懐かしさもあって、つい買ってしまった。
こうしたブームについて、石原千秋氏は朝日新聞にインタビューに答えて、「迷ったり、岐路に立たされたりしている」中間管理職世代が「『ノスタルジックな向学心』を抱いているからだ」とし、「原点に戻って自分の実力を再確認したい、という癒やし効果もあるのでしょう。もし、それが幻想だとしても」と分析しているのを読んだことがあるが、今のところ人生に迷いを感じていない自分に当てはまらない。単なるノスタルジーなのだろう。ただ、こうしたものを読むと、つい力試しをしたくなるのが人情というもの。新聞に掲載されていた今年度のセンター試験や有名大学の入試問題に挑戦してしまった。
そして、今度はちくま学芸文庫から『名指導書で読む 筑摩書房 なつかしの高校国語』が刊行された。そのタイトルが示す通り、魯迅の「藤野先生」、柳田国男の「清光館哀史」、清岡卓行の「失われた両腕」、坂口安吾の「ラムネ氏のこと」など高校時代に現代国語の授業で読んだ懐かしい文章がいくつも載せられている。そして、この文庫のセールス・ポイントは、当時の教師用の指導書が載せられている点にあり、併せて読んでいくと、かつて教室で過ごした時間がまざまざと思い出される。 . . . Read more
先日、改めて読み返していると記したアルベール・カミュの『ペスト』はペスト禍により外部と完全に遮断されてしまったアルジェリアの一都市の人々を描いている。それはエピグラフとして掲げられたデフォーの言葉、「ある種の監禁状態を別のある種の監禁状態によって表現する」という意図のもとにナチズムをめぐる政治的寓話として書かれているが、現在の日本が置かれている状況とも奇妙に同期している部分もある。
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アラン・コルノー「めぐり逢う朝」。昨年亡くなったアラン・コルノーの代表作とされるこの作品が紀伊国屋書店からDVD化されていたので購入。その日のうちに、一気に見てしまった。
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前奏曲が奏でられる間、雨が降り続くなか足元のおぼつかぬ白いドレスの女が現れる。そして前奏曲が終わるともに女は路上に倒れ伏す。ムスバッハの演出は『椿姫』を路上に行き倒れたヴィオレッタ・ヴァレリーの回想として描き出す。したがって彼女はほぼ全編にわたって舞台上にいることになる。また舞台手前の紗幕には雨粒やワイパーが映し出される。観客はこの行き倒れた女を車の中から見ているという設定ということになるだろう。
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ミケランジェロ・アントニオーニは、パゾリーニと違って、もともと好きな監督だったが、「欲望」以外のDVDは持っていなかった。偶々、出先で、これまで見たことがなかった「砂丘」と高校生の頃に一度見たきりの「さすらいの二人」が並んでいたので、まとめて購入した。
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ドラマティックな二重唱や三重唱、勇壮な合唱に加え、主要な五人の配役にも聴きごたえのあるアリアが用意された『トロヴァトーレ』は、したがってそれが見事な上演となるにはそれぞれの配役にふさわしい声のキャラクターをもった五人の歌手を揃える必要がある。そして、1978年、ウィーン国立歌劇場ではそのような配役による『トロヴァトーレ』が実現した。
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「海」、「風薫るウィーンの旅六日間」、「バタフライ和文タイプ事務所」、「銀色のかぎ針」、「缶入りドロップ」、「ひよこトラック」、「ガイド」という七つの短編が収録されている。いずれもひそやかな人生の断片を、静謐さを感じさせる文体で切り取ってみせたもので、それぞれに微妙な味付けが施されているものばかりだった。
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