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Mey yeux sont pleins de nuits...

読書、映像・音楽の鑑賞の記録など

織田信長の料理人

2011-06-19 19:36:50 | 読書
 死んだ父の蔵書を整理していて見つけた、『日本の名随筆』というアンソロジーの一冊に収められた司馬遼太郎の「京の味」というエッセーを読む。  なかなか興味深い話題を、晦渋さを排した文章でさらりとまとめた一種の「名文」ではあるのだけれど、何かしら分かりにくさも残る。 . . . Read more

アルベール・カミュ『ペスト』(追記)

2011-03-19 00:18:21 | 読書
 先日、改めて読み返していると記したアルベール・カミュの『ペスト』はペスト禍により外部と完全に遮断されてしまったアルジェリアの一都市の人々を描いている。それはエピグラフとして掲げられたデフォーの言葉、「ある種の監禁状態を別のある種の監禁状態によって表現する」という意図のもとにナチズムをめぐる政治的寓話として書かれているが、現在の日本が置かれている状況とも奇妙に同期している部分もある。 . . . Read more

小川洋子『海』

2011-01-03 21:36:08 | 読書
 「海」、「風薫るウィーンの旅六日間」、「バタフライ和文タイプ事務所」、「銀色のかぎ針」、「缶入りドロップ」、「ひよこトラック」、「ガイド」という七つの短編が収録されている。いずれもひそやかな人生の断片を、静謐さを感じさせる文体で切り取ってみせたもので、それぞれに微妙な味付けが施されているものばかりだった。 . . . Read more

小川洋子『ミーナの行進』

2011-01-02 21:20:29 | 読書
 小川洋子の作品の舞台は多くの場合、具体的な地名として示されていないことが多い。どこにもなさそうで、しかし意外と身近にありそうな場所。あるいはどこかにありそうで、やはりどこにも存在しないのではないかと思わされる場所。だからこそ作者の奔放な想像力の中で遊ばせてもらうことができる。けれども、この『ミーナの行進』の場合、舞台は芦屋とその周辺で、イニシャルでぼかされていても、具体的な場所につい思い当ってしまう(たとえば、このAという洋菓子屋は、本来Hのことで、クレープ・シュゼットというのはあれのことかな、といった次第)。モデルについても心当たりがないではない。そのため、先にコメントを書いた二作に比して、想像の愉しみという点で、少しばかり窮屈に感じた。 . . . Read more

小川 洋子『薬指の標本』

2010-09-05 00:48:42 | 読書
 海辺にある清涼飲料水の工場で働いていた「私」は作業中の事故で薬指の先端を失う。指先を失ったことが深い喪失感と強迫観念のようなものを「私」に植えつける。仕事を辞めた「私」は街をさまよううちにある標本室にたどり着く。弟子丸と名乗る標本技術者が一人で運営するその標本室では、顧客たちの何らかの思い出を封じ込めたいという要求に応えてさまざまな「標本」を作成する。たとえば火事で両親と弟を失った少女は焼け跡に寄り添うように生えていた三本のキノコを標本にし、孤独な靴磨きの老人は長い間、その人生の傍らにいた文鳥の骨を標本にする。死んだ恋人が自分のために書いた曲の標本を依頼する娘もいる。弟子丸氏には標本にできないものはないかのようだ。  のちに弟子丸氏が「私」に語るところによれば、「本当は誰でも、標本を求めている」にもかかわらず、「この標本室と出会える人間は限られている」。だからこのひっそりとした標本室にたどりついてしまった「私」は潜在的に顧客であったといえるのかも知れない。 . . . Read more

小川洋子『ブラフマンの埋葬』

2010-08-29 22:57:43 | 読書
 とある出版社の社長のはからいで、芸術家たちがそれぞれの創作活動行う空間として無償で提供された<創作者の家>という建物の住み込みの管理人である「僕」と、狐かなにかに襲われたのか、傷だらけの体で助けを求めるように「僕」の前に現れたブラフマンと名づけられる小さな動物とのひと夏の交流が淡々とした筆致で描かれている。 . . . Read more

『加藤周一セレクション 1 科学の方法と文学の擁護』

2009-08-31 21:07:45 | 読書
 少しばかり時間的な、また精神的な余裕ができてきたので、昨年末に亡くなった加藤周一の著作をまとめて読み始めている。年末にかけて少しずつ読み進めていくことになるだろう。ただし、それは遅ればせながらの追悼という意味ではない。少なくとも加藤周一の熱心な読者ではなかったからだ。そうではなく、その著作を読んでいくことを通じて、「知識人」について、そして20世紀的な知のあり方について、自分なりに考えてみたいと思ったのがその動機だ。 . . . Read more

イアン・マキューアン『贖罪』

2009-08-23 21:37:37 | 読書
 中心となる登場人物は上流階級に属する知的なセシーリアとその妹で夢想癖のあるブライオニー、それに姉妹の家の使用人の息子であるロビーの三人。小説は階級差ゆえに生じる心理的葛藤を伴うセシーリアとロビーの恋愛とブライオニーによる恋人たちの運命を翻弄した虚偽の証言への贖罪の物語が端正なたたずまいをもって優雅に、あるいは酸鼻をきわめるリアリティをもって描かれていくが、そこに施された現代の小説らしいメタフィクショナルな仕掛けがこの作品を一層読み応えのあるものとしている。 . . . Read more

岡田暁生『音楽の聴き方』 1

2009-08-14 00:22:17 | 読書
 音楽自体をひとつの言語として読むというクラシック音楽の聴き方(方法)についての実用書としても読めるが、「能動的聴取」(アドルノ)の方法論と『西洋音楽史』の最後の二章の議論を踏まえて、音楽から疎外された現代の聴衆が音楽を自らのもとに取り戻すために、音楽を「聴く型」の考察を通じて、何をすべきかを簡潔にまとめた文化社会論としても読める。ここでの主張の根底にあるのは、音楽のもつ言語性こそが、音楽が人間的なコミュニケーションを有しうる生命線であり、音楽を聴く上でそれは「人が人に向けて発する何か」であることへのリスペクトを失わないことが何よりも大切なのだという考え方だろう。 . . . Read more