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(ちょっとした感想)イーストウッドの二本。

2008-02-24 11:58:52 | 映画

 『ハートブレイク・リッジ』では若い訓練兵たちに戦場で生き残るための術を叩き込む古参の軍曹を演じたイーストウッドも、『スペース・カウボーイ』では若いエリートたちの知識と体力を凌駕する老人ならではの経験と知恵をひたすら自らの若いころの夢の(遅ればせながらの)実現に注ぎ込む。
 『ハートブレイク・リッジ』では、戦場でも「手順」と「規則」で事がなると考えている上官を打ちのめす一方で、実戦経験のない直属の上官にはしっかりと「臨機応変」に事をなしていくよう教育していたりもした。だから、すぐれた教育者(『ハートブレイク・リッジ』)とわがままな自己実現老人(『スペース・カウボーイ』)の違いは、相手が教育の対象である落ちこぼれの海兵隊員とライバルとなるエリート宇宙飛行士の違いに由来するというものではなく、経験と知恵の継承についてのイーストウッド自身の心境の変化に由来するのかもしれない。
 すなわち、長く現場で継承されてきたものを知らず、映画を学校で学びうる知識や技法の集積と見なす者たちに向けて、「これからは、これまで培ってきた経験と知恵を注ぎ込みながら好きにやらせてもらう。お前さんたち、しっかり目を開けてないと、大事なものを見逃すぜ」という現場の叩き上げの名匠からの、皮肉をこめて贈られたメッセージということか。そこには継承されてきたものが途絶えていくことへの苦い諦念が含まれているのかもしれない。
 そして実際、『ハートブレイク・リッジ』では最後に退役しようとするイーストウッドに対して継承者を名乗り挙げる者がいたのに対して、『スペース・カウボーイ』で若いエリート宇宙飛行士たちは老いたカウボーイたちの経験と知恵がいかなるものかを知ることはできなかった。




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