野うさぎ

2007年01月17日 | Weblog
若い頃に読んで、印象に残ってはいるが、絶版になったり、所蔵している場所がわからなくなっている本がいくつかある。
先日、そんな本の一つ、R・バーコヴィッチ著の『野うさぎ』を地元の県立図書館で発見し、読了した。

どこかの森。つがいの野うさぎが二羽。雌うさぎはにこ毛に覆われた四羽の子供を育てている。それを狙う山イタチ。雌うさぎは勇敢に戦うが敗れ、子供も奪われる。一緒に戦った雄うさぎは傷つきながらも巣穴に帰ろうとするが、その刹那、どこからか飛んで来た矢が心臓を貫く。

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奉仕する本当の対象は誰で、何のためにそれは強制されねばならないのか。

奉仕活動については、00年秋に森首相(当時)の私的諮問機関「教育改革国民会議」が「将来的には18歳の国民すべてに1年間程度、義務づけることを検討する」と明記することを検討したが、異論が相次ぎ、最終報告では「義務づける」などの言葉が消えた。
 だが、青少年の凶悪犯罪やいじめ自殺事件が頻発していることから「規範意識」の低下を憂慮する声が政権や再生会議内にも高まった。すでに東京都が07年度からすべての都立高で「奉仕」を必修科目とすることを決めており、再生会議はこの試みを全国に広げることを念頭に置いている。(asahi com.より)

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『野うさぎ』の舞台はナチス下のドイツのある森。社会主義者の家庭に育った13歳のリッター少年と12歳のユダヤ人少年パーヒクは両親や兄弟が『どこか』に連行され、家庭をなくし、森の中の隠れ家で暮らす。森の中に『収容所』があるが、そこには入れられていない。リッター少年が収容所の所長に定期的に、捕獲したうさぎの肉や鹿の肉を届けることで、見逃されているのだ。ユダヤ人のパーヒク少年の存在はもちろん秘密である。自分達が生き延びる為に両親や兄弟を殺した『どこか』にある権力に奉仕する。
二人の少年にハッピーエンドは来ない。
“秘密”を隠すために無理を重ね、そして野うさぎを射る為の矢じりを権力に向けてしまう。森の中を逃げ惑う二人。銃声、迫る来るアルザス犬。二人は自分たちが仕留めていた野うさぎのように、今度は自分たちが・・・

この小説を探し出して、また読みたくなる時代になってしまった。
改変された教育基本法の下で教育を受けた、将来の日本の18歳の野うさぎたちは幸せになれるとは限らない。