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さくらんひめ東文章

指折って駄句をひねって夜が明けて

2005-10

2009年12月09日 | 京都検定ノススメ -1-


~このお話は、ばあさんの夢と妄想によるフィクションです。~


テーブルの上に残された名刺には
「伊藤建築設計事務所 伊藤景和」とあった。

「わぁ…なんか若冲さんみたいな名前だぁ! 
ひょっとして建築デザイナーかなぁ?」
しばらく名刺とにらめっこしていると、
今朝の奇跡の出来事がスライドショーのように頭の中を流れた。

今日は、南座の顔見世を昼夜観劇する予定だったが、
「かの君の衝撃」ですぐに支度をする気にもならず、
部屋にもどってもまた名刺を見つめていた。

いつメールを送ったらいいのだろう?
カフェでのお茶代も先に支払って帰ってしまわれたので、
そのお礼のメールをすぐに入れるべきだろうか?
でも今頃はチェックアウトで忙しいいだろうし…後の方が…
いや、本当にメールをして欲しいなんて思っているだろうか…
うら若き女性ならともかく、こんな年食ったおばさんのメールなど
待っているわけがないじゃないか!
行きがかりの社交辞令みたいなもんだろうか?
でもだったら、名刺なんてくれるだろうか?
まして、携帯の番号やアドレスまでも書いてくれて…

若い頃の私だったら、迷わずすぐに、お礼のメールを入れたであろう。
年を重ねて益々魅力的な「かの君」に対して、
自信のかけらもなく無くなって、優柔不断に思い悩む、
今の自分がとても情けなかった。

ゴトゴトゴト~
マナーモードになっていた携帯がテーブルの上で震えた。

「検定の結果はどうだったの?ちっとも電話がこないものだから…」
声の主は師匠だった。
今朝電話を入れる約束だったのをすっかり忘れていた。

「あぁ…申し訳ございませんでした…。
こちらから、お電話をいれなくてはいけなかったのに。
いろいろご指導いただいたのに全く出来ませんでした。
とくに、最後の明治時代の10問がお手上げでした。」

「だって四択でしょ?そんなに難しいのがでたの?」

「第二代京都市長とか… 官営の製紙工場のあった場所とか…
療病院の移転先とか…????でした。」

「ふ~ん。まぁとにかく結果が出なくては、
落ちたかどうかもわからないから…
あんまり落胆しないようにね」と言って電話は切れた。

時計をみると、もうすぐ11時だった。
朝からの思いがけない展開にずいぶん時間をとってしまった。
私はあわてて化粧を直し、一つ紋の無地の着物に着替えて南座へ急いだ。