中国で、海外の有名な商品名や地名が第三者に勝手に商標登録されるトラブルが増えている。世界的に知られる企業が訴訟で敗れるケースも出ており、中国で経済活動をする上で大きな懸念材料となっている。
ビジネスバッグに財布、携帯電話ケース−−。いずれも「IPHONE」のロゴがデザインされた革製品だが、販売元はスマホの「iPhone(アイフォーン)」を手がける米アップルではない。中国・北京に本社を置く新通天地科技というメーカーだ。アップルは使用停止を求めて訴訟に踏み切ったが、北京市高級人民法院(高裁)はアップルの訴えを退け、新通天地にロゴの使用継続を認めた。
日本などと同様、有名な商品名を第三者が勝手に商標登録する行為は中国でも禁じられている。ただ、「申請時に中国国内でどれだけ知名度があるか」が商標申請を認める基準となるため、「当局や裁判所の主観が強く反映され、企業側の主張がなかなか通らない」のが実情という。
中国メディアによると、新通天地が革製品の商標として「IPHONE」を申請した当時、アップルは既に米国などでアイフォーンを販売していた。しかし、中国市場には投入していなかったため、北京市高裁は「アイフォーンが当時、中国で有名だったとは言い切れない」と判断したとされる。
中国では、商品やサービスの種類ごとに商標を登録する仕組みになっていることも、問題をエスカレートさせている。ヤマト運輸は、車両や制服などに使っている「クロネコ」マークが、配送とは別の分野で第三者に商標登録されていたことを確認した。現時点で事業に支障は出ていないものの、「問題だと認識しており、解決に向け個別に対応している」という。
日本貿易振興機構(ジェトロ)が昨年実施した調査によると、日本の都道府県名のうち、北海道、宮城、京都、広島、福岡など34道府県の名称が中国で商標登録されていた。道府県名を入れた特産品などを中国で販売する際、商標を先行登録した人から訴訟を起こされるリスクがある。
中国の昨年の商標出願件数は前年比25・85%増の287・6万件で日本(約15万件)の約20倍。知的財産権に甘い風土に乗じて、人気商品に便乗したり、本来権利を持つべき企業に商標の使用料を求めたりするケースもありそうだ。知財関連の訴訟件数は民事だけで年間10万件を超える。
日本の経済界や政府も「訴訟になれば膨大な資料の提出を求められる」などとして中国側に改善を働きかけてきた。中国当局も規制強化に動いているが、商標を悪用して利益を狙う業者は後を絶たない。中国に進出する日本企業関係者は「商標が先行登録されていないかなど、知財関連の調査に多額の費用と労力がかかっている」と明かす。
中国の「商標リスク」は、今後も企業活動の足かせとなりそうだ。