全線68kmを単行ディーゼルカーが2時間かけて走る、何とものんびりした列車の旅。
マルーンとクリームのレトロ調車両はきっと観光用、車内放送では沿線の観光案内が流れる。
関ケ原前夜、山内一豊が家康に差し出した掛川城、すでに桜が見頃を迎えている。
掛川駅から城へと続く大通りの両側には彫刻が立ち、街ゆく人の目を楽しませてくれる。
天竜浜名湖鉄道(旧二俣線)は、東海道本線を、浜名湖北岸を迂回して結んでいる。
太平洋戦時中、その使命通り、何日間か特急列車と軍用列車が二俣線を走ったそうだ。
天竜浜名湖鉄道の本社が置かれる天竜二俣駅は、駅舎やプラットホームが有形文化財だ。
SL時代の転車台、扇形機関庫、貯水槽などを巡る見学ツアーも催行されている。
天竜二俣を発車するとまもなく天竜川の鉄橋を渡る。
諏訪湖に発した “暴れ天竜” は、ここから磐田原に開放され、川幅を拡げて遠州灘に注ぐ。
鉄橋から上流側は写真のような渓谷美、下流側は大河の景色なのだ。
天竜二俣駅で土日のみ販売される "まいたけ弁当" は、相当にレベルが高い。
いままで食べた駅弁の中ではベスト3に推せるのではないだろうか。
先ずは、煮しめ、山菜の天ぷらを酒肴に楽しんでから、〆に炊き込みご飯をいただく。
今日の1本は "花の舞 純米吟醸"、フルーティーな冷酒が旨い。
映画のワンシーンになりそうな宮口駅で途中下車するのは、花の舞の蔵元を訪ねるため。
無人駅を降りて昔からの住宅街を行くと、杉玉を吊るした白壁の蔵が見えてくる。
舞の花酒造は静岡産の山田錦に拘り、南アルプス系の湧水で当に「地酒」を造っている。
菰樽には花吹雪が舞って春の予感。さあ土産に "吟麗生酒" を求めたら駅へ戻ろう。
西気賀から尾奈の間は、車窓右手に浜名湖がそのたびに印象を変えて見え隠れする。
時には漁村の風景、時にはリゾートの雰囲気で、凪いだ湖面が夕陽に照らされて美しい。
車窓から浜名湖が消えて15分ほど、単行ディーゼルカーは新所原に終着する。
新所原は新興住宅地以外見当たらない淋しげな駅、東海道線の駅舎とも別々だ。
日は暮れて18:00。これから5時間半かけて戻る東京への旅程が長いのだ。
<40年前に街で流れたJ-POP>
年下の男の子 / キャンディーズ 1975年