うんどうエッセイ「猫なべの定点観測」

おもに運動に関して、気ままに話したいと思います。
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大会運営に歪さを感じるラグビーW杯

2011年10月28日 | 団体球技(屋外)
◆第7回ラグビーW杯・決勝(2011年10月23日 @ニュージーランド・オークランド/イーデン・パーク)

ニュージーランド 8(5-0)7 フランス

【NZ】
1 0  0 5 ∥ 0 0 1  3 ∥ 8
T G P 前 ∥ T G P 後 ∥ 計
0 0  0 0 ∥ 1 1 0  7 ∥ 7
【フランス】


・最終順位
優勝・ニュージーランド、2位・フランス、3位・豪州、4位・ウェールズ

※ニュージーランドは1987年第1回大会以来24年ぶり2度目の優勝。
  なお、決勝戦の両チームの合計得点(15点)は過去最少で、1点差で終わるのも今回が史上初めてです。


国際ラグビー評議会(IRB)の今大会の関連ページ
今大会の詳細の成績

〔写真はGetty imagesより〕


                             *  *  *  *  *


9月9日~10月23日までニュージーランドで開催されたラグビーのW杯。決勝は地元NZ(愛称:オールブラックス)とフランス(愛称:レ・ブルー)が対戦。奇しくも、NZで開催された1987年第1回大会の決勝と同じカードで、試合会場も同じイーデン・パークでした(結果はNZがフランスを29-9で快勝してW杯初代王者に戴冠)。この両国は今大会の予選プールでも対戦し、この時はNZがフランスに37-17で快勝してます。それだけに、再戦となった決勝でもNZが下馬評では圧倒的に優位でした。だが、フランスはNZの試合前の儀式「ハカ」の最中に許容範囲を超える前進をして勇敢な姿を披露するなど、全く恐れずに、むしろ闘志を剥き出しでした(→詳細はこちら)。敵地で臆することなく戦ったフランスは予想以上に大健闘。フランスは8点のビハインドを背負うも、後半7分にトライを奪って1点差に追い上げてからは、NZを自陣に釘付けにして一方的に押し込みます。だが、どうしても逆転には至らず、ノーサイドの笛。8-7で逃げ切ったNZが24年ぶりに2度目の世界王座を奪還に成功。3度目の決勝となったフランスはまたも涙を飲みました。

ただ、あらためて思うのは、ラグビーW杯は運営の歪さが嫌でも目立つことです。スポーツの大会の参加数は、トーナメント戦やリーグ戦を問わず、2・4・8・16・32・64・・・といった具合に2の累乗であることが最も望ましいです。なぜなら、トーナメント戦だと参加チームの試合数が必ず同じになるからです。リーグ戦にしても、基本的に4チームによる総当たり戦だと必ず3試合を戦うことができ、適切な試合数での運営が可能です。更には、会場や休養日の確保などの面でもやりやすいです。ましてや、屋外で戦うコンタクトスポーツだと体力面での消耗が激しく、負傷者も多くなるので、自ずと大会期間内で戦える試合数に限界があります。試合の質の向上と公平な運営を果たす為にも、大会参加国の条件を揃えることは必須です。

しかし、ラグビー界はこの当たり前の認識が著しく欠如してます。1995年にプロ化容認へと大転換した国際ラグビー評議会(IRB)は、収入増加策の一環として、W杯の大会規模を拡大して試合数を増やしました。1999年第4回大会以降は、それまでの参加国数から4つ増やして20ヶ国となってます。試合数も、最初の3大会は予選プールを4チーム×4組で運営したので総試合数は32試合でしたが、1999年第4回大会は4チーム×5組(総試合数41)、2003年第5回大会以降は5チーム×4組(総試合数48)となってます。たしかに、試合数が増えた影響で、観客動員数とテレビ視聴者数が増加して収入が増大し、商業面では大きな成功を収めました。反面、予選プールが奇数で成り立っているので試合をやらないチームが必ず1つ発生し、参加各国の休養日の間隔や対戦時点での消化試合数が異なる事態が生まれました。

世界のラグビーの勢力図は、「ティア1」と呼ばれる世界のトップ10と、「ティア2」と呼ばれる第2グループに大まかに分かれます。ラグビーW杯の放映権料はIRBの取り分となるので、莫大な放映権料を払っているテレビ局に配慮して、人気の高いティア1の試合をなるべく週末に組ませたがる傾向があります(ちなみに、開催国の取り分は入場料収入のみ)。予選プールが偶数なら日程面でティア1を極端に優遇させることは難しいが、如何せん奇数と歪な構成なので、大会主催者のIRBによる恣意的な運用が可能となりました。今大会でティア2がティア1と対戦した時、試合終盤になると失点を多く重ねる傾向が見られました。疲労の蓄積や負傷者が発生する予選プール後半の対戦でも同様の傾向でした。やはり、ティア2の休養日が少ないことと無関係とは言い切れないでしょう。公平性を蔑ろにして、伝統国への露骨なまでの優遇策を改めない姿勢に、IRBの旧態依然の閉鎖的な体質を感じ取れます。

結局、日程面でいつも割を食うのが日本のような弱小国です。ジョン・カーワン監督率いる日本が、4年前の前回大会で一定の成果を収めた「大会2勝狙い作戦」を今大会でも実行する為に、優勝候補のNZ戦でターンオーバー制を用いて“捨て試合”にした背景には、日本が日程面で著しく不利だったからです(後述する次回大会の出場権も背景にあり)。なにせ、日本はトンガよりも休養日が2日少なく、カナダ戦に至っては休養日が3日少ないだけでなく、消化試合数も異なるなど、明らかに条件が公平ではありませんでした。不本意な成績だったこともあり、日本のメディアや識者から「弱者の戦略」に対して批判的な論調が多く見受けられました。たしかに、勝利を追及する事を端から放棄しているので、代表チームの強化には全く繋がらず、観ていてもちっとも面白くないです。ただ、弱小国への差別待遇を解消しない限り、こうした消極的な姿勢は一向に無くならず、結局は全体の底上げには繋がらないです。カーワン監督の戦略に批判をしている人は肝心なことを見落としているので、まさに片手落ちです。

参加国が同じ20ヶ国だった1999年第4回大会のレギュレーション(4チーム×5組+6ヶ国によるプレーオフ)に戻せば、予選プールが偶数で構成されて日程面での公平性は確保できます。しかし、プレーオフがあるので決勝トーナメントでの試合数が異なり、問題の半分は解決しません。やはり、根本的な問題は大会参加国数が20ヶ国であることに尽きます。早い話が、16ヶ国に減らすか、それとも32ヶ国(あるいは1982~1994年までのサッカーW杯の時と同じ24ヶ国)に増やすかのどちらかということです。ただ、現状だと、増やすことは大会のレベル低下を確実に招くのは必至です。たしかに、近年はアルゼンチンが世界のトップクラスへの仲間入りを果たし、トンガが今大会の予選プールでフランスに勝利するなど、強豪国と新興勢力との実力差は少しずつ縮まりつつあります。しかし、本当の意味で強豪国と伍して戦える国は、せいぜいオセアニアの島嶼国とカナダとグルジアまでが限度です。日本を含めたそれ以外の国は味噌っかす同然ですし、現状の20ヶ国では水増し感は否めないです。

基本的に、他の競技の世界大会だと優勝国のみに次回大会の予選免除の特権を与えられます。中には、サッカーのようにプロ化が進んで世界的に広く普及している競技だと競争が激しいので、優勝国に予選免除させるとチームを強化する機会を失います。4年後の大会で実力を保証出来ないこともあり、2006年ドイツW杯からこの制度は廃止してます。しかし、ラグビーW杯は予選プール3位以内(=ベスト12)に入るだけで予選免除の特権を与えられるので、かなり条件が緩いです。つまり、強豪国が一部の地域のみに偏在しているラグビーは他の競技に比べて世界的にあまり普及しておらず、強豪国とそれ以外の国との実力格差が明確にあり過ぎて、序列も固定化しているということです。競技の特性を考慮すれば、いっそのこと大陸予選を廃止して、アイスホッケーの世界選手権のように、実力ごとにカテゴリーを分けて大会を運営した方がよいのかもしれませんね。

試合の質の向上と公平な運営を目指す為には、大会参加国を第1~3回の時と同じく、元の16ヶ国に戻すのが理想だと個人的には思います。総試合数が16試合も減るけど、日程面での公平性が確保されるだけでなく、お互いにとって何のメリットにもならないミスマッチもある程度は解消されます。大会を創設してから今年で24年となるラグビーW杯は他競技に比べて歴史はまだ浅いですが、興行規模の上では「サッカーW杯と五輪に次ぐ、世界第3のスポーツイベント」と呼ばれるまでに大きくなりました。だからこそ、それに相応しい公正な競争であるべきです。

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2 コメント

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復活おめでとうございます (こーじ)
2011-11-10 22:25:35
 PCの不調は治りましたか?不調だとイライラしますからね。

 さて今大会はJスポーツの無料体験でファイナルもライブで観戦できて大いに楽しめましたが、まさしく‘死闘’という言葉がピッタリの
試合でしたね。

 特に後半のフランスの猛攻は素晴らしかったです。

 運営についてですが、どうやら尋常ではない
ケガ人の数が問題になっているようですね。

 JK監督のメンバー落としについては国内では
高校野球の主催新聞がヒステリックに非難して
ましたけど、愕然としたのがNumberで元ワセダ監督の‘番長’氏も非難してまして その論理を聞いてガッカリしましたよ。

 不公平日程に ついての言及もなかった気がしますし(あっても‘気合で’的な)、彼らのような次期監督候補に現実的な分析力がないというのは暗澹たる思いで日本人監督の人材不足が
懸念されますね。

 結果的にファイナリストと同じプールに入った事に関しての話もないですし・・・

 つまり2019年の大会で代表の監督が務まる日本人はいないという事になるかもしれません。

 参加国については16に減らせないのなら24に
できないものかと考えます。
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コメントありがとうございます (猫なべ)
2011-11-12 00:09:34
こんばんは、こーじさん

ご心配をおかけ致しまして、大変申し訳ありませんでした。
何とかPCは復旧いたしました(相変わらず、フリーズが多いですけど(苦笑))。

巷では理論派と持て囃されているらしい現ヤマハ監督を含めても、日本人指導者は本当に「木を見て森を見ず」ですね。
つまり、目先の試合ばかりに捉われて、全体を見通す戦略があまりにも無さ過ぎということです。
いくら、美学を貫いても、W杯では結果を出せなくては無意味です。
「全滅」を「玉砕」、「退却」を「転進」と言い換えるのと同じだと思います。
それに、アカヒ新聞は、カーワン監督の戦略はきっと理解できないと思いますよ。
なにせ、杜撰な運営で選手を酷使させる夏の甲子園の主催者ですから、体調管理の大切さなんて分かるはずが無いですから(笑)。


ちなみに、この現ヤマハ監督は、以前にテレビ番組で、月見草氏と一緒に、サッカー選手のインタビューの仕方をこのように批判したことがあります。

「野球選手はまあ、慣れているというか上手く話せますよね。ラグビー選手も社会人を経験しているだけあって、そこそこ話せる。
でもサッカー選手って全然話せないんですよ。あれを見た親御さんが自分の子供にサッカーをさせようとは思わないでしょうね。」

この人は、たかだか大学ラグビーという「コップの中の争い」で成功したに過ぎないのに、歪んだ選民意識に染まって、他競技に対するリスペクトに欠ける発言をしたのを聞いてから、私はとても嫌いになりました。
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