navikuma のブログ 陽炎のようにゆらめく景色のなかを走行中です。

ユーラシア大陸の端っこからのたわごとです。

遥かなるバルカンの空の下へ-14

2008年06月22日 | 日記
マケドニアへ入ると走行風にのって微かに甘く鼻をさすアスファルトの匂いが車内に流れ込んできた。
よく見ればまだ黒々とした路面がめだつ開通してからあまり月日が経っていないアウトバーンのようだ。

真夏の太陽に焼かれたその黒い路面からめらめらと陽炎が立ちのぼる片側2車線アウトバーンを走り出した。*(晴れ)*

ウインドウグラスの先にはカラカラに乾燥した枯れ草ばかりが目立つ地面とときおり思い出しように生えている低い潅木の茂みが幾つかある。

このへんの地形はわずかなこう配をもった盆地のように見える。
そのはるかかなたには低い丘陵がかすんで淡いふちどりをつけている。
そんな風景の中,ゆるやかなカーブを描いてつづくアウトバーンをのんびりと走る。*(音符)**(車)*

道路標識に標されている呼称がM1/E75に変わった。
呼称の後半分のE75はセルビアでも同じであった。

このアウトバーン(ここではアウトパットと呼ばれる)は南下しつづけるとお隣のギリシャへ入り港町テッサロニキを経てギリシャ半島南端にある首都アテネに至る。
半島の西から南には陽光きらめくエーゲ海がたおやかにひろがっている。*(波)*

じつはこのE75という道路信じがたいことに アテネで行き止まりではなくその先に延びてとおく離れたクレタ島にまでつながっているのだ。
とはいっても海の上に橋や道路があるわけではない。
手元の道路地図にそう記されているのだ。
大きな島であるクレタ島東部にあるやはり小さな港町がE75の終着点だそうだ。

それでは反対側の終着点はどこのあるのかを調べてみた。
まだ訪ねてみたことはないが欧州大陸の北のはずれスカンジナビア半島の最北地点バレンツ海(北極海)に臨むフィヨルドの入り江にあるノルウェーの小さな港町がそれであるそうだ。

E75の総延長距離はなんと4340Kmもある。
ほぼ欧州大陸南北方向の大きさに匹敵する。*(地球)*

ここM1/E75アウトバーンの大部分は2004年にアテネで開催されたギリシャ・オリンピックの時に整備された新装成った道路なので道幅がゆったり広く取ってある。

たぶん普段も今日ぐらい少ない交通量なのだろう。
他の車や大型貨物車らが多く道路がこんでいるとよく起きることだが,マナー違反の車にじゃまされいらいらさせられたりただひたすら流れに乗って他の車と同じペースでじっと我慢して走るしかしょうがないと言うようなことがないので,自分にあったペースでのんびり走ることができる。

のんびりとは言っても120km/hぐらいスピードで淡々と走っていたら前方の路上とその路肩にたくさん人だかりがしているのが見えた。

まさかマケドニアでは車のかわりに人間様が群れ歩くためにアウトバーンがあるのではないだろうに。
なんだろうか?と減速しながら精一杯注意しつつそこへ近づいて行った。*(はてな)*

40~50人ぐらいの子供連れもまじるどこにでも居るような風態の若者と大人たちが群れ集まっていた。
その辺りの様子や雰囲気から判断するにどうやら交通事故ではなさそうである。
見えるのは人ばっかりで車が一台も見えないのだ。
でもバイクが何台か路肩に停まっている。

群れ集まる人たちのあいだをすり抜けてさらに前方に進んでいくとやっと何事が起きているのか判った。
真っ昼間交通量が極端に少ない真新しいアウトバーン上でスポーツバイク同士による白熱した公道スプリントレースが繰り広げられていたのだ。

人だかりは近くに住んでいるらしいその仲間とやじ馬連中らしき人たちだった。
ちょうど2車線ある本線路面上に臨時に決めたスタートラインに2台ずつ並びだれかの合図でスタートが切られるレースのようだ。
数百メール前方がゴールになっているらしい。

こういうレースでは2台が全力加速をおこないゴールに先に到達した方がウイナーになる。*(車)**(ダッシュ)**(お金)**(ニヤ)*

昨今映像やビデオではよく見るしそしてけっこうあちこちで行われている非合法的な公道レースだ。
十数秒ほどでレースの決着がつき,その後はUターンをして反対車線走ってみんながいるスタート地点へ戻ってくる。
そして次のレースが新たに始まるしくみになっている。危険ではあるがお手軽に楽しめるゲームである。

さっと流しみた範囲では参戦バイクはぜんぶで7~8台中大型排気量の日本製バイクとイタリア製バイクであった。

マケドニア公道・グランプリレーストラック?を観客に見送られながらゆっくり走り抜けていくとき反対車線をかん高い排気音を響かせてさっきのスタートラインへ戻って行く2台のバイクとすれちがった。
そのうちの一人のライダーはなんとヘルメットを被っていなかった。
*(青ざめ)*
その時は“おおっヘルメットも被らないであぶないな~”と驚いたがよく考えれば自分がバイク乗り始めた10代半ばごろ(もううん十年前になるが)はやっぱりヘルメットを被っている人は白バイライダーかごく限られたライダーだけだった。
ほんとうはバイクは持っていてもヘルメットを持っている人はごく稀だった。

当時でもヘルメット着用が義務付けられたのは高速道路走行時のみで,路上を走るときライダーもパッセンジャーも区別なく誰でも被らなければならなくなるのはそれからしばらくのちのことだった。

小中学生のころ叔父さんや兄貴のバイクのリアシートへ乗せられて近在へ出かけていった時だってヘルメットは一度も被ったおぼえは無い。

自分で乗り始めたころだって夏の暑い時はサングラスにビーチサンダル履きT-シャツ短パン姿で乗っていたこともあった。

そして16才の夏休み,バイトで稼いだ金で憧れのヘルメットを手に入れ自慢げに被っていたら“おまえまるでカミナリ族のように見えるぞ!”と言われてがっかりしたのを憶えている。*(最低)**(困る)*

そういう輩とはまったく無縁潔白で自分ではまったく別のイメージを思い描いていたからなおさら不本意だった。

あのころはそんな時世だった。
そしてここではちょうど今がそんなご時世まっただ中のようである。

そんな想いを巡らせていたら突然はっとした。
そうだ,昨日も今日もアウトバーン走行中に危ない目に遭っていたのだった。
のろのろ走っていて後から全力加速で走ってくる彼らにぶつけられたら困るのでバックミラーで後方を注意しながら急いでその場を後にした。

国境からスコピエまではすぐだった。M1/E75からM4/E65にとちゅうで乗り換えてスコピエ・テトヴォ方面に向かって国境からもわずか50kmの距離だった。

アウトバーン路線が終わりそのまま走り続けると市街地に入っていく。

時刻ももう午後6時過ぎになっていたので今日の宿さがしをしながらさらに街中へ入っていく。
予約も当てもないので街の中心地と思われるほうへ行けばどこかに泊まれるホテルに出くわすだろうといういい加減な探し方である。

気がつくといつの間にかヴァルダル川を渡って市街地の南側へ入っていた。
大きくて立派そうな名前のついた高層ビルホテルは幾つか見かけたがそういう宿泊代が高いところへ泊まるつもりはないので素通りしていく。

スコピエは余り大きな街ではない。
少し走って中心街から外れそうになったらすぐU-ターンして再び夕方の交通混雑の流れに飲み込まれながら走りつづける。

ほんの10分間ぐらい街中を走り回ったら道端に小さなホテルのサインが目に入った。
そのサインをたどっていくとだんだんと中心街から遠ざかっていく。
なんかごみごみした仕事帰り風の人たちが多い場末の街並を通り抜けてそれからは曲がりくねった道幅の狭い上り坂になってきた。

そんな感じだからはたしてこの先に自分が探しているようなホテルがあるのだろうかと疑い始めたちょうどその時、急勾配な坂の右手にそのホテルがあらわれた。
中心街からは南の方角になるすこしはなれた高台の中腹に建てられた新しくモダンな造りの中型ホテルであった。

ゆったりした駐車場へ車を止め階段を上ったところにあるホテルの入り口からさらに階段をのぼって誰もいそうにない受付へたどり着いた。

受付にはだれもおらず机の上においてあったベルを叩いてしばらく待った。
すると温厚そうでで体の大きなマネージャー風の大兄が階下からあらわれた。

すぐやり取りを始めた。
英語が通じた。

部屋はある。
朝食付きで30ユーロである。
明日の朝チェックアウト時に精算する。
部屋を見せるからついて来い。
2階にあるスコピエの街並みに面した部屋だ。

広々とした部屋に大きなツインベッド,冷蔵庫,衛星チャンネルテレビ,エアコンつきで風呂とシャワー室にトイレがある。
大きな窓の外はバルコニーがある。
よい眺めだろう。
ホテル内のレストランでの夕食OKである。
車は駐車場の好きな所へ停めてよいし無料だ。
ここは街中と違ってはるかに安全である。

けっこうです。
これはこちらのセリフである。

けっこう毛だらけもんだいなし舶来上等気に入った。
運がよかった。
これは独り言である。

してこのホテルに泊まることに即決した。

その部屋のバルコニーからの眺めは絶景だった。
もってきたTENTO・7x35ソビエト製の双眼鏡でしばらくの間スコピエの街並みとその背後に連なるコソヴォの峰峰を眺めつづけた。

それからさっき通ってきた街並みをなぞってみたり素通りしてきた高層高級ホテルビルと高みに掲げられた大きな広告サイン,それから街外れにある屋外市場のような猥雑感が立ちのぼっている一角などをながめていたが一向に見飽きないのだった。
 
街を南北に分けて流れるヴァルダル川にかかる橋も見えた。
その川幅は余りひろくはなかった。

そして蒼穹の左側へ夏日が落ちかけて少しずつ街並みも背後の山容も裾野もみんなあかねいろに色づいてきた。
すぐ眼下の紅い屋根瓦の一つ一つのひだひだがつくる陰影がさらに濃くなってきた。

そのうちに暮色が濃くなっていく景色の中にあちこちに明かりが灯ってきてそれがますます目立ってきた。やがて夕闇がゆっくりと音もなくその眺望に幕をひいていった。

眼下に見えるのはヴァルダル川いや天の川のように見えるスコピエの街灯かりだけになった。*(三日月)*

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