碧田直の いいじゃないか。

演劇ユニット、ミルクディッパー主宰の碧田直が、日々を過ごして、あれこれ思ったことを、自由気ままに綴ります。

無題そのにじゅうよん

2016-05-12 17:09:00 | 日々
暑い一日である。
朝はむしろ寒いくらいだったが、日差しがどんどん照りつけて、まるで夏のような暑さになった。程度によるが、暑いのは嫌いじゃないので、このくらいならどんとこいだ。

しかし、妻はというと、暑いのが殊更苦手らしい。暑いと何もする気が起きない様子で、いつも『夏いらない』と言っている。俺は寒いのが苦手なので、『冬いらない』と思うことはあるのだが、妻は『寒いのは重ね着すれば大丈夫』という。
妻とは、他にも合わないことがある。例えば、妻はスポーツ全般に興味がないし、貝類やうなぎなども苦手だ。俺は散歩好きだが、妻はどちらかといえば嫌いで、俺の飲めないコーヒーを愛飲している。
といって、妻と気が合わないわけではなく、むしろ、生活のテンポはかなり一致しているし、喧嘩もまずしない。会話はよくするし、最近は『私のあしながおじさん』を仲良く鑑賞する。

つまり何が言いたいかというと、仲の良い夫婦であっても、合わないことのいくつかはあって当たり前だということだ。多少譲り合いの気持ちは必要かもしれないが、自分の世界にこだわりすぎては、他人の入れる余地がない。

この間、独身の二十代~三十代男性に、理想の結婚相手の条件を尋ねたアンケート結果を見たが、一位は『価値観が同じ』ということだった。
まあ確かに、食べ物や音楽の好みが正反対とか、生活習慣が昼型と夜型のように重なる時間がないとなると大変なので、ある程度の共通点は必要だと思うが、そう躍起になって、価値観の同じ女性を探し回ることはないのではないか。というか、探し回るだけ無駄な気がする。

ほんのささいなタイミングが合うだけで、うまくやっていける夫婦もあるし、箸の上げ下げが気に入らないというだけで別れる夫婦もいる。『価値観』などという、わかったようなわからないようなものに縛られずに、何となく気が合ったら、それでいいものかもしれない。まずは行動あるのみだ。

……と、こんなようなことを考えながら、バイト先の最寄り駅地下通路を歩いていた。この駅は日本有数の人の多さを誇るので、いろんな方向に歩く人でごった返す。少しの時間を待って、やりすごしてから歩行を再開することも一度や二度ではない。
今日も、そうしてやりすごしてからにしようか、などと思っていた俺の横を、一人の長身女性が、かなりの速度で、スタスタと抜き去っていった。何となく彼女の少し後ろを歩く格好になり、ふと見ると、彼女は歩く速度をまるで緩めることなく、壁に張られている嵐の巨大ポスターを、さっと取り出したスマホで写真におさめ(別ポーズ含めて二枚)、地下鉄の改札口を抜けていった。
きっと彼女は、ああやって全速力の早足で、人生を駆け抜けているに違いない。颯爽とした後ろ姿だった。そして、こうも思った。こういう女性とは、絶対に仲良くできないと。
人の相性なんて、そんな程度のもので決まるものだと思うのである。
コメント
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