漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

松葉屋瀬川の事・⑦

2009年06月04日 | Weblog
きのうの続き。

さて人気は日増しに高くなり、
今をときめく瀬川だが、その松葉屋に、気に掛かる客が現れて・・・、

尚、以下の文中、
「逗留(とうりゅう)」は、滞在すること、宿などで数日連泊する状態。

「中三(ちゅうさん)」は、高級女郎、
 昼夜ともで、揚げ代が三分であったところからこの名がある。
  
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享保七年四月、
上方の客にて、松葉屋方に数日逗留し、

中三の女郎、
歌浦、八重咲、幾世と云う三人を揚げて遊戯せるが、
ある日、
亭主を呼びて云いけるは、

「我々これより鎌倉見物して、又ここに帰るべし、
 それに付き、金子少々ここにあり、

 これをこのまま
 鎌倉まで携え行くも心遣いなれば、
 路用少しばかり持参して、残りはそこもとに預けたし。

 もしその道中にて、金子使いきりそうろう事あれば、
 飛脚を以って取りに来す事もあるべし。

 その時は、渡し給うべくなり。」

亭主、承知し、

「しかしながら金銀の事にそうらえば、容易には請け合い難し、
 印形を残し置かれよ。」

とて、云えば、
「尤もなり」とて、判(はん)取り出し、紙に捺して渡す。

亭主、受け取りて、
勝手へ入り、
女房にも事情を語りて、印紙を見せける処に、

折ふし瀬川、
髪を直すとてその場に居合わせけるが、

その印形を見て、
何とやらん、見知りたる覚えあり。

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「勝手(かって)」は、普通には台所のことを指すが、
亭主が経理の指示を出したり、
「たか」が髪を直したりしているのだから、裏方作業の場と考えられる、

つまり、調理場でもあり、
帳場でもあり、洗面や化粧直しの部屋でもあるのだろう。

尚、「判」は、ハンコ、印鑑のこと。

「印形(いんぎょう)」は、印鑑の形、印影。
「印紙」は、捺印し、印影の記録された紙。





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