漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

○ある女囚のざんげ ①

2010年08月29日 | Weblog

 【ある女囚のざんげ】 ①
 
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● 元・牢番だった老人の話

明治十一年と云えば、西南戦争のあくる年です。

なにしろ、
物価は上がるは、
はやり病の騒ぎはあるわで、世間も落ち着かず、

当時、下っ端役人で牢番をしていた私などは、
日々の暮らしに追われるばかり、と云う暮らしでしたなあ。

そのころ、
新入りの女囚が一人、入って参りまして、
女ながらも人を殺したとかで、死罪は逃れぬと云う噂でありました。

処がこの罪人が、
年増(としま)ながらも中々の美人で、
殺すに惜しいような思いが致しまして・・・、

なにしろ私も若かったですからなぁ。(笑)

まぁ、その、なにくれと目を掛けておりましたら、
向こうもそれは分かりますから、
当番の夜など、短い言葉ぐらいなら交わすようになりました。

その後、間もなく女が独房に移されましてナ、
そうなると、いよいよ刑の執行が近いなと、私どもには分かる分けですよ。

そんなある晩、
女が真剣な顔をして、私に話があると申します。

もう自分でも分かっておったのでしょうな、

死ぬ前に、せめて誰かに事の次第を打ち明けて、
懺悔(ざんげ)の真似ごとでもしてから、
心穏やかに、あの世へ旅立ちたいから聞いてくれ、と申すのです。

私も若くて、体に壮気が満ちておるころですし、
間もなく死ぬ女の最後の言葉なんだから、
これは聞いてやらねばと、その、義侠のような気分もあったのでしょうなぁ、

ホントは、長話は禁じられておるのですが、・・・
なにしろ相手が美人ですからなぁ、(笑)

まぁ、聞いてやった分けですよ。

その時、聞いたことを、これからお話しする分けですが、
悪人とは云え、聞いてみれば、そこには哀れな処もありましたですよ。

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