漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

松葉屋瀬川の事・⑧

2009年06月05日 | Weblog
きのうの続き。

景気よく、女郎衆を上げ続けにして逗留する客、
その客の印判を見て、ハッとした「たか」は、我が部屋に取って返し・・・、

尚、以下の文中、
「印紙」は、印形を写した紙、印影。
「印形」は、ハンコを捺(お)した形。

「傍輩(ぼうはい)」は、同僚、仲間。
「上方(かみがた)」は、京、大坂方面。

「腰の物」、「差し料」は、ともに刀のこと。
 
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瀬川は、その場に居合わせけるが、
印紙をチラと見て、
「何とやらん、見知りたる印形」と、覚えあれば、

そのまま部屋へ帰り、

亡き夫、久之進が印形の書き付けを取り出し、
確かめ見るに、凡(およ)そ疑いなし。

故に、亭主に相ことわりて、
彼の印紙を借りて、とくと合い見るに、いささかも違わぬ同印なり。

「さてこそ」とたか、
松葉屋の女房に、その客の事を問えば、

傍輩(ぼうはい)歌浦が客にて、上方にて名のある衆の由なり。

さ、あらんにては、
その者の腰の物を見せくれ給(たま)えと願う。

総じて、遊郭の法にては、
貴賎にかかわらず、
遊興の間は、その宿へ、腰の物預かり置く習いなれば、
女房、すなわち戸棚より、
歌浦と札の付けたる脇指を出し見せければ、

たか、取りて見るに、夫の差し料に違いなし。
 
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江戸時代、
二刀は武士だけの特権だったが、旅の間なら町人にも、脇指はゆるされた。

「脇指(わきざし)」と云っても、
 大きな物なら
 「刃渡り一尺八寸(50センチ余り)あるから、武器としての威力はかなりのもの。

刀の区別は、
刃の良し悪しや切れ味が分からずとも、鞘(さや)や柄(つか)のつくりで見分けがつく。





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