りん日記

ラーとか本とか映画とか。最近はJ-ROCKも。北海道の夏フェスふたつ、参加を絶賛迷い中。

映画 『蟹工船』

2009-07-29 22:37:31 | 映画
『蟹工船』

原作:小林多喜二
脚本・監督:SABU
出演:松田龍平、西島秀俊、皆川猿時、野間口徹、ほか




カニの臭いが、しなかった。



以下、ネタバレありの感想です。未見の方はご注意ください。
あ、辛口です。。。















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原作は未読、この監督さんのことも全然知らない状態で、西島さん目当てに見てきました。

帝国主義の思想に覆われ始めた昭和初期の日本。
ロシアの領海ギリギリのところでカニを捕り、
そのまま船内でゆでて身をほぐして缶詰に加工する「蟹工船」。
何十人もの労働者たちは何ヶ月間も船内に閉じこめられ、
巨大なゆで釜のそばでボイラーを焚き、
ベルトコンベアーで際限なく運ばれてくる真っ赤にゆであがった何千匹ものカニを
ひたすら殻を外し身をほぐす。
そしてこれまたベルトコンベアーで運ばれてくるできあがった缶詰を
木箱に移し、運び、積み上げる。
何日も、もしかしたら何ヶ月も、一度も風呂に入ってないであろう労働者たちは
薄汚れ、疲れから口数少なく、みな痩せて眼だけがギラギラ光っている。

……なんだけど、なんだか薄っぺらい。
工船内部のセットはすごくよくできてたけど、
その中で動いてる人間たちが「労働者」に見えない、「役者さん」に見えちゃう。

労働者たちの目を覚まさせ、団結させようと動く松田龍平のリーダーシップに説得力がない。
その松田龍平が動くきっかけとなる中国人の言葉にも、説得力がない。

すべてを台詞で伝えようとしたからだと思う。
積み上げるエピソードがなく、台詞だけのやりとりだから、薄っぺらく見えちゃう。

パンフレットに、監督は「言葉の力を信じて、劇中で直接的なメッセージをたくさん放つ」
と書いてあったんだけど、言葉だけぽんと投げられても気持ちは動かない。
最後の結論だけをデジタル的にパッと見せられても、説得力はない。
メッセージを発した人物がどういう経験をしてきたどういう人間なのかが
わからないと。

監督が伝えたかったメッセージを台詞として言う役割はすべて
松田龍平演じる労働者のリーダーが負っているんだけど、
このキャラクター、原作にはなくて、まるまる映画のオリジナルなんですって。
原作では労働者たちを集団として捉えて、その集団がある状況の中で
一つの意志を持ち、団結し、動き出す様を描いてるんだって。
ああ、薄っぺらいのはそのせいかも、と思いました。
リーダーにまつわる部分が妙にほかと分離してる感じがしたんだ。
リーダーの描写・台詞が映画の大部分を占めるのに。

お目当ての西島秀俊さんは、その労働者たちを監督する「浅川監督」。
顔に大きな刀傷があり、血のしみがたくさん付いた白いコートを翻して、
手にしたムチで容赦なくぴしぴし労働者を打ち据えながら船内を闊歩する、
という、鬼軍曹みたいな役どころでした。

これが……悲しいほどハマってない!
全然迫力ない!
怖くない!
「この人、いまはこんな鬼軍曹みたいにふるまってるけど、
それは何か理由があってのことで、ホントはそういう人じゃないんじゃないかしらv」
なんて思わせちゃう。
(いえ、特に西島さんの草食なまなざしのファンってわけじゃない人も
きっとそう思うはず。)
浅川監督はものすごーーく残忍で冷酷で、
口では「お国のためお国のため」って帝国主義に凝り固まってる人のように見えるけど、
その実ただ人をいじめたいだけなんだっ、鬼ッ!って思わせなきゃならないのに、
全然そんなふうに見えませんでした。。。
外見のギャップが効果を生むんじゃないかと「あえての」キャスティングだと
パンフレットに書いてありましたが、失敗だと思います。。。


リーダーを失っても、個々が立ち上がってそれが大きなうねりとなって
自然に団結して権力に向かっていき始める、というラストシーンはなかなかよくて、
「おお、終わりよければすべて良し、かな」って思いかけたのに、
その瞬間にかかるあの音楽はなんですか!
あのシーンであの音楽は軽すぎないですか。もーガッカリ。
そしてやたらシンボル旗をばっさばっささせる演出も、
古いし『20世紀少年』みたいだからやめた方がよかったんじゃないかなぁ。
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2 コメント

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蟹工船 (ときお)
2009-07-30 18:05:05
こんにちわ
蟹工船映画は社会主義の思想を
SABU監督の中流的な宗教観念論入れ替えて
しまった。多喜二さんが泣いてます。
返信する
Unknown (りん)
2009-08-01 16:01:59
~ときおさん

初めまして、コメントありがとうございます!

私は原作未読なのですが、最近ブームになる前から読んでいた人には
不満の残る描き方かな、というのは確かに感じました。

ただ、最近若い人に広く読まれたのも、
作品の中で描かれるその社会主義の思想に共感したというよりも、、
権力(=金)を持たない社会的弱者でもできることはある、
自分の幸せのために一人一人立ち上がることが大事なんだ、
というメッセージを読み取ったからではないかと思うんですよね。
今回の映画化も、そういう読まれ方に沿ったものだったのかな、という気がします。

文学であれなんであれ、世に出た作品は作者の意図と離れて
様々な捉え方をされるものですから、
それはそれで悪いことではないと私は思うんですよねー

ただ、今回のが「映画として」出来がよかったかどうかについては、
本文中で書いたような理由から、
私はあまり満足できるものではありませんでした。
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