わいるどぴっぐの猪突猛進

いつも疑問に思うことを書いていきます。

東大メンタル(ASDの頭の使い方と勉強できる人の頭の使い方の違い)

2022-08-05 13:50:22 | 書評
こんにちは、ぴっぐです。お久しぶりです。いい本に出会ったので書きたいと思います。
その名も「東大メンタル」(西岡壱誠、中山芳一/日経BP社)

東大生が東大生を分析してみたという類の本です。この副題が素晴らしく、「やりたくないことでも結果を出す技術」とあります。それでは参りましょう。

筆者によれば「あなたは勉強が好きですか?」という質問を東大生にしたところ、8割の人が好きだと答えるそうです。しかし「受験を目指して本格的に勉強を始める前から好きでしたか?」という質問に対しては、好きだったと答える人は4割未満になるそうです。(p.42)つまり勉強を好きだから受験勉強したというより、受験勉強を進める過程で好きになったという仮説が立ちます。では当初はやりたくなかった受験勉強ですが、やる気がでない時は以下のスステップをふむとしています。

第1、目標を立て、目標達成に必要な行為を数値化する
人は無意味なことをしている時に、精神的に追い詰められる(辛いと感じる)
無意味なことをしている時とは、自分で目標を立てて前向きに取り組めていないことである。
自分で目標を立てて前向きに取り組めていないこととは、自分の意思で目標を設定できていないことである。
したがって、自分の意思で目標を設定していれば、意味があることと思える。(p.32-60)

では自分の意思で目標を設定するとは、どういう意味でしょう?
それは課題を、ドラクエのようにゲーム化することだそうです。
人間は楽しかったら努力をするし、楽しくなかったら努力をしません。・・・古文や歴史を学ぶのに漫画を読むというのが有名ですが、ほかにも自分で専用のカードゲームを開発したという人がいたりします。要するに、この人たちは自分から楽しめるように努力することを厭わなかったわけです(p.67)


筆者はこのように、「自分の行動に対して、自分の意思で、目標を設定すること」を「主体性」と定義(p.60)して、主体性があれば無意味なことをしている感覚がなくなるとしています。 

私は本当かなと思うのですが、その疑問は脇におき、主体性を獲得する手法を以下のように展開します。
1.具体的な数字で目標を設定する
2.制限時間を設定する
3.達成できたらゲームクリア
です。

もっとも常に数字で目標を達成できるとは限らないため、数字で目標を設定するにはいくつかの小技が必要です。
1-1 状態目標(例:後輩の目標になりたい)を設定する
1-2 行動目標(そのためにいい小論文を書く)に落とし込む
1-3 数値目標(いい小論文を書くために、毎月3冊本を読む)に落とし込む
という具合です。 

「理想の自分」や「合格」や「痩せる」などの理念はゴールであるものの曖昧ですから、それを達成するための行動にする。さらに行動の基になる書籍数などに押し込み、対策していくわけです。

もっともここでも問題はあり、どのような行動や書籍に落とし込めばわからない場合です。そこで以下のように細分化します。「行動を5つ」、「行動のために必要な書籍を1つ」のように無理くり複数あげます。
【1-1状態目標 (例:コミュニケーションスキルを高める) 】
1-1-1 状態目標の達成に必要な具体的要素を5個以上書き出す
初対面の人とも会話できる
人前でも物怖じせずに話せる
相手の立場にたって会話をできる
ユーモアのセンスがある
話した相手に好印象を与える

【1-2 行動目標】
1-1-2 状態目標に達成に必要な行動目標を5個以上書き出す
初対面の人と会うような勉強会に参加する
TEDの動画を見てプレゼンの技術を学ぶ
相手の立場に立って会話をする本を読む
・・・ (略)

【1-3 数値目標 】
1-1-3 行動目標の数値目標に置き換える
勉強会に月1回参加する
TEDの動画を週1本見る
相手の立場に立って会話をする本を月1冊読む
・・・(略)


第2、自分で考えない
目標設定において主体的であること一見矛盾するのですが、「具体的に何をするのか」を自分で考える必要がないとしています。例えば「初対面の人と会話できる」の場合、その具体的行動を過去に誰かが考えているかもしれません。「知らない人に街で話しかけようか」と、自分で創造的に考える必要がないとしています。特に初めて物事に取り組んだ分野では、仮説自体が的外れなことがあるわけです。

試験であれば、その試験に歴史があればあるほど傾向があります。また上司との関係で悩む人は、長い人類の歴史で過去にあるでしょう。このように同じように疑問を抱え対策をしている先人はいる可能性が高く、「ネットで調べる」や「先輩の意見を聞く」などして、既存の方法を試すことを推奨しています。
ネット検索で「新商品の開発の仕方」を調べてみれば、たくさんのアプローチが見つかります。アイデアの達人が書いたいい本も見つかるでしょう。その中から「自分と似た課題に、優れた答えを出した人」を探せばいいのです。人間の悩みなど、それほど多くの種類があるわけでありません。大抵の悩みは、自分が考えるよりも前に、たくさんの人が悩んでいて、いい答えを出している人がいます。そこを調べて解答を見ちゃった方が効率的です(p.343)

これは前例踏襲に繋がるという負の側面があるのは間違いなく、いつもの私なら否定的です。しかし自分より賢い人が解決策を作っていることも人類の歴史でありえますから、自分でゼロから考える必要などないことを指しています。

私が大学に入学した頃、京大在学中に司法試験に合格した教授がこう言いました。
人類の歴史の中で君が考えるような疑問は誰かが考えて、すでに解決していることの方が多い。だから自分のオリジナリティを出すためには、まず過去の集積を学ぶ必要がある。その蓄積になかったものが初めてオリジナリティになるので、過去の集積を素早く学ぶ技術そのものが重要なのです。

きっと教授は東大メンタルの筆者と同じ考えで、物事の処理を自分で産み出す喜びよりも、誰かが発明した方法で手短に処理する方に重きがあるのでしょう。

第3、相対的に考える
試験なら試験問題を作る人が、試験の答えを考えた上で作ります。仕事なら、上司が指示を与えた時点では上司自身も漠然とした答えしかないかとしれませんが、後ほど仕事の査定をします。経営者なら、これまた消費者の行動という曖昧なものですが、それでも消費者の行動をみて判断します。このように採点基準、査定基準、購入基準といった自分以外の第三者の基準があるため、「●●という行動をする」という状態目標の設定では、自分で考える必要はないと筆者はします。つまり判断する人の基準に合わせているだけであり、物事を完璧にする必要はないとも言い換えられるわけです。例えばTOEICに絞って勉強すればTOEICの点数が上がっただけであり、何も英語が万能になることまでは必ずしも意味しない。簿記1級に特化して勉強すれば簿記1級に合格できたというだけであり、あらゆる経理の問題を処理できるようになることも意味しないわけです。このように「目標達成した」というだけで、「その分野に万能になった」とか「なんでもかんでも答えられる」ことを意味するわけでないのです。

これは私にも実感があり、ビジネス実務法務検定1級をうける際に過去問しかしませんでした。そのため体系的に著作権法、特許法、景品表示法を学んでいませんので、自分で説明することはできません。しかしそれら法律で頻繁に問題になる現象と条文自体は過去問と解答例で触れているため、「自分でゼロから説明はできないけども、どうやらこれが頻繁にある生じる問題で、頻繁に生じる問題にはこの条文らしい」との指摘ができます。つまり物事を本質的に理解なんか全くしてないのですが、誰か営業担当から質問されれば説明したことになるわけです。

第4、最低基準と目標基準を作る
状態目標から行動目標と数値目標を作ったとしても、高い数値によって自分を苦しめてやる気をなくすことなどいくはでもあります。そこで、「最低限の目標」と「理想的な目標」の2つを作りその間で物事を処理することで心が折れないようにするということになります。

まとめ
以上のことを私なりの言葉でまとめると以下のようになります。
1.試験、仕事、人間関係のように、自分が判断する権限のないところでは、自分で考えない。まして「本質的」だとか「真髄」だとかいうことは考えなくていい。言葉足らずだったり、よくわからない説明だったりするが、世間ではその程度で良いとされるためである。
2.他人に判断する権限がある場合、その対策方法も自分で考えなくていい。長い歴史があったり、多くの人が関わったりする分野ほど、既に賢い人が対策を作成していることがあるためである。そして長く残っている方法ほど対策としての効果が保証されたと仮定して、実行してみる。
3.その対策において状態目標→行動目標→数値目標と、数値化に落とし込む。
4.数値化できたとしてもハードなものは途中で心が折れるので、最低目標と理想という2つの数値を作ってその間でやりくりする。

つまり「自分で創造する必要なんてほとんどないよ」とか「自分が納得しなくても、他人の基準を満たすことはいくらでとあるよ」ということを言っており、「あなたの考えなんてどうでもいいから誰かの真似を一生懸命したらどうか」と言っています。

さてさて、ここまで方策はわかりましたがここからが問題です。
【疑問1】
マニュアル化されない分野はどうするのか?(●●心得という類の本はあるけども、社内で日々発生する例えば上司とのコミュニケーションを、具体的ケースで書いたものはほとんどない。また、異性とのデートをケーススタディごとにしたものもほぼ見たことがない。そのため「気の利いたコメントをする」とか「相手が気分良くなるように」という指摘はあっても、「気の利いた」とか「気分良く」とは、目前の人の価値観に依存する。そしてその「①目前の人の判断基準の見分け方②その判断基準からすると、どのような表現が気の利いたと判断されるか」というところまで踏み込んだものがない)
【疑問2】
ASDに顕著と思いますが、そもそも他人のルールに従うのが苦痛の人はどうするか?

それは別の本で探っていきましょう。 東大メンタルによれば、自分で想像的に考える必要はこれっぽちもなくて「誰かが作った先例を使う」のがベースのようなので。