日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

今日は新橋

2013-01-29 19:32:49 | 居酒屋
本日は出先の新橋で終業と相成りました。19時に新橋となれば、虎を野に放つようなものです。暇になったわけではなくむしろその逆で、片付けるべきことは多々あるとはいえ、この状況でわざわざ職場へ戻るなどという考えが起こるはずもありません。今日の予定が決まった時点で、頭の中はどの店で呑むかということで一杯になっていました。後は野となれ山となれの心境で訪ねる一軒は「喜多八」です。
かつてはホームグラウンドとして足繁く通った、都内有数の呑み屋街たる新橋ですが、その後都内各所、さらには全国津々浦々の名酒場を訪ね歩いて、新橋には抜きん出た名店がないということに気付きました。実際のところ、教祖が薦める名店の中に、銀座や築地の店は何軒もあるのに対して、新橋の店というのは聞いたことがありません。しいていうなら、「酒場放浪記」に何度か登場したのが思い出される程度でしょうか。それとて他の呑み屋街に比べて特に多いわけではなく、このことからしても、新橋の呑み屋の平凡さがうかがい知れるというものです。
この店もご多分に漏れず、有り体にいうならどこの街にもありそうなごく普通の居酒屋です。魚介を中心にした品書きも、一番高いものが750円の鮪ということから分かるように、あくまで値段相応です。本当によいものを求めるなら、他の店を探した方がよいでしょう。丸めたポスターや荷造りの紐など、本来客の目に触れさせてはならないものが、壁際の小棚に積み上げられているところなども気になります。かつては素直によい店だと思えたはずが、下手に目が肥えたばかりに些細なことが気になってしまうのですから、「知らぬが仏」とはこのことです。
しかし、そう分かっていながら今日も暖簾をくぐったのは、この方がむしろ新橋の呑み屋らしくてよいからです。店主と女将が二人で営む小さな古びた居酒屋で、背広姿の中年男に交じって酒を酌むという雰囲気が何よりよいのであって、どんな酒と肴が出てくるかについて、実はそれほどの重要性はありません。酒と肴よりも居心地を宗とする点は、博多の屋台に通じるものがあるといってもよいでしょう。
平凡さを殊更に強調してきましたが、もちろんただ凡庸なだけの店ならいくらでもあります。高級魚をあえて避け、大衆魚を中心にした品書きは、勘定を気にせず呑みたい向きには好都合です。瓶ビールがサッポロラガーであること、通好みのするものを中心に地酒がいくつか選べることなど、酒の揃えもおざなりではありません。頭巾に作務衣の店主は黙々と仕事をこなしながらも、旬でない品についてはその旨をはっきり伝えるなど対応も誠実。常連で夜な夜な賑わう理由も納得できる一軒です。

喜多八
東京都港区新橋4-15-8
03-3431-2402
1700PM-2300PM(土日祝日定休)

萬寿鏡・喜長
お通し(わけぎ)
いわしなめろう
のどぐろ一夜干し
穴子白焼き
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