二軒目は新規開拓です。宿の近くで鯨料理の行灯を掲げる「とん久」を訪ねます。
釧路に多い木造モルタル二階建ての長屋に構えた店は、三人掛けのベンチシートを二つずつ並べたL字のカウンターのみというささやかさで、角刈りの苦み走った店主が一人で営業しています。カウンターにしても内装にしても、贅沢さや細かい細工はなく、より直裁には安普請といってもよいでしょう。しかし、それにもかかわらず居心地よく感じるのは、古いながらもきれいに磨かれ、使い込まれたものだけがもつ味わいを放っているからで、釧路で心惹かれる呑み屋は総じてこの条件を満たしています。酒と肴にてらいがなく、予算が良心的なところも同じです。立派なカウンター席に腰を下ろして、高価な食材や繊細な味付け盛り付けを楽しむというより、どこにでもある酒と肴をくだけた雰囲気の中で楽しむというのが、釧路の居酒屋の典型的な姿ではないでしょうか。
とはいえ、どこにでもあるというのは必ずしも凡庸ということではありません。酒は賀茂鶴の上等、つまり特別本醸造で、ただ「酒」と頼んで出てくるものとしては一枚格上です。その賀茂鶴の名を入れた染付の徳利も、機能美と実用性を兼ね備えていて心憎いものがあります。
それとともに共通しているのが、呑み屋の店主に訛りがあるということです。札幌で訛りを感じることはまずないのに対して、内地の人間がイメージする北海道弁をそのまま体現したような話しぶりです。そんな訛りを聞きながら、ちびりちびりと酒を汲むのがよいのです。
これは店主の話しぶりから気付いたのですが、道内では気温にいちいち「氷点下」をつけません。たとえば10度といえば氷点下10度に決まっています。たしかに、この時期の北海道でプラスの10度はないわけで、いちいち断らないところに土地柄が現れているようです。 その流儀に従うと、気温は夕暮れ時に10度を切り、明日の明け方には15度まで下がると予想されています。どうりで寒いわけです。しかしこの店のカウンターには仕掛けがあり、ヒーターもないのにカウンターの膝元から暖かい空気が上ってきます。しばれる夜にはありがたい心遣いです。
★とん久
釧路市栄町5-2
0154-25-3839
1700PM-200AM(不定休)
賀茂鶴
お通し(鮭なます)
鯨刺身
豚串・ツブ串
釧路に多い木造モルタル二階建ての長屋に構えた店は、三人掛けのベンチシートを二つずつ並べたL字のカウンターのみというささやかさで、角刈りの苦み走った店主が一人で営業しています。カウンターにしても内装にしても、贅沢さや細かい細工はなく、より直裁には安普請といってもよいでしょう。しかし、それにもかかわらず居心地よく感じるのは、古いながらもきれいに磨かれ、使い込まれたものだけがもつ味わいを放っているからで、釧路で心惹かれる呑み屋は総じてこの条件を満たしています。酒と肴にてらいがなく、予算が良心的なところも同じです。立派なカウンター席に腰を下ろして、高価な食材や繊細な味付け盛り付けを楽しむというより、どこにでもある酒と肴をくだけた雰囲気の中で楽しむというのが、釧路の居酒屋の典型的な姿ではないでしょうか。
とはいえ、どこにでもあるというのは必ずしも凡庸ということではありません。酒は賀茂鶴の上等、つまり特別本醸造で、ただ「酒」と頼んで出てくるものとしては一枚格上です。その賀茂鶴の名を入れた染付の徳利も、機能美と実用性を兼ね備えていて心憎いものがあります。
それとともに共通しているのが、呑み屋の店主に訛りがあるということです。札幌で訛りを感じることはまずないのに対して、内地の人間がイメージする北海道弁をそのまま体現したような話しぶりです。そんな訛りを聞きながら、ちびりちびりと酒を汲むのがよいのです。
これは店主の話しぶりから気付いたのですが、道内では気温にいちいち「氷点下」をつけません。たとえば10度といえば氷点下10度に決まっています。たしかに、この時期の北海道でプラスの10度はないわけで、いちいち断らないところに土地柄が現れているようです。 その流儀に従うと、気温は夕暮れ時に10度を切り、明日の明け方には15度まで下がると予想されています。どうりで寒いわけです。しかしこの店のカウンターには仕掛けがあり、ヒーターもないのにカウンターの膝元から暖かい空気が上ってきます。しばれる夜にはありがたい心遣いです。
★とん久
釧路市栄町5-2
0154-25-3839
1700PM-200AM(不定休)
賀茂鶴
お通し(鮭なます)
鯨刺身
豚串・ツブ串