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もじもじ猫日記

好きなこといっぱいと、ありふれない日常

れる られる  最相葉月

2016-08-05 22:34:27 | BOOK
―――はじめに

  これは、境目についての本です。生と死、正気と狂気、強者と弱者など、私たちが相反するものとし認識している言葉と言葉の境目について考えました――――

第一章 生む・生まれる
 (出生前診断について)
―――技術があるからといって、使わなければならないということではない。そのことは絶対に保証されねばならないのだ。なぜなら、出生前診断は遺伝学の進展によって判明したごく一部の病気や障害とそれ以外をより分ける技術に過ぎないのだから――

第二章 支える・支えられる
 災害時に過酷な働きを強いられる職業、消防士、自衛隊、警察官、医療関係者、そして行政職員の心のケアについての章。
この中には東日本大震災の殉職者の慰霊祭を行ったことは、阪神大震災以降に取り入れられたPTSD予防として必要な「弔いと労い」の、大切な儀式であるという文章がある。
そして
―――しかし口惜しいのは、福島第一原子力発電所の事故後の対応である。収拾にあたった作業員たちは危険を伴う職務のストレスに加え、マスコミの批判や住民の非難のために自分たちの窮状を外に訴えることができずにいた――――(協力会社から派遣された60代の作業員が亡くなった時)外国人の友人に「国民の命を守るために、いま、日本でもっとも重要な仕事に就いている人たちが、なぜあんな劣悪な環境で働いているの」と訊ねられて、私には返す言葉がなかった――――

―――東日本大震災で行われている心のケア活動の中で、過去に例を見ない困難を抱えているのが福島県である。2014年9月の時点で(本の発行が2015年1月)長引く避難生活などで体調が悪化して亡くなる震災関連死は十の都道府県で三千人超、そのうち福島県が1758人と全体の半数以上を占め、津波や地震など直接的な影響で亡くなった人の数を上回った―――

これらの文章がとりわけ深く印象に残った。
考えなければならない、と、自分の中のスイッチを押された。


第三賞 狂う・狂わされる ~ では正気と狂気の境を
第四章 絶つ・絶たれる  ~ では研究者の置かれている立場と自死について
第五章 聞く・聞かれる  ~ ではコミュニケーションを聴覚によって考えている

第五章 愛する・愛される は少し異質で田宮虎彦とその妻の愛情について書かれている。


最相葉月は、硬質な言葉で冷徹な事実をもするすると紡ぐ作家だと思う。
この本もエッセイとされているが、ルポルタージュのような読後感だ。

――――こちらとあちらは紙一重だったと思い知らされます。こちらとあちらではいったい何が違うのか、何が両者を分け隔てるのか、問わずにはいられなくなります――――
はじめに の中にあるこの思いを共有できる人が少ない気がして、それがこの日常の息苦しさに繋がっている気がする。

高山なおみのはなべろ読書記

2016-06-22 21:53:01 | BOOK
「日々ごはん」を10巻まで読んでいて(全て図書館本♪)
高山さんの文章は好きなのだけれど、
時折
彼女が自分の中身をさらけ出しすぎる文章があり
それを読むと何故か苦しくなる。
あまりにも取り繕わないことは読者を照らしてしまうのだと思う。
本人は全く意図していないことなのに。

小説を読むときは ~鼻の上まで布団をかぶり、本の世界にもぐり込むようにして~ 読むらしい。

本を読んで文章とその中に出てくる、もしくはイメージが沸いた料理を
一冊にひと品ずつ。

高山さんの料理は「よしっ、作ってみよう」とメモするものと
調味料、作り方が私には縁遠く、味を想像してみるだけのもの。


結局、今日の晩御飯でレタスチャーハン。卵とレタス欲を満たす。


そして、チャララーン
ついに
熱帯部屋の夏用に狙っていた”蒸気の出ない電気ケトル・沸く子さん”購入!
0.8ℓ用の白々さん。うふふ。
部分的に淡いピンクのにしようかと思ったけれど、
保温ポットが薄いベージュなのでうるさくならないように白。
デザイン的にはティファールが好きだけど
蒸気が出ないが超重要だから。

簾も買いたい、夏近し。

別冊 図書館戦争Ⅰ・Ⅱ  有川浩

2016-04-03 22:39:46 | BOOK
図書館本

図書館戦争シリーズを最初に読んだ時
読後感が新井素子の”星へ行く船”シリーズにそっくりだったのだが
別冊のⅠは本当にそのまんま。

というわけで、
読みやすく面白い。
堂上と郁のラブコメっぷりは、映画にゃなんないね。
ちょっとね。


新井素子は本格SFではないそのあたりの作品を
「私の作品は通過儀礼だと思っている」
と語っていたことがあるが、
有川浩はどうなんだろう?

政と源~三浦しをん

2016-03-09 19:44:49 | BOOK
三浦しをんの書く男同士は
リアルさと物語性の絶妙なバランスが魅力。

東京の下町に生まれ
戦争を経験している幼馴染じじいコンビ。

つまみ簪職人の源二郎は残り少ない髪を赤や緑に染めるファンキーじじい。
一方
銀行員として仕事に没頭し定年まで勤めた国政は堅物で面白みが無く
妻に熟年離婚されかかっている。

主に、政が源に巻き込まれて冒険をする羽目になっているが
頑固ジジイ同士の大人気ないケンカあり
源の弟子の若者の恋あり。

下町に残る運河を小舟で行き来する粋。
そして、
源の人生を変えた東京大空襲。
多くは語られないが、
語られないことで、人生にどれだけ深く影を落としているかが分かる。

さて、政は妻に捨てられてしまうのか?
ファンキー源と石頭の政は上手く付き合っていけるのか?



「まほろ~」の二人が一緒に年を重ねたら
どんなじじいコンビになるのか、と
思わず想像してしまった。


玻璃の天 北村薫

2016-02-19 11:35:26 | BOOK
「国家が一つの行進であるとします。皆が自由な方向に歩き始めたら、それはもう行進ではないでしょう」

「そのお答えは、論理的であるように見えて、実は違うと思います。行進する――ということの意味合いが定かではないからです。国家と言う行進なら、その向かう先は、孔子の言う仁や、あるいは、殺すなかれといった、基本的な徳であるように思えます。それを超えた主義主張を、否応無しに強制された時、行進は、歪まざるを得ないのでしょうか。外に向かっては行為が、内に向かっては心が、です。――わたしのいう自由とは、基本的な徳に向かう行進の中で、右を向き左を向く自由です。鳥の声に身を傾け、空の雲を見る自由です。――そこから、機械の尊さではない、人の尊さが生まれるのではないでしょうか」

「人を縛る主義主張を否定する。その時、大義はどうなるのです。あなたのおっしゃるような国に、民草が挙げて守るべき大義は存在し得るのですか」

「一国に絶対の大義があれば、隣の国にも別の大義が生まれるでしょう。そうなれば、人は殺し合うことになります」

 ・
 ・
 ・
「そのような……行進の中にあって右も左も見つめ得る国を守ること、……大義と言う魔法の言葉なしに国を保つことが困難なら、そういう奇跡の国をまもることこそが、ひとつの大義になると思います」


『幻の橋』の一節


2006年に雑誌に掲載され
2007年に刊行された単行本を
2016年に私が読んだ。


昭和初期、5.15事件から2.26事件までの時代を描き、
上流階級の令嬢「わたし」が、女性運転手「別宮」と謎解きをするミステリーである。
昭和初期の街並みや風俗が「わたし」の生活から読み取れる
歴史モノとしての面白さと、
日常的な謎が時代に繋がっている面白さ。

その「わたし」が
知人宅で合った若い軍人と交わした会話が最初に書き写したものだ。

2016年現在の会話のように思えてしまったのだ。

繰り返すが、昭和初期を舞台としたミステリーで
乱暴に言ってしまえば、娯楽小説である。
であるのに、
であるから、
優れた小説を読むことは視界が広がるのだろう。


市内の図書館で、
完結編を探さなくては。

それにしても、北村薫。
おじさんなのは知っていても女性の心が解りすぎ。
「ひとがた流し」なんて胸を突かれたもの。

パンとスープとネコ日和 群ようこ

2016-02-04 23:07:31 | BOOK
図書館本

なんか「かもめ食堂」日本版みたい食堂、
って同じ作者だ、わはは。

自分を独りで産み育ててくれた母親が残した昭和の食堂を
娘は
身体に優しいパンとスープの食堂に作り変える。
常連だったオッサン達や商店街の古参には優しくないが
自分に優しい生き方をするために
会社を辞めて食堂を始めたアキコ。

連れは背高しまちゃんと
野良出身の猫、たろちゃん。


人生は商売は厳しいぞ!
そんな皆知ってることをわざわざ言わずに
柔らかに人生の裏も表も書いている。
でも、楽しい読後感。


文中の、
キナリの麻や綿を重ねて着ている人々が具体的に頭に浮かんで
あ~、溜まってる店ってある、そーゆー人が。
と笑ってしまったよ。


眉間にしわ寄るモノばかり見ていてもイカンのだ
人生。
こないだ湯浅誠読んでたからな。



それにつけても 猫の飼いたさよ。

サンカーラ この世の断片を手繰り寄せて  田口ランディ

2015-12-18 21:02:59 | BOOK
田口ランディの小説はあまり相性が良くなかったのだが
図書館でページをめくってみて
借りることにした。

2011年に田口ランディに起きたことをベースに進む
エッセイともドキュメントともつかない文章。

同居していた義母に続き義父が他界する。
その間に見えた、
医療者と病院のシステムの間さは
何度か入院をした身と
祖母を見舞った病院で私も感じたことだ。
個々の問題ではなく
システマチックにしか患者を取り扱えない現場になってしまっている。

3.11以前から原発問題の研究会を始めていた田口氏は
「なぜ、いまさら原爆なのですか?」
多く投げかけられていた質問に対する答えを
事故の後に見つける。
「それが暴力だからです」
アルコール依存症の父による暴力にさらされた子供時代が
自分の興味を暴力へと向かわせているかもしれない。

思い起こせば
カンボジアの地雷原、キリングフィールド、アウシュビッツ、広島、長崎、沖縄、ワルシャワ、ルーマニア、ベラルーシ、チェルノブイリ、ニューヨークのグランドゼロ。
そういう場所を旅してきた。
取材でもなく。

そう書く田口氏は福島にも足を運び
義父母の死
水俣と福島
ヒロシマ
自死ともいえる餓死をした兄
父親のアルコール依存
それらを見つめることにより露わになった
自分の中の欺瞞
全てを書いている。

重いが、纏わりつくような罪悪感を感じない読後が
不思議な本だ。

3月のライオン 11巻

2015-09-26 22:50:31 | BOOK
川本家のお父さん、最低!

現実にああいう人物の対応したことのあるワタクシとしては
本を二つに引き裂かんばかりに腹がたったけれど
さて
別段家庭環境が複雑だったという話を聞かない
羽海野センセは
どこからあんなに卑怯で狡猾で良心が欠片もない人間を
作り上げたのだろう?
物語を作る上で実体験が必要ないことは理解できるが
底なしに嫌な人間を頭の中で作るのは
ものすごく負のエネルギーを使うだろう。
ああいうヤツは他人のエネルギーを吸い取って
自分は被害者ヅラするものだ。


零くんの突然プロポーズ不発や
みさきさんがお店を任せた人達など
笑いもあるけれど
このシリーズを読んでいれば
善人の脆さや悪人の恐ろしさだけでなく
個性的な棋士の面々を通して
世の中の人のバリエーションをほとんど学べてしまう。


それにしても、
深夜に朝生ちらっと見たら
うそつきはうそつきの顔してるので大笑い。
貧乏神みたいな顔のおっさんもいて
顔には色々な情報がでるな。
一見整っていても、嫌な感じを隠せない口元とかね。

鏡をしっかり見るべし。

夜明けのラジオ~石田 千

2015-09-22 23:31:55 | BOOK
彼女のエッセイはこれで10冊ほど読んでいる。

年齢の割に、向田邦子や青木玉などを感じさせる
硬質な文体が気に入っている。
言葉の選び方が古風なことにも、わざとな感じは無く
すうっと寄り添いやすい。

銭湯に入るのが好きで
その後のビールがさらに好き。
人づきあいが得手ではなかった学生時代
手早く作られる食事
一人暮らしの良さと寂しさ
きらびやかな出来事はででこない
病に伏したこともさらりと書かれる

暮らしと言うのは、小さな幸せで足りるもの。
持っている話ばかりをを声高にする人を幸せ者だと
うらやんだり妬んだりしていては
見えなくなるものがある。


この人のはしゃいだ文章も読んでみたい、
そういう気持ちになった。



岸辺の旅~湯本香樹実

2015-09-09 20:27:13 | BOOK
映画のストーリーが気になって、
先に本を読んでみた。


不思議な話だ。

突然失踪した夫が3年かけて旅をしながら妻のもとに戻って来る。
「オレは死んで身体は蟹に食われた」
そう淡々と語るのだが
妻から見れば薄明りの中とはいえ、そこにいるのは紛れもなく夫である。

理由も言わずにその3年の旅を一緒に遡ろうという夫に連れ添う妻。
安宿を泊まり歩くその日暮らしの旅の中で
夫が関わった人たちとの再会と労働で見せる姿で
妻は自分が知らずにいた夫の顔をいくつもみつけてゆく。
それは、夫婦としてのきずなを新たに結んでいくような旅だった。

しかし、
旅が終われば夫がすでに死人であることと向き合わなければならない。



その昔”鉄道員~ぽっぽや”を
「幽霊が出てくる話である」と書いていた書評家がいて
『まあ、そりゃそうだ』と思った私だが
この話は少し色合いが違う。
死んだ夫は「俺みたいな人は、実は沢山いるんだ」と語り
自分もだが皆働いたりして世間の人々と関わりながらいるのだという。
(飛行機の話は飛行機嫌いには怖かったが)

そんな設定がホラーでも人情話でもなく読み進められる
興味深い小説だ。


映画の予告編では、明るいシーンが多かったが
観るのがすでに楽しみである。