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話題の本・紹介 『21世紀の資本論』

2014年06月29日 12時56分53秒 | キャリア支援
仏学者の経済専門書、異例の人気 
格差拡大に警鐘

(06/20 16:11)
【ロンドン共同】

フランスの経済学者が格差問題を論じた学術書
「21世紀の資本論」(邦訳未刊行)が
欧米で異例のベストセラーになった。
700ページ近い大作ながら、
今年3月発売の英語版は早くも40万部以上を売り上げた。
分析への賛否も相次いでいる。

一躍時の人となった著者のトマ・ピケティ・パリ経済学院教授(43)は
今月16日、ロンドン大経済政治学院(LSE)で講演。
満員の聴衆に「競争は必要だが、
格差が広がり過ぎれば階層が固定され、
経済の活力を奪う」と力説した。
講演後のサイン会では学生らが長蛇の列をつくった。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/economic/546536.html

話題の「21世紀の資本論」、重大な欠陥も
2014/5/23 7:00
The Economist

仏経済学者トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本論』が
世界的ベストセラーとして話題を集めている。
同氏は、富の集中、格差拡大の解決策として、
資産に対する課税強化が必要だと説く。
だが、英エコノミスト誌は、
ピケティ氏の解決策は重大な欠陥があると見る。

カール・マルクスの『資本論』が
最初に出版されたのはドイツ語で1867年。
1,000部売れるまでに5年かかった。
英語に翻訳されたのは20年後で、
本誌(英エコノミスト)が
その著作に初めて言及したのは、
1907年のことだった。


画像の拡大:自著を手にするピケティ氏(43)。パリ経済学校教授。フランス国立社会科学高等研究院でも研究を行う=ロイター
自著を手にするピケティ氏(43)。
パリ経済学校教授。
フランス国立社会科学高等研究院でも
研究を行う=ロイター

 
これに対し、フランスの経済学者トマ・ピケティ氏の新著
『21世紀の資本論※』(未邦訳)は、
一夜にして世界の話題をさらった。
所得と富の分配について膨大な分析を行ったこの大研究は、
もともとフランス語で出版されたが、
今年3月に英訳が出版されるやベストセラーとなった(エコノミスト誌は、
原書が出版された時に最初の書評を掲載した)。
米アマゾン・ドット・コムでは、フィクションも含めた
ベストセラーの第1位に躍り出た。
※=仏語の原書名は『Le Capital au XXIe siecle』。
英語の題名は『Capital in the Twenty-First Century』


盛り上がる格差の議論
本書が大ヒットした要因は、最高のタイミングで、
最も話題となっているテーマを取り上げたことにある。
格差の問題は特に米国で、
少し前からホットな話題として
急浮上していたからだ。

米国人はこれまで何年も、
「持てる者と持たざる者の格差問題」など、
欧州的な強迫観念にすぎないと軽視してきた。
だが、その米国人もここへきて突然、
ウォール街が過剰に富を得ていることに怒りが爆発、
富裕層と富の再分配の在り方を問題にし始めたところだった。
故に本書が注目を浴びたというわけだ。

ピケティ氏は、富の集中は資本主義の本質であり、
先進的解決策として、
全世界で富に課税すべきだと説く。

その内容は当然、左派を狂喜させ、右派を激怒させる一方で、
退屈な学問とされてきた経済学を一般の人にとっても
関心のあるテーマに変えつつある。

だが、ピケティ氏の主張をべースに世界が
格差の議論をするようになれば、
それはあまりよいことではない。
なぜなら、本書は19世紀の『資本論』と同じく、
素晴らしい学問的考察を一部含みながらも、
実際の施策の指針としては
重大な欠陥を抱えているからだ。

300年間のデータに基づく分析
577ページに及ぶ本書の内容が
経済学に大きく寄与する点は3つある。

第1は、過去300年にわたる所得と富を巡る進展を、
欧米を中心に、大変な労力をかけて記述していることだ。
ピケティ氏は、税の統計を用いて格差を数値化する手法の先駆者でもある。

この記述を通じて著者は、所得の格差と富の蓄積(の国民所得比)が
共に劇的に縮小した1914年ころから
70年代までの時代というのは、
歴史的に見ると例外に属することを示した。

70年代以降は、富と所得の両方で格差が再び拡大し、
今や20世紀より前の水準に戻りつつある。

これらの統計数値にはいくつか間違いがあるが、
この研究は富の歴史についての理解を一変させ、
驚くべき結論を明らかにした。

例えば、フランスで年間に相続される資産の価値が、
50年代には国内総生産(GDP)の5%以下だったが、
現在では約15%へと3倍に膨れ上がり、
25%という19世紀の最高水準に近づいている
ことなど誰が知っていただろう。

本書が、実証的な謎解きの読み物として優れていることに、
議論の余地はない。ピケティ氏の第2の貢献は、
これらの事実を説明する資本を巡る論を組み上げ、
将来、富がどのように分配されるようになるかを予測したことだ。
彼の主張で重要な点は、「資産と投資の収益率は
常に経済成長率より高いため、自由市場システムは、
おのずと富の集中を進めるという傾向を備えている」と指摘したことだ。

20世紀においては、2度の世界大戦と大恐慌と
高い税率が富の収益率を押し下げた一方で、
生産性と人口の急激な拡大が成長率を押し上げた。

しかし、これらの相殺要因がなくなれば、
資本の収益率が上がり、富の集中を促すことになる
とピケティ氏は論じる。そして、
特に現在のように高齢化で成長率が減速している場合は、
その傾向が強まる、と。

「資産課税」に偏る政策案
富の集中が進むというピケティ氏の予測は、
特に変わったものではない。しかしこれは、
過去のデータからの推定に基づく予測であり、
資本主義の本質的なモデルというわけではない。

ピケティ氏は、富の蓄積が進んでも、
資本収益率は大きくは低下しないと仮定している。
その通りなのかもしれない。が、
ピケティ氏の予測はあくまで仮説であり、
確実な法則ではない。

ここに問題の根がある。というのも、
ピケティ氏の3番目の貢献は、
政策提案をしていることだが、その提案は、
富の集中は避けられないだけでなく、
それこそが最も重要だという前提の上に立っているからだ。

ピケティ氏は、全世界で資産に累進的に課税するという対処法を
提案している(税率は最低年0.1%で、
大富豪の資産には最大で恐らく10%に達する)。
また、約50万ドル(約5,100万円)以上の所得に対しては、
80%という懲罰的な税率も示唆している。

本書の主張も、ここまでくると左に流れすぎ、
信頼を失う。ピケティ氏は、
富の集中を抑えることをなぜ優先させなければならないか
(例えば成長を促すのではなく)について、
説明するというよりも、強い主張を展開しているのだ。

彼の主張する再分配を行った場合生じるトレードオフや
コストについては、ほとんど目を向けていない。

大半の経済学者も、一般の常識人も、
フランスの多くの実業家も、
所得税と資産課税を上げれば起業家はやる気を失い、
人々はリスクを取らなくなると指摘するはずだ。
だが、ピケティ氏はこの点を全く気にかけていない。

また、ピケティ氏の提案する取るべき施策リストは
富裕層への課税に偏っている。「ベビーボンド※」や
個人貯蓄口座への追加給付金など、
資本所有層を拡大する方法には全く触れていない。
※=2005年に英国に導入された子供のための貯蓄制度

資産課税の中には、21世紀の政策として
合理的に機能するものもあるだろうが(特に相続税)、
それは社会全体の繁栄をもたらす唯一の解決策ではないし、
主要な解決策ですらない。

ピケティ氏は富裕層に重税を課すことばかりに目を向けている。
その姿勢は、学問的ではなく、
社会主義的なイデオロギーのにおいがする。
だからこそ本書はベストセラーになったのだろう。
しかし、政策の設計図としてはお粗末と言わざるを得ない。

(2014年5月2日付 英エコノミスト誌)
(c)2014 The Economist Newspaper Limited
May 2, 2014 All rights reserved.

英エコノミスト誌の記事は、
日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK2200A_S4A520C1000000/より