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ゆとり世代をOJTで伸ばすには

2014年06月15日 13時38分32秒 | キャリア支援
ゆとり世代をOJTで伸ばすには
しごとの未来地図

PRESIDENT 2014年6月16日号
著者:東京大学大学総合教育研究センター准教授 中原 淳 
構成=井上佐保子 写真=PIXTA

新緑が眩しい季節となりました。
5月は多くの職場で、
新入社員研修を終えた新人が、
現場に配属され、OJTが始まる時期でもあります。
新人教育担当、OJTトレーナーを任され、
若さが眩しい新人を前に、
「いったいどうやって育てていけばいいんだ」と
戸惑っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そこで今回は、新入社員に対する
OJT指導の際に参考になりそうな、
いくつかのポイントをお伝えしたいと思います。

まず、一番大切なポイントは、
「目の前の新人をよく見る」こと。
イマドキの新入社員の傾向として、
「ゆとり世代で、言われたことしかしない」
「コミュニケーション力が乏しい」「飲み会に参加しない」
「ちょっと注意するとすぐに心が折れてしまう」……など、
いろいろなことが言われます。

確かに若い世代に共通する傾向もありますが、
まずは一旦、ステレオタイプな思い込みは全部忘れ、
目の前の新人と向き合うことから始めてください。
相手がどんな人なのか、今どんな状態なのかを観察し、
知ることは、子どもから大人まで、育成の基本です。

特に最近の組織研究では、人を育てる際、
「教える側と教えられる側、双方の努力が必要だ」ということが
言われています。これまでは、
「新人に対してどのように教えるか」
「どうやって組織に適応させるか」など、
“教える側”ばかりにスポットが当てられてきました。
しかし、最近は「新人はいかにして自分から
職場のメンバーと協力して仕事ができるようになるのか」など、
“教えられる側”のアクションについても研究が進み、
その重要性が認知されるようになってきたのです。

2人の新人に同じ教え方をしても、
同じように成長するわけではありません。
育成には“教える側”だけでなく、
“教えられる側”の努力が不可欠。
その努力を引き出すためにもまず
「目の前の新人をよく見る」ということが大切です。

学校では、誰にでも均等に教育を提供します。
しかし、社会では見どころがある人にだけ支援が提供されるのです。
誤解をしている新人がいたら、
まずはしっかりとこの点を理解させましょう。

新人に必須の「かわいがられ力」

図を拡大 :伸びる新人の4条件

では、教え甲斐のある「伸びる新人」とはどのような人なのでしょうか。
最近の研究により、伸びる新人には4つの条件があることがわかっています。
1、忠実実行(言われたことをきちんとこなせるか)
2、学習意欲(学ぶ姿勢を見せられるか)
3、察する能力(状況を見極めてふさわしい行動を取れるか)
4、楽観的(前向きにものごとを考えられるか)

なぜこの4条件なのでしょうか。
先ほども述べたように、それは学校と違い、
見どころのある人にだけ教えるというのが社会のルールだからです。
教えてもらうためには、
援助行動(Help-Seeking activity)を引き出す
「かわいがられ力」が必要です。
1~4はそのために欠かせない条件なのです。

特に、3の「察する能力」が、教える側にとって実は一番、
クリティカルな条件かもしれません。
OJTトレーナーは教えることが専門の先生ではなく、
自分の仕事もこなさなくてはなりません。
新人はトレーナーの仕事の邪魔をしないように配慮しつつ、
教えを乞う必要があります。
そこでOJTトレーナーが
どのような状況で仕事をしているかを
「察する能力」が求められるというわけです。

「どう役立つか」を言葉にする

写真=PIXTA
とはいえ、素直で学習意欲が高くて、
察する力もあり、前向きな新人ばかりだったら苦労しません。
OJT中に新人から「僕、今学習モードなので、実務はまだ無理です」
「私、褒められて伸びるタイプなんです」などと言われて
返答に窮したという、笑うに笑えない話も耳にします。

こんな新人の場合、どうすればいいのでしょうか。
もちろん、一人ひとり事情は異なるので、
やはり目の前の新人をよく見て突破口を探るしかありません。

ただ、一つ言えるのは、新人たちは
それぞれ大きな不安を抱えているということです。
それは、成長、キャリアに対する不安かもしれないし、
仕事に対する不安かもしれない。
社内の人間関係に対する不安かもしれないし、
それらが渾然一体となったものかもしれません。
こうした不安があるために、
「素直でなく、学習意欲がなく、
察する力もなく、前向きになれない」可能性が高いのです。

まず、成長、キャリアに対する不安についてですが、
今の若い世代は「会社が自分のキャリアを丸抱えしてくれるとは思っていない」
というところに大きな特徴があります。

会社は潰れるかもしれないし、
事業内容が変わるかもしれない。結局、
自分のキャリアは自分で築いていかなくてはならない、
という危機感がベースにあります。
そのため、将来の見通しが立たない仕事に対する不安を
上の世代よりも強く持っています。

こうした不安を取り除くためには、
「この仕事を通してどんなスキルが身につくか」
「この仕事は何の役に立つのか」など、
常に育成の見通しを言葉にしてあげる、
ということが大切です。

自分自身の経験を振り返ろう
次に仕事に対する不安ですが、そもそも新入社員は
「わかっていないことがわからない」存在です。
一方、トレーナー側は
「新人がわからないことがわからない」。
いくらトレーナーが新人に「わからないことは聞いてね」と言っても、
新人は「わからないことすらわからない」わけで、
どこかで解きほぐしてあげる必要があります。

そのためには、トレーナー側がまず、
自分自身が新人時代にわからなかったことを思い出す必要があります。
自分にとっては当たり前のこととなっている「上司への報連相」さえ、
新人時代はその意味がわからなかったはずです。
そういったことを思い出しつつ、
「この仕事にはこんな意味があるんだよ」と、
自分自身の経験を言葉にして語ることが、
新人の不安を取り除くことにつながるのです。

OJTトレーナー向けの研修では、
しばしばキャリアを振り返るワークが取り入れられています。
これはOJTの中で、自らの成長を振り返り、
経験を語る必要があるからです。
その意味では、新入社員のOJTトレーナーとなることは、
自分自身のキャリア、経験を振り返る機会にもなり、
自らの成長にもつながります。

最後に社内の人間関係に対する不安ですが、
これについては、OJTトレーナーが一人で解決しようとしないことが大切です。
トレーナーも自分の仕事をしなければなりません。
一人ですべてを教えようとすると、
時間が足りなくなってしまいます。

そこで重要なのが、新人の育つネットワーク環境を整えてあげることです。
たとえば、同じ部署はもちろん、他部署、
取引先など様々な人を紹介し、
いろんな接点をつくってあげる。
そのことで新人の人間関係に対する不安は軽減していくはずです。

新人時代にお世話になった先輩、
上司のことは一生忘れないものです。
OJTトレーナーはよくも悪くもその新人の仕事人生を左右する存在。
いい意味で記憶に残る存在になりたいものです。

http://president.jp/articles/-/12651

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