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ドラッカーが認める評価法は

2014年06月28日 14時52分54秒 | キャリア支援
成果主義に落とし穴 
ドラッカーが認める評価法は
ドラッカーに学ぶココロの処方箋(9)

2014/6/22 7:00
日本経済新聞 電子版

日本での成果主義は失敗したと言われて久しい。
成果主義とメンタルヘルスの関係を研究した天笠崇医師は、
成果主義の導入が従業員のメンタルヘルスに
悪影響を及ぼしたことを指摘している。
その原因は、勤務の長時間化、評価への不満、
短期的成果への要求増大、協力関係の希薄化、
ハラスメントの増長などが挙げられる。
その後、制度を見直している会社も多いが、
それでもなお社員のモチベーションや
メンタルヘルスの向上につながらないケースが多いのはなぜだろうか。
今回もドラッカーの名言を参照しながら、
事例を基に考えてみよう。

■解決につながらなかった制度変更
老舗SIベンダーにコンサルティング会社から
転職してきた経営企画室のA氏は、
社長から現行の人事評価制度の改定を命じられた。
5年前からメンタルヘルス問題が急増していることが、
同時期に導入した成果主義と関係があるのではないかという議論がきっかけだ。
当時、他社に倣って成果を中心とした
目標管理制度を導入したが、
実際は様々な不満が出ていた。

「目標の評価項目や昇格基準が曖昧だ」
「営業の担当顧客が新規と既存では
受注やメンテにかかわる負荷が大きく違うのに
結果だけで評価されるのは不公平だ」
「管理部門のルーティンワークが評価されないのはおかしい」。

早速、成果だけでなくプロセスも含めた細かな評価項目を設定し、
新たな昇格規定も設けた。成果を公平に測定するため
「価値の高い仕事をしているか」「自分のレベルを上げたか」
「困難な仕事にチャレンジしたか」などの項目を追加。
目標設定や上司とのやり取りをスムーズに行うオンラインシステムも作った。

それでも社員の不満とメンタルヘルス問題は減らなかった。
A氏が焦っていた頃に、
親しくなった事業部長から伝えられたことがある。

「プロセス重視で評価すると、社内ネットワークを持つ
ベテラン社員の評価が上がる。
相対的に評価が下がる成果の高い若手は
『結局年功序列か』と不満を持ち、雰囲気がギスギスしてきた」
「一方で、面倒見が良く、慕われていた年長の社員が、
新しい昇格資格規定をクリアできず、
挫折感が募ってメンタルヘルス不調になった例もある」

A氏は、改善を目的で制度設計したつもりが、
全く解決につながっていないことに落胆の色を隠せない。

定量化するほど他の要素を見落とす 
目標管理はドラッカーが提唱したとされているが、誤解もある。
ドラッカーが提唱したのは
「Management by
Objectives and
Self-Control」、
つまり「自分自身による」目標管理。
現在多くの組織で用いられているのは
「上司による部下の」目標管理であり、
識者のなかにはドラッカーの意図が
正しく反映されていないとする意見も多いようだ。

目標管理制度などのマネジメント手法においては、
評価のための定量化が必要であることに間違いはない。
しかし管理するために定量化すればするほど
見えないものを見落とす危険性も増大する(イラスト:ねなし)

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目標管理制度などのマネジメント手法においては、評価のための定量化が必要であることに間違いはない。しかし管理するために定量化すればするほど見えないものを見落とす危険性も増大する(イラスト:ねなし)


他者による目標管理においては、その成果を定量化しなければならない。
ドラッカーは、こんな言葉を残している。
「社会的事象の中で真に重要なことは定量化になじまない」
(『ドラッカー 365の金言』)。

ドラッカーは管理するために定量化を行うほど
見えないものを見落とす危険性があると警告している。
「測定と定量化に成功するほど、それら定量化したものに注目してしまう。
したがって、よく管理されていると見えれば見えるほど、
それだけ管理していない危険がある」
(『マネジメント エッセンシャル版』)。

評価項目や基準が変われば、従来の評価から
上がったり下がったりする人が出てくる。
一方で、周囲から「この人がいてくれて助かっている」と
認められていても、「その能力や成果を測定できない」という理由で
いつまでも評価されないケースもある。


■数値以外の感覚を共有する場を作る

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朝の通勤風景(東京・丸の内)

 
ドラッカーは、評価することの難しさを次のように表現している。
「測定という行為は、客観的でも、中立的でもなく、
主観的な行為であり、何がしかの偏りを持たざるをえない。
(中略)測定の対象は、新たな意味と新たな価値を賦与される」
(『マネジメント エッセンシャル版』)。
つまり、評価する側の主観を排することは難しく、
評価項目を選定した時点でその意味や重要度が変化してしまうということだ。

組織が成果を上げるうえで必要な事象を、
すべて定量化可能な評価項目に織り込むことは不可能なだけではなく、
評価者の主観による偏りも生む。制度としての目標管理は
そうした矛盾をはらむことを前提として、
上司と部下は正しく評価し、
評価される努力を重ねていかなくてはならないだろう。

では、どんな努力が出来るだろう。
目標設定や評価とそれを伝える手段としての定量化を行うと、
「定量化できないもの」の重要性を知りながらも、
ついそれを忘れがちである。
目が向きやすい部分だけで判断していると、
人間としての交流が失われ、
メンタルヘルスに悪影響を及ぼすこともある。
「定量化できないもの」があることをいかに上司は意識し、
部下の評価に臨めばよいだろうか。

「出来る」「出来ない」をゼロイチで考えない
私たちは仕事に必要なある一つのスキルが低いと思うと、
「その仕事はできない」という判断に引きずられやすい。

例えば、話し上手で社交的でなければ営業マンに向いていないと考えがちだが、
実際は無口でも実直な営業マンが成果を上げているケースはたくさんある。
高度な論理思考と斬新な発想がなくても、
皆が嫌がる退屈な実験を粘り強く繰り返すことで、
誰も成し得なかった結果を導く研究者もいる。

0と1の間には小数点以下無限の数字が存在している。
0と1の間や、0と1以外の数字を見ようとすることこそ、
見えていなかったその人の可能性に目を向けることである。

全体としての貢献という視点で見る
現代は、「全体は部分の総和であり、
定量化できて意味を持つ」と考えたモダン時代から、
「全体を全体として把握しなければならなくなった。
命あるものとして見なければならない」とする
ポストモダン時代になったとドラッカーは指摘している
(『テクノロジストの条件』)。

これは個人の評価についても同じである。
各項目の評定値の足し算ではなく、
その個人全体で見て「組織に対してどんな貢献をしているか」を考えてみる。
すると、個人が上げる数値的な成果だけではない全体像が見えやすい。
そこには、営業としての「売り上げ」や
プロジェクトの「進捗度合い」だけではない何かが見えてくるはずだ。

あえて定量化できない部分を挙げる
目標管理において評価項目の数値に基いて評定した後は、
定量化できないその人の特徴を挙げて本人に伝えてみよう。
「優しい」「明るい」「真面目」「臨機応変」「ケチ」
「せっかち」「小心者」…。ポジティブなものはそのままに、
ネガティブなものはポジティブに言い換えて伝えよう。

「ケチ→金銭感覚がしっかりしている」「せっかち→行動が早い」
「小心者→慎重に物事を進める」など表現の仕方によって長所に変わる。

自分の中にある見えにくい部分を「上司が見ていてくれた」と感じることは
部下のやる気を大きく刺激する。また、
見えにくいものを見ようとするならば「常々よく観察」しなければならないはずだ。
それこそ上司としてあるべき姿だし、
メンタルヘルス不調の早期発見にもつながる。

「管理手段は、測定可能な事象のみならず、
測定不能な事象に対しても適用しなければならない」
(『マネジメント エッセンシャル版』)という
ドラッカーの言葉をもう一度かみしめたい。

上司と部下の“評価”の違いを話し合う
目標管理面談を、上司が部下に評価を伝えるだけではなく、
部下の自己評価と突き合わせて、「その差はなぜか?」を話し合う機会にするとよい。
最終的に上司の評価が覆ることが目的ではなく、
上司、部下それぞれから見た違いをお互いが理解すれば、
今後の目標設定や評価の調整に役立つ。
なにより、部下が「なぜこの評価なのか?」との思いを残さずに済む。

その話し合いの中では、お互いの価値観や仕事に対する
取り組み方など評価項目に含まれないことも出てくるだろう。
それが大切だ。数値による評価のフィードバックだけであれば、
メールで十分である。評価面談を
上司部下の信頼関係を構築する場とするために、
一つの目標に対する見え方の違いを共有する話し合いをしよう。

ビッグデータの活用によりこれまで見えなかったものを定量化する試みが始まった。
これまで見えなかったものが見えるようになるからこそ、
改めて見えないものに注目しなければならない。
ドラッカーは次のようにその配慮の必要性を強調している。

「定量化することはもとより、
定義することさえ困難である。とはいえ、
把握不能ということはない。
いたって明白である。
データ化できないというだけにすぎない。
データ化できないものを考えなければならない。
データ化できないものについての配慮を忘れたデータ化は、
組織を間違った方向へ導く」
(『マネジメント-課題・責任・実践』)

参考文献:
天笠 崇 『成果主義とメンタルヘルス』(2007)、
以下ドラッカー『365の金言』(2005)、
『マネジメント エッセンシャル版』(2001)、
『テクノロジストの条件』(2005)、
『マネジメント――課題・責任・実践』(2008)


尾崎健一(おざき・けんいち)

ライフワーク・ストレスアカデミー代表取締役、
臨床心理士。コンピューターメーカーに勤務後、
大学院に進学し、臨床心理士資格を取得。
その後、メーカーおよびEAP(従業員支援プログラム)にて人事部、
メンタルヘルス問題対応の仕事を担当して独立。
現在、企業のメンタルヘルス対応の仕組みづくり、
人事労務問題対応のコンサルティングなどを行う。
著書に『職場でうつの人と上手に接するヒント』(TAC出版)、
『黒い社労士と白い心理士が教える問題社員50の対処術』
(共著、小学館集英社プロダクション)など。

[日経情報ストラテジー2013年9月号の記事を基に再構成]

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1300Z_T10C14A6000000/

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