夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『刑務所の中』

2003年09月20日 | 映画(か行)
『刑務所の中』
監督:崔洋一
出演:山崎努,香川照之,田口トモロヲ,松重豊,村松利史,大杉漣他

原作は銃刀法違反で3年の実刑を喰らった花輪和一の漫画。
タイトルのまんま、刑務所で服役生活を送る主人公のモノローグをまじえて、
彼らの毎日をおもしろおかしく描きます。

花輪は銃フリーク。
同類と河原に集まり、自分で入手した銃を見せ合い、
ベトナム戦争ごっこに明け暮れては幸せを感じていた。
しかし、銃刀法違反で捕まり、服役生活が始まる。

刑務所での生活はとにかく規律が大事。
走るのも歩くのもみんな同じ格好で。
作業中に便所に行きたくなったときは
「用便願います!」と許可を求めなければならない。
便所の表には大小が一目瞭然であるように木札までぶらさげて。

布団やパジャマを美しく畳むことに快感を覚え、
誰のヒゲそりの電池がいちばん長持ちするかで会話がはずみ、
月に何度かの映画上映会を心待ちにする。

今年いちばん笑った映画かもしれません。
それにしても、『戦場のピアニスト』(2002)のときにも思ったけれど、
食べることは人生の最大の愉しみであるのはまちがいありません。
食事のときの彼ら、そして食べ物の話をするときの彼らの楽しそうなこと。
北海道の刑務所が舞台なだけに、
お土産品として有名な「白い恋人」のCMを見て
彼らが恨めしそうな顔をするところも出てきます。

山崎努演じる花輪が、同房のボンボン囚人に対して
「いいよなぁ、いいとこのお坊っちゃまで、受刑者で、B型で」
と話しかけるところがあります。
ボンボンが「どうして?」と尋ねると、
「もう怖いものなしでしょ」と言う花輪。
B型の私は「なんでやねん」とつっこんでしまいました。

とにかく山崎努、サイコー。
窪塚洋介や椎名桔平がチョイ役で出てるのも見逃せません。
この監督の作品はとにかく私の笑いのツボにハマるよう。

パンにあんことマーガリンを塗るシーンを見て、
関西名物「御座候」(いわば回転焼です)を思いだしました。
あれにバターを塗って食べるとおいしいの、知ってました?

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『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』

2003年09月18日 | 映画(か行)
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(原題:Catch Me If You Can)
監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:レオナルド・ディカプリオ,トム・ハンクス,
   クリストファー・ウォーケン,ナタリー・バイ他

フランク・W・アバグネイルは16歳の高校生。
両親をこよなく愛していたが、
父の事業が行き詰まったのをきっかけに
夫婦仲が気まづくなり、離婚してしまう。

あまりのショックに家を飛びだしたフランク。
手持ちのお金は父から受け取った小切手だけ。
ひとりで生きてゆくためにフランクが思いついたのは小切手詐欺だった。

まずは学校新聞の記者になりすまし、
航空会社の内情を取材という名目で探る。
パイロットの制服を入手した彼は、見事パイロットに変身。
飛行機にもタダ乗りし、手持ちの小切手を航空会社のものに偽造。
全米各地で現金化しまくり、荒稼ぎを続ける。

この詐欺事件の調査に乗りだしたのがFBIのカール・ハンラティ捜査官。
フランクを追って、ふたりの長い長い旅が始まる。

パイロット、小児科医、弁護士と、
普通は「んなもん、なれるわけないやろ!」と思うような職業に
本当に就いてしまう、実在の詐欺師フランク。
20歳そこそこで逮捕されるまでに400万ドルを稼いだそうな。

彼は金持ちになりたかったわけではなく、
両親とまた一緒に暮らしたいだけだった。
お金があれば、両親は別れることもなく、
父が借金の肩に没収されたジャガーを取り返し、
母をいいレストランに連れていくこともできるはずだった。
10歳近くもサバを読んで、誰しもがそれにだまされるけれど、
高校生に多く知り合いがいるはずもなく、
クリスマスになるとハンラティに電話をかける姿、
そして、母の再婚家庭を覗きこむ姿に胸が傷む。

『タイタニック』(1997)以降、
なんとなく仕事を遠ざけている印象のあったディカプリオ。
やっぱりうまい。
トム・ハンクスももちろんのこと、
息子を何がなんでもかばおうとする父親を演じる
クリストファー・ウォーケンが顔の怖さに似合わず温かい。

これは“Based on a True Story”じゃなく、
“Inspired by a True Story”でした。

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『メルシィ!人生』

2003年09月14日 | 映画(ま行)
『メルシィ!人生』(原題:Le Placard)
監督:フランシル・ヴェベール
出演:ダニエル・オートゥイユ,ジェラール・ドパルデュー,
   ディエリー・レルミット,ミシェール・ラロック他

ピニョンはコンドーム製造販売会社の経理部社員。
勤続20年になる。
別れた美人の妻と高校生の息子には見下されている。

ある日、自分がクビになりそうだという話を偶然耳にしてしまう。
落ち込むピニョンはマンションから身投げを図るが、
隣に越してきたばかりの老人に見とがめられる。

老人にこれまでの人生を打ち明けるピニョン。
すると、老人はクビを免れる方法があるという。
その方法とは、自分がゲイだとカミングアウトすることだった。
ゲイを解雇すると性差別だと訴えられるから、
決して君をクビにはできないはずだと。

元企業カウンセラーだったという老人は、
ピニョンが尻丸出しで男性と踊る姿を合成写真で作成し、
彼の勤務先に匿名で郵送する。

ゲイのふりなんかできないというピニョンに、老人は言う。
「ふりなんかしなくていい。気弱で平凡な君のままで。
君が変わるんじゃない。まわりが変わるんだ」。
実際、彼は何も変わっていないのに、
同僚は彼にちがう眼差しを向けるようになる。
前から仕草や歩き方がそれっぽいと思っていたなどと。

計画どおり、クビはつながる。
ゲイのパレードに山車を出すことになった会社は、
ピニョンを乗せることに決定。
しぶしぶ承諾した彼だが、テレビ中継を見ていた息子が電話してくる。
「お父さんのことをいままで退屈だと思ってたけど、かっこいいよ」。

影の薄かったピニョンが、ゲイだと嘘をつくことによってどんどん存在感を増し、
また、自分自身も変わってゆくことに成功します。
ピニョンの策略に気づいた辣腕女性経理部長や、
マッチョな広報部長がそろっておもしろい。
広報部長は名優ジェラール・ドパルデューが演じていますが、
ゲイ嫌いのはずが、差別主義者がクビになることを恐れ、
ピニョンの機嫌をとっているうちに
本当にピニョンを好きになってしまうところがなんとも言えず愛らしいです。

最後のピニョンの台詞もキマってます。
嘘に気づいた社長が「困った人だ」と言うのに対して。
「僕はいままで“透明人間”でした。
“困った人”というのは、僕にとっては昇進です」。

同監督の『奇人たちの晩餐会』(1998)もお薦め。
バカをあざ笑う人がいちばんバカだという、
こちらも良質のコメディです。

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『ボウリング・フォー・コロンバイン』

2003年09月11日 | 映画(は行)
『ボウリング・フォー・コロンバイン』(原題:Bowling for Columbine)
監督:マイケル・ムーア
出演:マイケル・ムーア,マリリン・マンソン,チャールトン・ヘストン他

昨年度のカンヌ映画祭をおおいに湧かせ、
アカデミー賞ではドキュメンタリー作品賞を受賞。
監督は受賞式のスピーチで、「ブッシュよ、恥を知れ!」と吠え、
拍手喝采とブーイングの嵐を同時に浴びました。

1999年にコロラド州のコロンバインで起きた高校生による銃乱射事件を基に、
アメリカの銃社会を徹底的に批判しています。

銃がたやすく買える国はアメリカだけではないのに
なぜアメリカだけで射殺事件が多発するのか。
全米ライフル協会の会長を務めたチャールトン・ヘストンは、
アメリカには「暴力の歴史」があるからだと得意げに答える。
しかし、あのヒトラーのドイツでも、南京大虐殺の日本でも、
射殺事件は数えるほどじゃないかとムーアは詰め寄る。
人種が多様だからとヘストンは言うけれど、
全人口の13%を他の人種が占めるカナダでは
人びとは出かけるときにドアに鍵さえかけないらしい。

なぜ、アメリカ国民だけが弾丸を込めた銃を持ち、
いつでも撃てるようにしているのか。

マリリン・マンソンの言葉がおもしろい。
コロンバインの犯人の高校生ふたりがマンソンの歌を好んで聴いていたという理由から、
彼は非難の標的にされる。
事件が起きるわずか1時間前に、アメリカがコソボで大規模の爆撃をおこなった事実はどこかに追いやられて。
マンソンは、「アメリカという国では、国民に恐怖を抱かせて物を買わせるのだ」と話している。
通りを歩けば誰かに襲われる、家には強盗が押し入る、
ぐずぐずしていると戦争をしかけられるかもしれない。
だから銃を持とう、殺(や)られる前に殺ろう。

マイケル・ムーアは突撃取材で有名なジャーナリスト。
まったくアポなしで先方へ乗り込むことから、
その名はホワイトハウスにもとどろきわたり、恐れられているそうです。

アメリカの銃社会の歴史を漫画で表してみたり、
カナダ人は本当にドアに鍵をかけないのか抜き打ち調査してみたり、
コロンバイン事件の被害者で一命をとりとめた青年とともに
弾丸の販売中止を求めてKマートへ出向いてみたり。
前述の『アザー・ファイナル』とはあまりにちがうドキュメンタリー。

実は『ベン・ハー』(1959)は未見なのですが、
チャールトン・ヘストンがあまりにアホに見えて、
もしかするとこの先、『ベン・ハー』はよう観んかもしれん。

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『アザー・ファイナル』

2003年09月10日 | 映画(あ行)
『アザー・ファイナル』(原題:The Other Final: Bhutan v.s. Montserrat)
監督:ヨハン・クレイマー
出演:オットリー・ラボーデ,パサン・ツェリン,ポップス・モリス,
   チャールズ・トンプソン,ワンゲイ・ドルジ他

2002年6月、ワールドカップの決勝戦、
ブラジル対ドイツの試合が日本でおこなわれた日、
FIFAランキング最下位の2チーム、
202位のブータンと203位のモントセラトが、
ブータンで最下位決定戦をおこなっていた。

オランダのCM監督である男性が、
自国が予選敗退したのをきっかけに
「負ける」ということに興味を感じて企画したこの試合。

お互いの国がどこにあるのかもわからない状況で企画は進んでゆく。
数年前に火山の噴火で競技場が火山灰を浴びたモントセラト。
彼らの国では試合をすることはできない。
そこで、モントセラトの選手がブータンに出向くことになったが、
経由地のカルカッタで伝染病にかかったり、高山病の影響が出たり、
思うようにはうまくいかない。
両チームのコーチはかたや突然死、かたや突然辞職。
審判もそろわない状況。

それでもなんとか開催にこぎつける。
どちらも最下位にはなるまいという思いは強いけれど、
勝敗を越えて、そこには絆が生まれる。

めっちゃええ話ではあるけれど、
ドキュメンタリーと言いつつ、演出しすぎの感。
サッカーボールを2つ、いたる場面で飛ばしてみたり
(やるなら最初と最後だけでじゅうぶん)、
クライマックスで流れる曲も興醒め。
77分という上映時間の短さにもかかわらず、
「ここで終われ!」と思った箇所がなんぼほどあったことか。
映画を1本分の時間はCM監督には長すぎたか。
でも、やっぱりこれはいい話でしょ。

ナイキとアディダスにスポンサーの依頼をしたのに
あっさり断られたと作品内で暴露されています。
彼らにユニフォーム一式を提供することぐらい、
ベッカムの生涯契約に比べたら屁みたいな金額だったでしょうに。
この最下位決定戦はのちに各国で話題になりました。
スポンサーに名乗りをあげていれば、
すごい企業イメージアップの機会だったのにと思います。

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