四国遍路テクテク日記

「四国を歩いて遍路する。」にこだわって平成14年のGWから2年間、5回に分けて歩いた記録を中心に遍路に関するあれこれ。

平成15年12月30日(伊豫から讃岐・第30日目)

2005-08-17 09:20:26 | 第4回(伊予から讃岐)
12月30日(火曜日)
 (第4日目・通算第30日目・歩行距離 33.0km・歩行歩数44,947歩)

 5:50分、起床

 6:30分に1階に下りると、朝食の準備が出来ている。
ご主人が給仕してくれる。
同宿の人はまだ起きてこない。

 6:45分、栄家旅館のご主人に見送られて出発する。
ご主人から、横峰さんには、栄家さんの前の道を進み商店街を過ぎたところ、
信号で3つ目を左に曲がると横峰寺へのお遍路道だと教えてくれる。
お礼を言って、まだ薄暗い丹原町の商店街を歩く。

 商店街を歩いていると店のシャッターを開けている人達から挨拶をされたり、
道を教えていただく。
その度にお礼を言って、先へ進む。

 栄家さんのご主人に言われた3つ目の信号を曲がり、ブルースカイの空に
横峰寺のある黒々と聳える山に向かって真っ直ぐに続く道を歩いていると、
左手の空にオレンジ色に光る短い筋が見える。
細い筆でスッとなぞったようなオレンジ色がブルースカイの空に映える。
何かと思ってよく見ると、飛行機雲が朝日を受けて光っているようだ。
そのオレンジ色に光が少しずつ動いていく。

 中山川に架かっている石鎚橋を渡る頃には、辺りもすっかり明るくなってきた。

 国道11号の交差点にある歩道橋を渡り、高速道路の下をくぐったところで
休憩場所を探していた。

7:45分、ちょうど石上神社があったのでここで一休みする。
石上神社は小さな神社だが、なかなか趣のある神社だ。
階段を登り本殿にお参りをする。
 ここからは、両側に山が迫ってくる狭い農道をうねうねと、
登山口を目指して緩やかに登っていく。

 行き交う車もない誰もいない農道を歩いていくと、時折吹き下ろしの強い風が
吹いてくる。
菅笠を吹き飛ばされないように手で押さえながら歩く。

 湯浪にある八幡神社の前を通る。
この神社には、以前バイクで来たときに社殿に1泊させて貰ったことがある。
あの時は、ゴールデンウィークだったが、この辺りは標高が高いので寒くて
ふるえながら寝た記憶がよみがえってくる。
とても懐かしい。
 そういえば、八幡神社に泊まった夜に、広島のバスジャック事件が
起きていたのだ。
満天の星空の中で、雑音に混じり緊張したアナウンサーの声が耳に残っているが、
別世界での出来事のように聞いていたことを思い出す。
ここに泊まってから、もう3年が過ぎている。

 誰もいないし、車も来ないと思って車道の真ん中を歩いていると、
後ろから車が走ってくる音がする。
あわてて道の端によると、タクシーが走り抜けていく。
こんな場所までタクシーを走らせてくる人はお遍路に違いないと思い、
きっと、登山道に入ると追いつけると考えながら歩く。

 9:00分、登山口にある東屋に着く。
ここで一休みして息を整え、一気に横峰寺まで行くつもりだ。
 軽トラのおじさんが沢山のポリタンを降ろしてる。
どうやら水を汲みに来たようだ。
ここの水はおいしいようで、前に来ていたときも沢山のポリタンクを持った人が
水汲みに来ていた。

栄家旅館で同宿の人がやってくる。
額に浮かんだ汗を拭いながら、「やっと追いついた」という。

 9:20分、横峰寺への登山道に入る。
この道は、2回目なのでだいたいの様子が分かっている。
丁石仏の番号を見ながらドンドン登っていく。
ちょっと急な坂にはいると、上の方で人の声がする。
先ほどタクシーで来た人達のようだ。私と同年代のご夫婦だ。
挨拶を交わし、先に登っていく。

 丁石仏の番号が一桁になるともうすぐ横峰寺だ。
左手に、小さなお堂がある。
ほどなく、横峰寺の山門が見えてくる。


第60番札所 横峰寺

 9:55分、横峰寺に着く。
汗をかいた体に山の冷気が気持ちいい。
数人しかいない境内で、本堂と大師堂をお参りして、納経をしてもらう。

 香園寺への道を聞くと、大師堂の前を駐車場の方へ向かって歩いていくと
標識があるので、それに従って下ればよいと教えてくれる。

 納経所横のベンチで一休みしていると、小学生の男の子と女の子を連れた
ご夫婦がお参りに来ている。
子供達は寒い寒いと言って背中を丸めている。

 10:20分、納経所は山陰で日差しが当たらないので、香園寺に向かって
山を降りることにする。
栄家で同宿の人が追いついてくるかと思っていたが、まだ来ない。

 車道から登山道に入り、ときどき木の間から差す日差しを受けながら
快適に下る。

 途中で、下から登って来るおじさんがいる。
このおじさんと話をすると、「以前、このちょっと上にあるベンチで
札幌から来ているご夫婦と仲良くなり、今でも親交がある。」と話してくれる。
「この札幌の人は、西区に住むHさんという人で、お遍路を終えた後、
立派な本を送ってくれた。
さらに、私たちは、この上にあるベンチに仲間内ではHベンチと名付け、
時々ここまで登ってきては景色を眺めている。」などと話してくれる。
同じ札幌の人が、お遍路でちょっと触れ合っただけで、このようにいつまでも
温かく記憶に残してくれるのは、お遍路であるが故のことと思う。
このように人達に支えられながら、お遍路が出来るのだと思う。

 このおじさんの話だと、横峰寺に手前にあったお堂に自分が子供の頃は
4~5軒の家があり、暮らしていた人達がいたという。
あんな山の上でどんな人達が暮らしていたか聞くと、山伏の流れをくむ人達が
暮らしていたようだと教えてくれる。
買い物は、石鎚山の方に下った河口まで行っていたようだ。
河口から横峰寺までは健脚の人でも1時間半はかかるだろう。
あんな山奥で暮らしていた人がほんの50年ほど前までいたなんて
信じられなかった。

 おじさんにお礼を言って、別れる。

 長い下りの山道をやっと降りて、香園寺奥の院に着く。
誰もいないお堂の前でお経を唱える。
お堂の左手にある窓が開いており、ここで納経をしていただけるようだが、
声を掛けたが誰も出てこない。
仕方がないので、香園寺を目指して歩く。

 大谷池というものすごく大きな溜池の横を歩くが、水は真ん中を一筋の流れ
となっている。
池の大きさに比較すると、何とか細い流れか。
浚渫をしているのか、池の中にダンプカーやバックホーがとまっている。
その建設機械が小さく見えるほどの大きな池だ。

 大谷池を過ぎると少しずつ街に入ってくる。
高鴨神社の境内にはいると本殿の裏側に出る。
ヘンロ標識が本殿の裏側を通るように矢印が付けられている。
矢印に従って歩くと、境内の中でどちらへ進めばいいのか分からなくなる。
道は、この神社の下に続いているようだ。
神社に上がる階段横の道を歩きながら、ふと、気が付いた。
このヘンロ標識に従って歩けば、本殿の前を避けて横道を通るようになっている。
お遍路さんに、社殿前をウロウロされたくないと言うことなのか?

 住宅地の中を歩いていると、12:55分、香園寺に着く。


第61番札所 香園寺

 この寺の建物は、どうしても好きになれない。
ドーンとした鉄筋コンクリート製の大きな建物だ。
2階の入口からお堂の中に入り、薄暗いお堂の中でお参りをする。

 お参りを済ませて納経所へ行くと、納経帳を開いたおじさんが
「横峰寺を済ませたんの?」と聞いてくる。
「ええ、今朝、登ってきました。」と答えると、「ふん!、ふん!」と
頷いている。

 もうすぐ1時、お腹がすいている。
香園寺前にあるMIKIという喫茶店に入りうどん+ミニ牛丼セット6百円を頼む。

 13:50分、お腹も一杯のなったところで今日の宿を決めなければいけない。
喫茶店を出たところで、前神寺そばにある湯の谷温泉に電話する。
今晩は湯の谷温泉に泊まれることになったので、あと三か寺を歩かなければ
いけないが、距離的には6キロほどしかない。
のんびり歩いても陽のある間には着いてしまう。

 国道11号と並行して住宅地の中を歩く。
宝寿寺はこの国道11号に面しているので、そろそろ宝寿寺かと思い国道に
出て歩く。


第62番札所 宝寿寺

 14:05分、宝寿寺に着く。

 小さなお寺で、しかもすぐ横が国道なので騒音がひどい。
参拝客もいないので、さっさとお参りを済ませ納経所へ行く。

 ここから、吉祥寺までは1.5キロしかない。引きも切らず車の走ってくる
国道の脇を歩く。


第63番札所 吉祥寺

 吉祥寺の本堂前に行くと大きな声でお経を唱えているお遍路さんがいる。
60歳は過ぎている男性だが、アルミのマットを持っているので野宿を
しているようだ。
独特の節回しで般若心経を唱えている。
この人がお参りを済ませるのを待ってから、私もお経を唱える。

 納経を終え、前神寺を目指して国道へ出たら、先ほどの歩き遍路さんが
国道を横切ろうとしている。
私はそのまま国道を歩いていく。前神寺までは3キロほどだ。

 国道を歩いていくと、前方右手の山の中腹に大きな瓦屋根の建物が見える。
お寺か神社のようだ。
この建物が前神寺にしては山の中に入りすぎると思って歩いていると、
右手に細い道が国道と並行している。
右に曲がり、この道を歩いていくと大きな建物には日の丸がはためいており、
よく見ると石鎚神社だ。
 前神寺はこの石鎚神社のすぐ先にあった。


第64番札所 前神寺

 15:20分、前神寺に着く。
前神寺は山門から本堂まで、ちよっと距離がある。
山門にはいると左手に「念ずれば花開く」の石碑が迎えてくれる。
そのまま参道を歩いていき左に曲がると正面に大師堂がある。
大師堂の前を右に曲がり、階段を上がってさらに進むと、正面に本堂がある。
本堂でお参りをしたあと、右手手前にある階段を上がり、
お堂から本堂の写真を撮る。

 大師堂へ引き返し、お参りを済ませて、納経所へ行く。
納経所にいる若いお坊さんは、挨拶をするでもなく、目も合わせずに
一言も発することなく納経を終えると、ぶっきらぼうに納経帳を返してくれる。

 あとは、宿に行くだけなので、納経所前のベンチで一休みする。
山陰で陽の当たらないベンチは寒いのだが、今日はいい天気だったので、
まだ、幾分気温が残っている。

 ちょっと寒くなってきたので宿へ行くことにする。
納経所の右手から駐車場を抜けて道路に出たところに小さな公園があり
東屋がある。
東屋を見ると、お遍路らしい男性が二人座って話している。
どうやらここで野宿するらしい。

 15:55分、湯の谷温泉に着く。
湯の谷温泉は冷泉を沸かしてはいるが、れっきとした温泉だ。
泊まる部屋は奥の方にある離れのような建物だ。
本館とは渡り廊下で繋がっているが、廊下の途中に洗濯機が置いてある。
建物は古いが、泊まる部屋は趣があった。

 部屋で着替えを済ませると洗濯物を持って、風呂へ向かう。
廊下の途中にある洗濯機に洗濯物と洗剤を放り込み、風呂へ行く。
 風呂場はたくさんの入浴客で混んでいた。
今回、初めての温泉なので、ちょっと熱めのお湯の中で手足を伸ばし
ゆっくり入る。
気持ちがいい! 体の隅々まで暖かさが沁みてくる。

 夕食が出来たとの電話を受けたので、食堂へ行く。
4人ほどの食事が用意されており、すでに私以外の人は席について食べている。
私の名前が書かれた席に着くと、私の前に座っている60歳過ぎのガッチリした
体型のラガーシャツの人が話しかけてくる。

 「歩いているんでしょ?」、「はい!」と答えると、「前神寺で見かけたので
そう思っていた。どこから来たの?」と質問が続く。
北海道から来ていること、今回は松山市から歩き出したことなどを話し終えると、
この人は、輪島から来ていること、今治まで歩いていたが、今回はその残りを
交通機関と歩きを併用して88番まで終えようと思ってきていることなどを
話してくれる。

食事が終わった後も部屋に来ないかと誘われ、お邪魔することにした。
 この人(三角寺で納札を貰ったのでMさんと分かる。)は、
東京で食品を扱う会社に勤めていたが、郷里の輪島半島にある町に残っている
両親が高齢で面倒を見る必要があること、また、奥さんがリュウマチで体が
不自由であることなどを話してくれる。

 ビールを勧められて、部屋にお邪魔していたが、お遍路中に酒を口にしたのは
今回が初めてだ。
 Mさんが住んでいる町の町長は友達だというが、
なんと、すでに6期24年も町長をやっているという。
多選批判も小さな町には関係がないようだ。
しかし、町財政は苦しく、合併問題もあり、なかなか大変のようだ。
この町長にいろいろなことを言い過ぎて喧嘩してしまったという。

 いつも思うことだが、確かに、しばらく住んでいなかった土地に行くと
その土地の問題点などが気になって仕方がないことがある。
今まで住んでいたところと比較するし、悪いところばかり目についてしまう。
この感情をストレートに現してしまうと、よそ者が何を言う、
何も知らないくせに!といった、感情むき出しの話になってしまいがちだ。

 でも、この時感じたことをそのままにすると、不思議なことに、
次の年には言う気も起きなくなってしまう。
だから、その時感じたことを素直に言うことは大切だが、
相手が素直に聞く気持ちがなければ、悪口を言われていると感じ、
敵意をむきだしにしてくるだろう。
自分が感じたことを素直に取ってもらうためには、この辺の言い方と、
どのような場面で言うかが大切なことだと思う。

 けっこういろいろな話をしていたが、時間も遅くなってきたので、
お礼を言って部屋に戻る。

 明日の行程は、池田町の民宿岡田さんが1日の夜泊めてくれるかに
懸かっている。
もし休みならば、伊予三島市まで行って、一気に雲辺寺を越えなければ
いけなくなる。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

  昨年のお正月もそうでしたが、年末から年始にかけて歩く場合には、
 宿の確保が重要な問題となります。
 都市部では、年中無休のビジネスホテルなどがありますが、田舎へ行くと
 そういうわけにはいきません。
  本来、冬はお遍路さんが歩く時期ではありませんし、年末からお正月は
 田舎ではそれぞれの行事があり、仕事を休む習慣の土地の方が多いと
 思います。
  ですから、年末から年始を歩く場合には、泊まる宿をどこにするか
 ある程度決めておいてから宿泊可能かの情報を得ておく方がいいと思います。