よしだハートクリニック ブログ

 院長が伝えたい身近な健康のはなし

「隠れ低血糖」とは

2019-09-17 08:22:54 | 健康・病気
 昼食後2~3時間に、動悸、不安、倦怠感、眠気、手足がしびれ・冷感などの症状がでて急に体の調子が悪くなることを経験したことはありませんか。通常は20分程度で自然に回復し、あるいは何か食べると症状が改善して大きな問題になることはありませんが、それは「隠れ低血糖」かもしれません。

 本来血糖は、食事の内容にかかわらず80~140mg/dlの狭い範囲に緩やかにコントロールされています。 しかし、このコントロールが乱れると血糖調節異常とよばれ、高血糖側に傾くと糖尿病(あるいは耐糖能異常)と診断されます。
 一方、低血糖(血糖70mg/dl以下)は、糖尿病の方で血糖降下薬が不適切に効いた場合やインスリン分泌が異常亢進したインスリノーマなどの特殊な病態しか知られていませんでした。最近、24時間持続血糖測定が可能となり、今まで糖尿病などの糖代謝異常がないと診断された人にも低血糖や急激な血糖低下がみられることがわかってきました。それが「隠れ低血糖」です。これは、従来の健康診断で測定する空腹時血糖やHbA1cは正常であるため、ほとんどが見逃されています。

 「隠れ低血糖」には、①糖をとったあと急激に血糖が上昇して、その後急激に血糖が低下する反応性低血糖症(肥満あるいは甘党の痩せた方に多い)、②腸の機能低下のため、血糖があがらない無反応性低血糖症(10~20代の若者に多い)、③血糖値変動が激しい乱高下型低血糖症(ヒステリックな女性に多い)の3タイプがあり、この混合型もみられます。
 血糖の急激な低下により、交感神経の緊張が高まり、血糖上昇ホルモン(コルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンなど)が副腎から分泌され、不安、イライラあるいはうつなどの精神症状、動悸、手足のしびれ、頭痛などの身体症状がでます。また低血糖によるエネルギー不足になると、集中力低下、眠気、倦怠感も出現します。
 これらの症状は、一過性であればパニック障害、適応障害、度重なるとうつ病、睡眠障害などと診断され、抗不安薬などの薬物治療を受けている場合もあります。

 さて、「隠れ低血糖」の共通点は、糖質依存になっていることです。したがって、治療は糖質依存からの脱却を目指します。血糖調節機能が正常な人は、いくら糖質をとっても急激な変動は見られませんが、日本人はインスリン分泌がスムーズでない人も多く、糖質をとると急激に血糖上昇をきたし、遅れて分泌されたインスリンにより急激に血糖が下がることがしばしばみられます。
 最近は、血糖コントロールには、エネルギー管理より糖質管理が重要で、たんぱく質・脂質はあまり関係ないことが認知されてきました。それに伴い、高血糖の人は糖質を制限し、野菜(食物繊維)を糖質より先に食べ糖質吸収を遅らせることが有効であることが知られています(野菜ファースト)。
 整合分子栄養医学の第一人者溝口先生は、「隠れ低血糖」の人は、さらにすすめて肉ファースト食を提唱しています。それは、野菜ファーストだと野菜で満腹になり、十分なたんぱく質が摂取できないことをあげています。私たちを構成している細胞、組織は主にたんぱく質からできており、十分なたんぱく質を摂取しないと体が維持できないのです。

 肉ファースト食は、①高たんぱく質、高脂質、低糖質食、②たんぱく質、脂肪を最初に食べる、③糖質は最後に少量。白飯でよい、④間食をとる(2~3時間おきに、小魚、ゆで卵、ナッツ、ココナッツなど、必要なくなれば止める)⑤小麦、牛乳を避ける(アレルギーの原因、腸が荒れる)、を基本とします。 
 効率的にすすめるにはポイントがあります。 一つは、糖質の代わりのエネルギー源になる脂質です。青魚油・えごま油・亜麻仁油、オリーブ油など健康によいといわれる不飽和脂肪酸だけでなく、肉、バターなどに含まれる飽和脂肪酸も十分とることが重要です。また中鎖脂肪酸(MTC油、ココナッツオイルなど)は、脳のエネルギー源となるケトン体の供給源になり、また細胞のミトコンドリアを増やしエネルギー代謝を高める作用があり積極的にとるべき脂質です。 次に、たんぱく質代謝を上げるために、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD、亜鉛、鉄、マグネシウムなどの栄養素も十分に摂取する必要があります。 さらに糖質を減らしても体調に問題がない場合は、穏やかな筋トレも始めましょう。筋力がアップすると糖新生(骨格筋に蓄えられたたんぱく質が分解してアラニンが生じ、これを材料にして肝臓からブドウ糖が作られる)がスムーズにおこり低血糖を防いでくれます。
 肉ファースト食は、「隠れ低血糖」の人だけでなくすべての人にすすめてもよい食事ですが、たんぱく質制限を指示されている腎機能低下のある方やすでに糖尿病で治療を受けておられる方は、主治医と相談してください。

 さて、「隠れ低血糖」のため繰り返し急激な血糖低下がおこると、副腎から分泌される血糖上昇ホルモンに対する反応が次第に低下して分泌されるホルモン量も減ってきます。これは低血糖による自律神経不全と言われ、体がだるくなりストレスにも弱くなるうつ状態になります。これが進行すると副腎疲労症候群となります。特に影響の強いのは、コルチゾールが不足することで、うつ状態やアレルギー症状を引き起こします。さらに、動悸、胸痛、手足のしびれ・冷え、肩こりの慢性化や性欲減退、生理不順、更年期症状の悪化につながります。副腎疲労の原因には、ストレスも大きく関与していますが、「隠れ低血糖」の影響も大きいのです。

 「隠れ低血糖」は、医者の間でも十分には知られておらず一般的な検査では異常がみられないため、誤った診断・治療を受けておられる人も多いと考えられます。気になる症状がある方は、一度血糖調節障害がないか疑ってみる必要があります。


参考文献:マキノ出版『疲労も肥満も「隠れ低血糖」が原因だった!』著者 溝口 徹


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