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夢と覚醒の隙間のギャラリー

ペラペラの世界(透明な国のチコ)絵本作家 中江嘉男     上野紀子の挑戦 絵本と言う名のオブジェ

2011-06-14 04:54:46 | 絵本

ペラペラの世界(透明な国のチコ)
文 構成 中江嘉男(Nakae Yoshio) 絵 上野紀子(Ueno Noriko)

  この世にこんな絵本が存在するかと唖然とした。それにしても凄い。タイトル通り透明なセルロイド紙に印刷されているからだ。ペラペラのセルロイドに描かれているペラペラの世界。ハードカバーを入れても1cm、ハードカバーを抜いたら0.5mmにも満たない。ペラペラにペラペラが重なって正直、絵も見にくいし文字も読めない。だから白い紙をあてて字を読む。絵を観る。絵は、現実世界の主人公・より目のチコと平面世界の住人ロッサムに限定され、とてもシンプルに構成されている。背景もできうる限り削いでいる。ふと思う。絵の裏に白い紙、赤い紙、青い紙、チラシ、新聞、風景写真、ダリの絵、ピカソの絵(何でも良い)を挟みこむことにより何千万通りの新しい世界が始まるのだ。平面上に現出した多元宇宙である。幼い頃、セルロイド製の下じきを翳してみた原風景を想い出さずにいられない。

 表紙扉には中央に穴が開いている。重なったセルロイドのページの向こう側に物語を通り越して透けた世界の裏側が見える。その穴を覗いた時点で、絵本作家 中江嘉男 上野紀子に仕掛けられたギミックに嵌まり、限りなく薄い二次元の世界に引きずりこまれてしまうわけだ。書物そのものがチコの望遠鏡になっているのと供に、実は読み手がチコそのものなのだ。読み手に行動を起こさせてしまう構造はマルセル・デュシャンの影響が色濃く反映されている。また、デュシャンの遺作『(1)落下する水、(2)照明用ガス、が与えられたとせよ』へのオマージュでもある。




     上 セルロイド紙の状態 下 白い紙を挟んだ状態


     上 セルロイド紙の状態 下 白い紙を挟んだ状態

 より目のチコは、いじめられるから友達と遊ばない。唯一、クリスマスの日に貰った望遠鏡が友達だ。ある時、望遠鏡の先の世界から現れたロッサムという大男に異なる次元の世界に誘われる。しかし望遠鏡の扉を開いたその世界は、デイ国とユー国という2つの大国が戦争している薄っぺらな世界だった。そしてチコは、人造人間の兵士ロッサムと供に否応なく2枚の大国の戦争に巻き込まれるのであった。

 著名な絵本作家 中江嘉男と上野紀子が自費出版という形で追求したことは、平面世界におけるイマジネーションが、終わることのない殺伐とした世界に影響を与えられると考えているからだ。ジョンのイマジンと同じ様に想像の蓄積が世界を変えてゆくのだと・・・。                                    Metro Gallery



そもそも「MUTATIONS」同様、本書に目をかけない出版社事態のあり方も問題だが、それよりもこの究極に薄っぺらな本書が、メディアを通して蔓延している本当の意味での薄っぺらな文化に、“本質”という警鐘を鳴らしていただきたいと願わずにいられない。

            巖谷 國士/中江 嘉男/上野 紀子 (大型本 - 2006/6) amazon

     絵本作家・アーティスト 中江嘉男・上野紀子ホームページ
                           自費出版の紹介ページ
           http://www.nezumikun.com/ehondouwa/jihi/


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