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夢と覚醒の隙間のギャラリー

The Bird King and other sketches  Shaun Tan 洋書絵本

2011-06-23 18:33:50 | 絵本

The Bird King and other sketches  Shaun Tan 
ザ・バードキング & アザ―スケッチズ ショーン・タン著が届いた。
「The Arrival」から2年半ぶりの新作です。1月に注文して現在は6月、半年間待った甲斐があった。Shaun Tanの世界観には夢がある。その夢はタダの夢ではない。怖さ・やさしさ・愛情など生きてゆく上での全てを内包している。



ハードカバーの持ち手が布製にて滑りにくくなっています。そしてゴムバンドでページが開かないようになっています。こういった読み手に優しいきめ細かな配慮が嬉しい限りです。







「The Bird King and other sketches」はタイトル通り物語と言うより、今までの作品、未発表作品のスケッチ及び油絵などの集大成です。絵本として購買すると裏切られますのでご注意下さい。しかし、今までの作品が好きな方はShaun Tanが創造してゆく世界の軌跡をかいまみることができます。また、古今東西の美術や絵画に影響を受けていることが伺える本書は、絵本作家を目指す方は良い勉強になることでしょう。                           Metro Gallery

Shaun Tan  HP          http://www.shauntan.net/


百鬼どんどろ・岡本芳一の映画「人形のいる風景~ドキュメント・オブ・百鬼どんどろ~」「VEIN~静脈~」

2011-06-20 00:49:08 | 映画

百鬼どんどろ・岡本芳一の映画「人形のいる風景~ドキュメント・オブ・百鬼どんどろ~」「VEIN~静脈~」が7月2日(土)から「渋谷アップリンクX」にて公開される。
監督・撮影・構成・編集: 渡邊世紀

岡本芳一・百鬼どんどろ
等身大人形と己の肉体を遣い、幻想的な情念の世界を繰り広げる独自の舞台表現の確立

 私が岡本芳一百鬼どんどろに初めて出会ったのは、二十数年前の初夏の夕暮れだった。たまたまジュースを買いに外に出た時、飯田文化会館の前がライトアップされていたので「何?」と思い見にいった。そこに、等身体の人形を抱えた白塗りの岡本芳一が立っていた。暫くしてカセットテープをポンと押し演目が始まった。観客は子供連れの家族2組と私一人。こういった人形劇を見慣れていない家族連れは五分程過ぎた頃立ち去った。観客は私一人。その頃、演目というより、人形の黒子としてただ舞っていたような気がする。額から流れ落ちる白い汗。無駄のないふくははぎの筋肉と足さばき。そして人形との一体感。凄まじかった。世界の全ての時が岡本芳一に傾いているような空間だった。終了後、アングラ劇、舞踊のことなど話したと思う。荷車を引いての6年間の旅芸人生活にピリオドを打ち、伊那谷に定住したばかりだった。
 その後、2.3回観にいった。初めて観た時のさざなみが立つような艶めかしさを私個人として感じることはできなかったが、やがて有名になり国内公演はもとより海外公演なども数多くこなしている。海外での評価も高く、1994年にはカンヌ国際人形劇祭最優秀賞を受賞している。また、ベルリン映画祭 国際批評家連盟賞を受賞した21世紀の罪と罰「へヴンズスト―リー」にも出演している。髄異形成症候群にて昨年永眠。享年62歳だった。           Metro Gallery

2011年7月2日(土)~22日(金)渋谷アップリンクXにて
連日21:00からレイトショー!!

「映し出されるのは、あなた自身の心」
人形演劇界において世界各国で高い評価を受ける岡本芳一が、
自らの舞台演目を、さらなる新しい表現として開花させた。
それが、「百鬼どんどろ」製作唯一の映像作品にして、
遺作となった映画「VEIN-静脈-」である。

台詞が全くなく、人形アニメでも3Dでもなく、舞台の記録映像でもない、
人形と演者が映画の登場人物としてドラマを紡ぐ、今までになかった、
新しい「映画」である。
そこに刻まれたのは
一人の表現者が己の運命を受け入れていくかのようにも見える
「極限の愛と痛みの物語」である。    VEIN~静脈~より抜粋

百鬼どんどろ・岡本芳一HP
http://www.yumehina.net/dondoro/index.htm

VEIN~静脈~
http://vein-dondoro.jimdo.com/


ペラペラの世界(透明な国のチコ)絵本作家 中江嘉男     上野紀子の挑戦 絵本と言う名のオブジェ

2011-06-14 04:54:46 | 絵本

ペラペラの世界(透明な国のチコ)
文 構成 中江嘉男(Nakae Yoshio) 絵 上野紀子(Ueno Noriko)

  この世にこんな絵本が存在するかと唖然とした。それにしても凄い。タイトル通り透明なセルロイド紙に印刷されているからだ。ペラペラのセルロイドに描かれているペラペラの世界。ハードカバーを入れても1cm、ハードカバーを抜いたら0.5mmにも満たない。ペラペラにペラペラが重なって正直、絵も見にくいし文字も読めない。だから白い紙をあてて字を読む。絵を観る。絵は、現実世界の主人公・より目のチコと平面世界の住人ロッサムに限定され、とてもシンプルに構成されている。背景もできうる限り削いでいる。ふと思う。絵の裏に白い紙、赤い紙、青い紙、チラシ、新聞、風景写真、ダリの絵、ピカソの絵(何でも良い)を挟みこむことにより何千万通りの新しい世界が始まるのだ。平面上に現出した多元宇宙である。幼い頃、セルロイド製の下じきを翳してみた原風景を想い出さずにいられない。

 表紙扉には中央に穴が開いている。重なったセルロイドのページの向こう側に物語を通り越して透けた世界の裏側が見える。その穴を覗いた時点で、絵本作家 中江嘉男 上野紀子に仕掛けられたギミックに嵌まり、限りなく薄い二次元の世界に引きずりこまれてしまうわけだ。書物そのものがチコの望遠鏡になっているのと供に、実は読み手がチコそのものなのだ。読み手に行動を起こさせてしまう構造はマルセル・デュシャンの影響が色濃く反映されている。また、デュシャンの遺作『(1)落下する水、(2)照明用ガス、が与えられたとせよ』へのオマージュでもある。




     上 セルロイド紙の状態 下 白い紙を挟んだ状態


     上 セルロイド紙の状態 下 白い紙を挟んだ状態

 より目のチコは、いじめられるから友達と遊ばない。唯一、クリスマスの日に貰った望遠鏡が友達だ。ある時、望遠鏡の先の世界から現れたロッサムという大男に異なる次元の世界に誘われる。しかし望遠鏡の扉を開いたその世界は、デイ国とユー国という2つの大国が戦争している薄っぺらな世界だった。そしてチコは、人造人間の兵士ロッサムと供に否応なく2枚の大国の戦争に巻き込まれるのであった。

 著名な絵本作家 中江嘉男と上野紀子が自費出版という形で追求したことは、平面世界におけるイマジネーションが、終わることのない殺伐とした世界に影響を与えられると考えているからだ。ジョンのイマジンと同じ様に想像の蓄積が世界を変えてゆくのだと・・・。                                    Metro Gallery



そもそも「MUTATIONS」同様、本書に目をかけない出版社事態のあり方も問題だが、それよりもこの究極に薄っぺらな本書が、メディアを通して蔓延している本当の意味での薄っぺらな文化に、“本質”という警鐘を鳴らしていただきたいと願わずにいられない。

            巖谷 國士/中江 嘉男/上野 紀子 (大型本 - 2006/6) amazon

     絵本作家・アーティスト 中江嘉男・上野紀子ホームページ
                           自費出版の紹介ページ
           http://www.nezumikun.com/ehondouwa/jihi/


夢と覚醒の隙間の絵本「MUTATIONS」突然変異達/偶然に依る唯虚空論  N&Y STUDIO

2011-06-10 21:57:57 | 絵本

絵本「MUTATIONS」ミューティションズ
文 吉岡 秧(Yoshioka Nae) 発行者 中江嘉男(Nakae Yoshio)
 7人7様(秋元茂 上野紀子 奥谷敏彦 中江嘉男 砂畑千恵 松崎亜子 吉岡秧)の個性を結集した実験的で奇妙な絵本である。絵本と言っても絵本の部類には収まることがない完全なるシュールレアリストアート本である。そもそも私には絵本と美術書の境界線が解らないし、誰がどの様にして判別するかも分からない。分類は出版社や書店がすれば良いことだと思っている。

 まず、初めにに表紙カバーに面食らう。歪で平面的な六角形の中の絵を追っていると、突然立方体に変容する。その立方体は一瞬正方形かと思うが、本を逆さまにして観るとこれまた歪な立方体なのである。脳が撹乱を起こす。MC・エッシャーやメビウス如く脳が騙されてしまうわけだ。「脳や視覚の電気信号に頼るな。感覚だけでみろ」と表紙が示唆しているような気がしてならない。
 書物は誰しもが1ページから読むものだと思いがちだが「MUTATIONS」はどのページから観ても良いように構成されている。ペラペラと捲ってたまたま開いたページ、表紙カバーの矢印が示すように中江嘉男から秋元茂へ上野紀子から・・・とそれぞれの絵画から絵画、文脈から文脈へと扉が開かれている。何故か昔観たルイス・ブニュエルの傑作映画「自由の幻想」をどことなく彷彿とさせる。
 今現在進んでいる視点は一定方向ではない。ありとあらゆる角度の視点と思考の集積から構成されている。現実と夢をみている世界、日常生活においてふとした瞬間に入り込んでしまう頭の中の世界、覚醒夢、明晰夢、そんな世界観を具現化した著作物が「MUTATIONS」なのではないかと勝手ながら思う。それこそ夢と覚醒の隙間の書物たる由縁である。
 この装丁にこの厚みと大きさ、私家版限定600部3500円、採算を度外視した本書の発行者 中江嘉男に賛辞を贈りたい。「MUTATIONS」が13年余りの刻を得て私の手元に出現したことこそ必然なのか?偶然なのか?エニシとは未知なるものだと実感する。未知だからこそ生きる限り生きてゆこうと思う。                                   Metro Gallery




         ↑秋元茂 Akimoto Shigeru↓

                  ↑上野紀子 Ueno Noriko↓

               ↑奥谷敏彦 Okuya Toshihiko↓

                 ↑中江嘉男 Nakae Yoshio↓

      ↑砂畑千恵 Sunahata Chie↓

                ↑ 松崎亜子 Matsuzaki Ako↓

この本はシュルレアリスムな絵本です。6人の画家がばらばらに絵を描きまったくことなる哲学を組み合わせた実験的な絵本です。オブジェとしての絵本でもあります。作品はオブジェであるべきという考えを作品にしたもので、普通の絵本の世界からは遠くはなれたものです。出版社が出したがらない売れない本そのものです。MUTATIONは突然変異の意ですが本の内容は突然変異論という新しい理論です。                                                                                   中江嘉男

絵本作家・アーティスト 中江嘉男・上野紀子 1940年生まれ

1975年「ぞうのぼたん」にてデビュ―。その後、数々の賞と「ねずみくん絵本シリーズ」「チコシリーズ」と発刊している大変著名な絵本作家である。また、故 瀧口修造と親交が厚く、2006年には「扉の国のチコ」 巖谷 國士と共著を出版している。
中江嘉男・上野紀子ホームページ
http://www.nezumikun.com/webehon/